おっさん、クレアさんと出会う
……まあ、今は良い。
その辺りも、この女性が教えてくれるかもしれない。
……怖がらせてなければ良いが。
なにせ、昔から女性には怖がられてきたし。
女性経験が全くないというわけでもないが、間違ってもモテた経験はない。
「す、凄い……オーガを容易く倒してしまうとは」
「えっと……お怪我はありませんか?」
振り返ると、そこには銀髪ロングの美女がいた。
多分、年は二十歳を超えくらいで、身長は170くらい。
鎧を着ているのでわからないが、多分スタイルも良いだろう。
「あ、ああ、おかげさまでな。連れの者も死なずに済んだ、本当に感謝する」
「……」
「ん? どうかしただろうか?」
「い、いえ、何でもないです」
いかん、ついつい見とれてしまった。
まあ、無理もない。
前の世界では見たことないような綺麗な方だし、俺自身女性には疎いし。
「それなら良いが……とりあえず、自己紹介から始めよう。私の名前は、クレア-アラドールという。この先の都市にて、冒険者をしている。そこに倒れているのは、仲間のミレーユだ」
「ご丁寧にありがとうございます。俺の名前は、土方相馬と言います。えっと……この向こうにある村から来ました」
「苗字がある? ということは、貴族の家の者か? それとも、豪商の家出身? いや、そもそも村から来た? そういえば、この近くに村があると聞いたことが……」
あっ、まずいな。
苗字は偉い人だけなのか……そういや、昔はそうだったっけ。
……ここは、嘘をつかない方が良さそうだ。
一応、命の恩人に当たるし、そこまで酷いことにはならないと……思いたい。
「その前に、俺の方も連れがいまして……ソラ! 来てくれ!」
「は、はい!」
木の陰から、ソラが駆け寄ってくる。
そして、俺の後ろに隠れる。
「むっ? ……獣人族か。随分と汚れてるな……まさか、奴隷か?」
「っ……!」
「ソラ、平気だ。その辺りも含めて、お話します」
ひとまず、俺がわかる範囲の説明をする。
いきなりこの世界に来たこと、偶然ドラゴンを倒したこと。
その場にこの子がいて、訳あって引き取ったことを。
「なるほど、突然ドラゴンが現れたのか。都市には情報が来ていないが……急すぎて報告がいってないのか。そして、異世界人……伝承では聞いたことあるが、実際するとはな」
「すみません、嘘くさいですよね」
これが逆の立場で、前の世界で出会った人にいきなり異世界から来ましたって言われても……まあ、信じることは難しいだろう。
「まあ、そうだが……それは後でわかるからいい。それに、そんな意味のない嘘をつく必要はないしな」
「それはどういう……?」
「説明するより、都市に行ってやって見せた方が早い。だが異世界人はともかく、ドラゴンを倒したなら証拠があるはすだ」
「あっ、それならこれがあります」
ポシェットの中から、拳大の白銀色の宝石を出す。
「白銀色の魔石……少なくとも、ドラゴン並みの魔物を倒した証拠だ」
「預けますか?」
「いや、良い。それは倒したそなたが持つものだ……というより、礼がまだだった。ドラゴンは国を滅ぼすほどの厄災だ。それを倒してくれこと、国を代表して感謝する」
「いえいえ、頭をあげてください。別にたまたまですし」
「たまたまで倒せるものではないのだが……ちなみに、どうやって倒したか聞いても?」
「えっと、これが刺さったのだと思います」
ポシェットの中から、持っていた包丁を取り出す。
すると、その刀身は黒く染まっていた。
「あれ? 前は銀色だったのに……」
「それは、ブラックドラゴンを倒したからだろう。その力の一部が刀の中に入ったに違いない。しかし、これで倒せるとは……やはり、逆鱗に直撃したか?」
「逆鱗ですか?」
「ああ、最強と言われるドラゴンにも弱点がある。それが、何万とある鱗のうちの一つである逆鱗という鱗だ。ここを突かれると、ドラゴンはショック死してしまうらしい。と言っても見た目は変わらないし、どこにあるのかも個体差がある」
「では、よっぽど運が良かったのですね」
「ああ、そうだろう……いかんいかん。とりあえず、続きは移動しながら話そう。幸い、馬車は無事のようだし」
彼女の視線の先を追うと、少し離れた場所に馬車あった。
「わかりました。では、その女性を中に乗せましょう」
「ああ。怪我こそ癒したが、気を失っているからな。すまないが、手伝ってくれると助かる」
「ええ、もちろんです」
その後、気絶した女性馬車の中に乗せる。
そして御者にクレアさんが、その隣に俺が座り、膝の上にソラを乗せる。
「それでは、ひとまず出発しよう」
「ええ、お願いします。ところで、ソラ……馬車の中じゃなくて良いのか? だいぶ疲れてるだろう?」
「はいっ! ここが良いです!」
「そ、そうか」
「ここが良いんてす……」
すると、フラフラと頭が揺れ……俺の身体に身を預ける。
「すぅ……」
「まいったな」
どうやら、寝てしまったらしい。
やはり、相当疲れていたようだ。
俺もそうだが、ソラにとっても濃い時間だったに違いない。
「ふふ、懐かれてるな」
「はは、そうだと良いですけど」
その姿に、俺とクレアさんは微笑み合うのだった。
まだ油断はできないが、良い人そうで安心だ。