008・狼の子供
ついにモフモフ登場です♪
第8話になります。
よろしくお願いします。
早いもので、姉さんと暮らし始めてから、1ヶ月ほどが過ぎた。
僕も『姉』のいる生活には、だいぶ慣れたと思う。
姉さんも、少しは慣れてくれたかな……?
とはいえ、日々に大きな変化もなくて、僕と姉さんは、今日も薬草を求めて森へと向かったんだ。
「これはオリビエの葉、鎮痛作用があるんだ。こっちのグリエの根っこは、煎じると解熱作用があるんだよ。このダリア草は、胃腸に良くて――」
1つ1つ、薬草の説明をしながら、森を歩く。
姉さんは真剣な顔で、
「う、うん」
と、僕の話を聞いてくれていた。
…………。
そんな姉さんの長い金色の前髪は、後ろで縛られていた。
だから、表情がよく見える。
目元を隠さなくなった姉さんは、
(……やっぱり、美人だよね?)
と思った。
12歳でこれだけ美人なら、大人になったら、どれだけの美女になるんだろう? ちょっと怖いです。
と、視線に気づいて、
「ア、アナリス?」
姉さんは不思議そうな顔をした。
…………。
その顔も可愛いよね?
僕は笑いながら「ううん、何でもない」と誤魔化した。
「???」
姉さんは長い金髪を肩からこぼして、首をかしげていた。
姉さんとは、ほぼ毎日、森に通っている。
家に帰ったら、裏庭で、槍と山刀の練習を一緒にするのも日課となっていた。
姉弟としての仲は、うん、悪くないと思うよ?
喧嘩もないし、姉さんは優しいしね。
姉さんと、父さん、母さんとは、まだ少しぎこちない気もしているけど、
(まぁ、少しずつ……かな)
時間が必要なこともあると思うんだ。
そんな感じで、僕も『姉さん』がいる日々を楽しく過ごしていたんだ。
「アナリスは……凄いよね」
休憩中、木の根を椅子にして甘い果実を食べている時、姉さんにそんなことを言われた。
え?
キョトンと見返すと、
「森の薬草のこと、いっぱい知ってるんだもの。……本当に凄いと思うの」
「…………」
そうかな?
(2年もすれば、普通だと思うけど……)
でも、姉さんは僕を見つめて、
「まだ5歳なのに、私、アナリスは偉いと思う」
と微笑んだ。
…………。
うん、その美人な顔で笑うのは反則だ。
僕はつい赤くなってしまって、「あ、ありがと」と答えるのが精一杯だった。
そんな僕に、姉さんは優しい顔である。
ん、んん。
先輩としての威厳がなくなる前に、僕らは『薬草摘み』を再開することにした。
サクッ サクッ
ナイフを手に、しばらく採取を続ける。
その時だった。
「あら?」
姉さんが声をあげた。
(ん?)
どうしたの? と振り返ると、姉さんの視線と指が奥の茂みを示していた。
僕の視線も、それを追いかける。
(あ)
そこに、子犬が倒れていた。
全身に怪我をしていて、流れた血が地面に染みを作っている。
「…………」
「…………」
僕と姉さんは、顔を見合わせる。
1つ頷き合って、2人でそちらへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
「狼の子供……かな?」
近づいて、そうわかった。
そこにいたのは、体長30センチほどの灰色の体毛をした子狼だったんだ。
顔もまだ丸っこい。
でも、他の肉食獣に襲われたのか、全身に怪我をしていた。
「……い、痛そう」
姉さんは口元を押さえ、青ざめている。
(……ん)
息はしてるけど、弱々しい。
…………。
周囲を見るけれど、親らしい狼や群れなどはいないみたいだった。
はぐれたのかな?
あるいは……捨てられたのかも……。
野生の動物の中には、生まれつき弱い個体や病気の個体は見捨てられて、親が育てないこともあるんだよね。
厳しい世界なんだ。
「…………」
ギュッ
思わず、自分の心臓辺りの服を掴んでしまう。
アナリスは、健康だ。
でも、前世の僕は、生まれつき心臓に欠陥があった。
もし、僕がこの子狼だったら……?
そんな想像をしたら、心が苦しくなってしまった。
(……うん)
僕は、狼の子供へと近づいた。
灰色の毛に触れる。
ピクッ
それに反応して、薄っすら目を開けた。
金色の瞳だ。
でも、動く体力もないのか、ただ、こちらを見ているだけだった。
「ア、アナリス?」
姉さんが心配そうに声をかけてくる。
僕は答えず、リュックを地面に下ろして、中から皮袋の水筒を取り出した。
パシャ パシャ
その水で、子狼の傷口の汚れを洗ってやる。
それから摘んだばかりの薬草を取り出して、指ですり潰し、それを傷口に塗り込んだ。
オリビエの葉だ。
炎症を抑える鎮痛作用がある。
傷を塞ぐことで止血にもなるし、生だと殺菌消毒の効果もあるんだ。
「んしょ」
ビリッ
ナイフで服の袖を裂き、包帯を作って、それで薬草を塗り込んだ傷口を覆っていった。
あとは、
(栄養……かな?)
リュックを漁り、保存食として持ってきた干し肉を取り出した。
それを口に入れ、噛む。
アグ アグ
硬かった肉が柔らかくなった。
(よし)
僕は、それを子狼の丸っこい口元へと押しつけた。
「お食べ」
『…………』
金色の目が、こちらを見つめる。
アグ ムチャ……
その口が開き、気だるそうにそれを咥えて、食べ始めた。
うん、いい子だ。
弱っていても、懸命に生きようとしている――その姿は、なんだか眩しかった。
姉さんも、ホッとした顔だ。
…………。
そのあと、僕らは柔らかくした干し肉3つと凹んだ石に水を入れて、その子の前に置いておいた。
ここから先は、この子次第だ。
これ以上、僕らにできることは何もない。
あとは、野生の生命力を信じよう。
『…………』
その子狼は、伏せたまま、ジッとこちらを見ていた。
その頭を、軽く撫でる。
希望を込めて、
「またね」
そう声をかけた。
それから僕と姉さんは、その場を離れていった。
…………。
姉さんと2人、森を歩く。
すると、
「……きっと大丈夫だよ」
不意に姉さんが言った。
え?
こちらを優しい眼差しで見つめながら、
「あの子は、きっと助かる。だって、アナリスの優しさがわかってたもの。だから、きっと生きようとしてくれるよ」
「…………」
咄嗟に何も言えなかった。
でも、小さく頷く。
姉さんは笑って、そんな僕の頭を撫でてくれた。
チラッ
一瞬だけ、あの子のいた方を振り返る。
(……がんばれ)
そして、また前を向いて歩きだした。
ご覧いただき、ありがとうございました。
本日、もう1話更新予定です。