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転生した弓使い少年の村人冒険ライフ! ~従姉妹の金髪お姉さんとモフモフ狼もいる楽しい日々です♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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078・断罪の決着

第78話になります。

よろしくお願いします。

「……馬鹿……な……?」


 草原に倒れたクレイマンは、呟いた。


 コポッ


 言葉に合わせて、口から血の泡が吹く。


 胸とお腹に負った傷は深く、今も血は止まらずに、その表情には死相が滲んでいた。


 …………。


 アリアさん、レイさんもやって来た。


 実の父を見下ろして、


「……父さん」


 アリアさんは感情のない声で呟いた。


 表情には、怒りも、悲しみも何もなく、空虚ささえ感じられた。


 クレイマンは必死の形相だ。


「死ねぬ……っ。私は、まだ死ねぬ。エレーナを生き返らせるまでは……苦労をかけた分、幸福にするまでは死ねぬのだ」


 血濡れの手が伸びる。


 ガッ


 アリアさんの腕を掴んだ。


 爪が皮膚に食い込んでいる。


 でも、その痛みでも、アリアさんは表情を変えなかった。


「助けて……くれ」


 彼はすがった。


 死を前にして、実の娘に。


 けれど、アリアさんは答えない。


 何もしない。


 クレイマンの瞳に、絶望が滲んだ。


「あぁ……女神レクトアよ。なぜ私の妻に病を与え、あのように苦しめた? この世の多くの人が最愛の人と共にあることを許しながら、なぜ私たちからは奪うのだ……?」


 怨嗟の声。


 その形相が悲壮に歪む。


「エレーナの幸せのためならば……世界中の人間が死のうと構わない。娘の命だとて、くれてやろう。……なのに、なぜエレーナを苦しめ、その生の喜びを奪ったのだ?」


 ミシッ


 アリアさんの腕を掴む奴の指に力が入る。


 皮膚が裂け、血が流れた。


 それでも、アリアさんの表情は変わらなかった。


 クレイマンにとっては、妻であるエレーナさんが世界の全てであり、生きる希望だったのだろう。


 それが失われて、彼は狂った。


 誰も……実の娘のアリアさんでも止めれない狂気に堕ちてしまったのだ。


 クレイマンは「なぜだ……なぜだ?」と繰り返した。


 その声から、少しずつ生気が消えていく。


 もはや、その目は何も見えていないみたいだった。


 僕は唇を噛み締め、その姿を見ていた。


 姉さん、レイさんも黙って、その死にゆく様を見つめていた。


 そして、アリアさんは、


「さよなら、父さん」


 最後に少しだけ優しい声で、そう囁いた。


 …………。


 それがクレイマンに聞こえていたかはわからない。


 ただ、奴は両目を開いたまま、怨嗟と絶望に満ちた形相で天を睨んで――その生命の最期を迎えた。


 アリアさんの腕は掴んだまま。


 グッ


 そんな父の手を、アリアさんは外した。


 破れた傷から、血が流れている。


 ポタ ポタ


 アリアさんは泣きもせず、ただその血だけが地面にこぼれ落ちていた。


「…………」


 僕はハンカチを取り出した。


 ギュッ


 彼女の傷を強く縛る。


 それで、アリアさんはようやく僕に気づいた顔をした。


 小さくはにかみ、


「……ありがと」


 そう泣きそうな声で言うと、目を閉じた。


 …………。


 長年、罪なき人々を殺し続けたクレイマンという狂ったエルフは、こうして人生の終焉を迎えたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 騎士団と3匹の巨大ムカデの戦いも決着した。


 クレイマンの支配が消えたことで魔物の動きは統制を失い、ミカヅキの参戦もあって、あっさりと倒されてしまったのだ。


 ブチブチ


 ミカヅキは、その胴体を引き千切る。


 3つ、4つに引き千切られても、まだ無数の足が動いていた。


 生命力だけは強いみたい。


 でも、騎士たちが次々と剣を突き立てれば、その動きもやがて止まっていった。


 …………。


 そして護衛たちも倒され、ルイーズ元伯爵は捕らえられた。




 トールバキン伯爵様のいた古い砦の方の戦いも、無事に勝利したみたいだ。


 争いの喧噪は止み、代わりに勝鬨が聞こえていた。


 …………。


 やがて、縄で縛られたルイーズ元伯爵が、馬上のトールバキン伯爵様の前に引き摺られるように連れ出された。


 お互い、長く争ってきた因縁の相手だ。


 2人はしばらく睨み合う。


 すると、元伯爵が口を開いた。


「ふん……政治を知らぬ愚か者が。人の世は、理と欲が支配している。理しか見ぬ貴様では、世の歪みが広がり、より大きな悲劇が生まれるだけだ」


 皮肉そうな声だ。


 伯爵様は、表情を変えない。


 太った元伯爵は、


「人の欲は消えぬ! 私はそれを導くことで制御し、より多くの破滅を防いだのだ! 断言しよう! この先、アルパ領は衰退する! 制御を失った欲たちが世界を蹂躙し、多くの人々が死んでいくのだ! 貴様らが殺すのだ! 覚えておくがいい、愚かなトールバキンどもよ!」


 そう叫んだ。


 戯言と呼ぶには、真に迫った声だ。


 彼自身は、きっとそう信じていたのだろう。


 自分の行いが、人の世の安定に繋がっていたのだと心から思っていたのだろう。


(…………)


 僕には、政治はわからない。


 でも、それで罪なき人々を、クリスティーナ様を殺していいとは、どうしても思えなかった。


 ルイーズ元伯爵は哄笑する。


 伯爵様は、それを静かに見つめ、「連れていけ」と部下に指示を出した。


 縛られたまま、事件の黒幕は引き摺られていく。


 その笑い声だけが、いつまでも響いていた。


 …………。


 トールバキン伯爵様は、重そうに吐息をこぼした。


 それから、僕らを見る。


 特に、アリアさんの表情を見つめて、


「どうやら、そちらの決着もつけられたようだな」


 と言った。


 僕らは頷いた。


 伯爵様も頷いて「詳しい話は後日、聞こう」とおっしゃった。


 それから、表情を和らげる。


「今日はご苦労だった」


 労いの言葉だ。


 彼の温かな心に触れた気がして、僕らは深く頭を下げた。


 そうして、トールバキン伯爵様は、他の騎士たちを率いて、僕らの前から去っていった。


 僕らは、その背を見送る。


 ズキッ


(……っ)


 その時、火傷が痛んで、僕は少しよろけてしまった。


 すぐに姉さんに抱きしめられ、支えられた。


「アナリス、大丈夫?」


 心配そうに覗き込まれる。


 そんな姉さん自身も、クレイマンの魔法であちこちに怪我をしていた。


 でも、その瞳は僕だけを見ていた。


 …………。


 僕は「うん」と微笑んだ。


 その笑顔に、姉さんも安心したように微笑んでくれた。


 …………。


 戦いは終わった――姉さんの笑顔を見て、僕はようやく、その事実を深く実感したんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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