079・後日譚
第79話になります。
よろしくお願いします。
あれから、1ヶ月が経った。
捕縛されたルイーズ元伯爵は、厳しい取り調べの末、処刑された。
ルイーズ家は断絶。
トールバキン伯爵様がおっしゃられていた通りに、家そのものが取り潰しとなった。
…………。
一時、領都はその話題で賑わった。
ルイーズ家の悪行は糾弾され、それを暴いたトールバキン家は正義の貴族としてもてはやされた。
新聞もそんな内容ばかりだった。
でも、最近、ようやくそれも落ち着いてきた感じだ。
その内、この話題も消えていくのかな……?
多くの人が死に、苦しんで、けれど、その事実も時の流れに押し流されていく。
…………。
何だか、少しだけ寂しい気持ちだった。
僕らは、日常に戻った。
冒険者ギルドに通い、クエストをこなす――そんな日々だ。
…………。
そんなある日、トールバキン伯爵家から調査報告が届いた。
内容は、クレイマンについて。
捕縛後の調査で、ルイーズ伯爵家は優秀な手駒としてクレイマンを雇っていたことが判明したそうだ。
ルイーズ家は邪魔な人間をクレイマンに殺させ、クレイマンは実験に必要な素材をそれで確保し、実験のための隠れ家なども用意してもらっていたという。
互いの利益が噛み合ったのだ。
…………。
それを知った時のアリアさんは、何とも言えない表情だった。
悔しそうな、諦めたような、そんな顔。
……もし。
もし、ルイーズ伯爵と出会わなければ、その罪を後押しされなければ、クレイマンは止まれたのだろうか?
「…………」
わからない。
でも、今とはもう少し違う結末もあったのでは……? 僕は、そんなことを思ってしまうんだ。
報告を受けた翌日、アリアさんは1人で、領都にあるレクトア神殿へと足を運んだ。
ただ祈りを捧げ、そして家に帰ってきた。
亡き母に。
守れなかった妹に。
そして……罪深き父のために、彼女は祈ったのかもしれない。
…………。
それでいいと思った。
クレイマンを許さない人は大勢いる。
でも、彼女だけは……。
「…………」
帰ってきた彼女は、いつも通りに見えた。
……うん。
いつか彼女の心の傷も癒されることを、僕も心の中でレクトア神に祈ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
あの捕り物のあと、僕は『黄印の冒険者』に1つランクアップした。
(え、いいの?)
聞いた時は、正直、驚いた。
実は『ルイーズ元伯爵の捕縛』は、トールバキン伯爵家からの指名依頼になってたんだって。
貴族の依頼。
ギルド貢献度も高く設定されていた。
また伯爵様からの口添えもあって、僕の『昇印』は成立してしまったそうなのだ。
登録からたった3ヶ月。
僕としては『本当にいいのか?』という気持ちだ。
でも、姉さんは、
「やったね、アナリス」
と喜んで、僕を抱きしめてくれた。
レイさんも「さすが、アナリス君だ」と笑い、アリアさんも「素直に喜んどきなさいよ」と言った。
…………。
3人に言われて、僕もようやく受け入れた。
きっと、僕1人なら無理だった。
でも、僕には頼れるダークウルフの相棒がいて、きっと彼女と2人の評価としてのランクアップなんだと思うことにした。
なので、
モフモフモフ……
その感謝も込めて、庭で、ミカヅキをいっぱいブラッシングしてあげた。
手を動かしながら、
「気持ちいい?」
と問いかけた。
ミカヅキは『クゥン……♪』と唸って、金色の目を細めていた。
ゴロン
巨体を芝生に寝転がして、大きなおなかを見せながら『もっとして!』とアピールしてきた。
僕は笑って、期待に応えた。
黒い毛がたくさん抜けて、この毛玉でクッションでも作れそうだ。
モフモフ
小さな身体で、懸命にブラッシングする。
そんな僕の首下で冒険者証の金属プレートが揺れて、刻まれた魔法印がキラキラと黄色い光を散らしていた。
◇◇◇◇◇◇◇
その日は、冒険は休みだった。
僕と姉さんは、自室でのんびりとくつろいで、他愛もない会話をしていた。
その時、
コンコン
「ユフィ、アンタに手紙が届いてるわよ?」
と、アリアさんの声がした。
(手紙?)
部屋の戸を開け、姉さんは「ありがとう、アリア」と封筒を受け取った。
「何だろうね?」
そう言いながら、僕の方へと戻ってくる。
ポフッ
椅子代わりにしていたベッドに座った。
僕もその隣へ。
姉さんが封筒を裏返すと、差出人は『領都アルパディア 冒険者ギルドより』とあった。
……冒険者ギルドから……?
姉さんも怪訝そうだ。
封筒を開いて、中の手紙を取り出した。
「…………」
その文面に目を通していく。
すると、
「!」
姉さんの表情が驚きに染まった。
(……姉さん?)
しばらく放心してから、姉さんはその手紙を僕にも渡してくれた。
受け取り、中身を読む。
…………。
…………。
……えっ?
僕も驚いた。
その手紙に書かれていたのは、
『ダンジョン遺跡の奥で、5年前に行方不明になった伯母さんの所持品の1つが見つかった』
という内容だったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回が最終話となりますので、よかったらどうか最後まで見届けてやって下さいね。




