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1 陰謀①

感情のジェットコースター!

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本日中に話を進めます。


 本日、わたしは王太子殿下との「禊の儀」を予定していたのだが、突如発生した瘴気だまりの浄化を優先し、婚礼に関する儀式を不意にしてしまったのだ。


 それを謝罪するため、婚約者であるフィリベールの執務室を訪ねると、彼から半ば強引にソファーに座らされ、しばし待つ。


 すると、彼が自ら淹れてくれたお茶が目の前に置かれた。

 わたし好みのオレンジの香りがするお茶を二口を飲んでもまだ、互いに話を切り出さず、無言が続く。


 彼が不機嫌なときに見せる、赤い髪をいじる仕草をしながら、王族特有の赤い瞳で、じぃっと真剣に見つめてくる。


 彼の触れている赤い髪。この国では赤は特別な色であり、王家の血を引く者しか、赤色を持つ者はいないのだ。


 ある意味、赤い頭髪と瞳を見せれば、名乗らずしても、王族であると証明できてしまう。


 彼は何か言いたげにも関わらず、なかなか口を開かない。カップをソーサーに置かず、わたしを見つめたまま。


 彼の視線が突き刺さり居心地が悪い。そうなれば、ついついお茶が進む。


 半分くらい飲んでしまったところで、自分から話を振ってみるかと考えた。

 そのため、音を立てないよう、そっとティーカップを戻す。

 すると、彼はちらりと時計を見てから、おもむろに口を開く。


「お前は次期筆頭聖女の影響力が、どれほどのものか試したようだが残念だったな」


「ぇ……。何が、ですか……」


「自分が望めば、陛下が立ち合う行事でさえ、中止にできると思ったのだろうが、『禊の儀』はリナと済ませた」


「はい? 『リナと済ませた』とは、何を仰っているのでしょうか?」


「ふん、お前でも、動揺するんだな」


「禊の儀は『中止される』と、リナから聞いたのですが? あれは妃と側室の立場に大きな優劣を付けるための儀式でしょう。まさかそれをリナと行ったと仰るのですか?」


「は? 何を言っている」

「ですから──」


「ああ〜煩い! あれはただの形式上の儀式に過ぎないが、禊の儀は、ベールで顔も見えないし、声も発しないからな、代役でも無事に済ませられた!」


「なんてことを……」


「ふん。筆頭聖女候補であっても、お前ごときでは、王宮を動かせないことが、やっと分かっただろう」


「そんなことは、露ほども考えてはおりません。全くの誤解ですわ。聖なる泉にリナと入ったのですか……それでは──」


「黙れ。いつもいつも功労者振りやがって!」


「功労者って……なんのことでしょうか」


 確かに心あたりはあるのだが、それらは陛下夫妻や大司教しか知らないこと。

 一体どれを指しているのか分からない以上、危うく口を滑らすわけにもいかない。


「これまでお前に騙されていたが、今日、お前が森の奥に瘴気だまりを発生させたことに、私が気づいていないと思っているのか? 全て、お前の仕組んだものだろう」


「──え?」

 何を言っているんだ、この王太子は……。


 今の今まで、文句たらたら瘴気だまりを浄化してきたというのに、わたしが瘴気を発生させたと思っているのか⁉︎


 全くもって出鱈目だが、それを伝えるより先に、婚約破棄に関する魔法の念書をガラス天板のローテーブルへ、バンッと音を立てて置いた。


 その白い紙をちらりと見れば、勝手に『ジュディット・ル・ドゥメリー』とわたしの名前が書かれてある。


 あ~なるほどね。

 わたしが魔力を通せば、婚約破棄が成立するわけ

だ。


 それは一向に構わない。

 わたしの話を全く聞こうともせず、問答無用に詰め寄る彼のことなど、むしろ、こっちの方が願い下げだ。

 こんな人とは結婚なんてしたくもない。


 早くあの念書に魔力を通して関係を断ち切ろう、と考えたが、まだ駄目だ。


 彼がわたしの体に刻んだ魔法契約を解呪してもらうのが先である。

 彼との関係を切ったあとでは、たとえ公爵令嬢であろうと、王太子の彼に二度と接近できなくなるはず。


 それでは右肩にある魔法契約を、解呪してもらえない。

 簡単に同意してなるものか。

 こちらの願いを聞いてもらってからだ。焦るな。今はまだ駄目だ。

 そう考えて、すました口調で返す


「わたくしは、やましいことなどしておりませんわ」


「自分の罪を認めないつもりか! 先日、王都に突如出現した瘴気だまり。あれも、お前が浄化したが、ジュディットの仕込んだ黒魔術が原因だと、調べがついているんだ」


「嘘です。どこのどなたの証言か存じませんが、わたくしはそのようなことをしておりませんわ」


 黒魔術など、断頭台ものの重犯罪だ。そんな罪を被せられれば、聖女といえど、ただじゃ済まない。


 お願いだ。王太子なんだから、そんなことに騙される愚かなことを言うなと、慌てて否定する。

 そうすれば彼は執務室に続く書斎を見やり、「ジュディットが否定している。入れ!」と告げた。


 すると、わたしがよく知る三人が、ぞろぞろとこの場に姿を現した。


「リナ……。それに、お父様にお継母様。どうしてこちらに……」


「リナはね。お姉様を庇いたてるのは、国民のためにならないと悩んでいたのです」


「一体なんのことかしら?」


「魔力の大きいリナを、お姉様が恐れていたのは知っていますわ。ですから、リナに筆頭聖女の立場を奪われないために、お姉様がわざとに瘴気だまりを発生させ、魔物を生み出していたのでしょう」


 妹が、とんでもない作り話をすれば、「なんて恐ろしい女なの!」と、悲鳴交じりの継母の声が聞こえた。


 はっとして継母を見やれば、口を押さえて青ざめているではないか。


 ──一体何が、どうなっているのだ! まるで事態が掴めない。



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