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12 あなたは誰④

日曜日に、本作の【短編版】を投稿します。


その短編に、長編に未掲載シーンを含めているため、今話と次話の裏話が明かされます。

詳細は、後書きに記載しますので、ご確認ください。

 それも、わたしがどこかのお嬢様に見えると、度を超えた勘違いをされているのだ。


 そんな馬鹿げた話をされても、アンドレだって困り果てているじゃない。かわいそうに。


 カステン辺境伯がなんと言おうとも、困惑するアンドレとわたしの見解は同じ。どう考えてもわたしがお嬢様なんてあり得ない。


 決して威張って言えることではないが、私はアンドレから「どうしようもない人物」と評価されているのだ。

 そんなわたしが相当な教育を受けたご令嬢なわけがない。


 わたしなんて、少し前は転売疑惑をかけられた犯罪者。

 それを否定したものの、今は、自分よがりで欲深い魔力なし認定を下された身だ。悲しいことに。


 なんとか汚名を払拭したいと思っていた矢先に、今度は誘拐疑惑だもの。


 ──いや。ひょっとして。わたしってば、凄い大金持ちのご令嬢だったりして。

 両親が心配して、お屋敷の従者総出でお嬢様を捜索してくれているかもしれないわよ。


 ふふっ、それって夢があるわね。


 己の中でありもしない妄想が膨らみ、にんまりとしたところで、アンドレから向けられる冷静な視線を感じた。


 にやけ顔を見られたのが恥ずかしくなり、慌てて気を取り直す。


 ははっ。ない、ない、ない。お嬢様なんてないな、と全力で首を振って否定する。


 魔力なしが貴族籍にいるとは、到底思えない。

 良家に魔力なしはそもそも生まれないし、万一そんな子が誕生すれば、孤児院へ捨てるだろう。その家の恥だし。


 魔力計測器が反応しない時点で、お嬢様要素は一ミリたりともないんだから、いくらなんでも飛躍しすぎよね。


 そうこうしていると、アンドレとカステン辺境伯の空気が、凄い険悪な雰囲気になってきた。


 ──まいったな。


 何度も躊躇っている彼の家へ強引に転がり込んだのは、やはり問題だったのだろうか。


 辺境伯の剣幕を見せられてしまえば、さすがに出ていくべきだと、弱気になってしまうレベルである。

 

 そもそもの元凶は自分なのに。

 わたしを拾ってくれたアンドレが、意味もなく怒られる事態になってしまったのだ。


 けれど、彼と離れることを想像すると……、それはそれで、ざわざわと胸騒ぎが起こる。

 何としても彼と一緒にいたい。


 不安に駆られ手がじっとりと湿ってきたとき、アンドレの優しい声がした。


「ジュディは一度、部屋へ戻ってくれませんか。イヴァン卿と二人で仕事の話をしたいから」


 表情がこわばっていたアンドレが、心配するなと言わんばかりの笑顔を見せてきた。


 エントランスの空気がぴりぴりしている中、アンドレへ「分かったわ」と静かに伝えると、「申し訳ないね」と少しも悪くない彼から謝られた。


 そして、カステン辺境伯にペコリと頭を下げて、わたしが借りることになった部屋へと向かった。


 わたしから挨拶をされた辺境伯は、表情一つ変えず、なんの反応もしなかったけど。


◇◇◇

【SIDEアンドレ】


 ジュディはこの場から立ち去ったが、イヴァン卿から鋭く睨まれたまま。

 僕が得体の知れない貴族を誘拐したと勘違いされている。

 僕のことを一番知っているくせに、一体どうしたというのだと考えていれば、ここ一週間、イヴァン卿を避けていたからな気がする。


 確かに今の僕は、やけを起こしたと思われても、おかしくはない。


 想いを寄せる彼女に、どうしても会いたくて、いつもとは違う動きをしていた自覚はある。


 社交場はおろか、国の公式行事さえ顔を出さないあの方が心配で。

 世間では、幻の聖女と呼ばれている彼女に、一目会いたい衝動が抑えられず……馬鹿なことをした。


 ——森の中でジュディに遭遇しなければ、あのまま王都まで向かっていただろう。王宮にいるはずの彼女に会うために。


 もし、本当に見かけてしまえば、連れ去ってきた気がしてならない。


 今に思えば、なんて無茶なことを考えていたんだ。完全に冷静さを失い自分らしくなかった。


 ──それもこれもイヴァン卿のせいだ……。

 僕の存在をカモフラージュするために、常に傍にいるイヴァン卿。お目付け役なのに、兄や友人のように僕を心配してくれている。


 彼は「王太子殿下は婚約者を入れ替える」と言い続けていた。毎日のように。

 責めたいところだが、僕を心配するイヴァン卿にとっても切望だったと、僕自身が一番理解している。


 なるべく真に受けないよう、「期待しないで待っている」と言い続けていたが、内心、王室から「王太子の婚約解消」の公表を心待ちにしていた。


 だが結局。彼の予想は大きく外れ、残ったのは、行き場を失った期待感と、絶望だけ。

 長年、余計なことばかり聞かせてくれたなと、恨めしく思う。


 毎年、僕を案ずる手紙を送ってくれるジュディット様。その彼女の結婚式が、とうとう三週間後に迫る。


 イヴァン卿が熱弁を奮う「婚約の解消説」は、全くの的外れだったけれど、ジュディット様の妹と王太子殿下は恋人同士なのだろう……。


 王宮で仲睦まじい彼らの姿を見かけたというのだから、これに関しては間違いないはずだ。

 このまま結婚して彼女は幸せなのだろうかと、彼女を思えば放っておけなかった……。


 愚かだな。心配するのも分不相応の僕が何を考えているんだ。きっと彼女は僕より遥かに幸せな場所にいる。


 そんな失恋相手のことよりも、自分の心配をすべきだろう。以前から警戒していた僕の処分。その時が来たようだ。


 確かに、少し前に見せたジュディのカーテシーは美しくて完璧だった。

 本来あるべき角度へ、寸分の狂いもなく体を動かした。

 精巧な礼はそう容易くできることじゃない。

 何があってもブレないように、彼女の体に叩き込まれていた。


 ──やはり、ジュディは僕の刺客で間違いないみたいだ。


お読みいただきありがとうございます。

投稿予定の【短編版】は、サブタイトルである〜真実〜〜がない、主タイトルのみで投稿します。長編とお間違いのないようご留意ください。


【短編版】は3人称で話が進みます。

各話のサブタイトルに、その話の中心人物の名前を含めるので、選択してお読みください。

但し、王太子のシーンはここより先の話ですので、まだ、読みたくない場合は避ける事をお勧めいたします。作品の冒頭概要が短編となります。


日曜日、投稿前のチェックが出来次第、サクサク連投します。

(これが結構時間がかかるので、ちっともサクサクじゃないかもでして、あらかじめ、ごめんなさいとお伝えしておきます)。


◆完結◆した際には★★★★★で評価をいただけると、大変励みになります。

何卒、よろしくお願いします。


長編版のサブタイトルの意味は、本作のみで回収します。

すれ違う2人ともどかしい葛藤を描いた、長編版を引き続き読み進めていただけると嬉しいです。


短編は、長編に含めていない、アンドレとリナ視点に注目いただければ幸いです。

※冒頭数行ネタバレ注意報です。


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