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転生した弓使い少年の村人冒険ライフ! ~従姉妹の金髪お姉さんとモフモフ狼もいる楽しい日々です♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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076・届かぬ言葉

第76話になります。

よろしくお願いします。

 チリィン


 不吉な音色が低く、小さく鳴らされた。


 あれは……!


 前にクレイマンに襲撃された時、ミノタウロスを操っていた『呼び鈴』と同じに見えた。


 次の瞬間、


 ドゴォオン


 足元の地面を突き破って、体長10メードはある巨大ムカデが3匹も出現した。


「うおっ!?」

「く……っ?」


 トールバキン家の騎士たちが何人か、後方へと弾かれる。


 ルイーズ元伯爵と護衛たちは、その隙に包囲網を逃れようとして、トールバキン家の騎士たちに襲いかかった。


 ガン ギィン


 火花と共に金属音が鳴り響く。


 戦闘が始まった。


 3匹の巨大ムカデには、トールバキン家の騎士たちが40人で立ち向かい、残った10人がルイーズ元伯爵らの逃走を防ごうとしていた。


 一方で、クレイマンは動かない。


 僕、姉さん、ミカヅキ、レイさん、そしてアリアさんの正面に立っていた。


 …………。


 周囲での喧騒が嘘のように、ここだけが静かだ。


 その狂ったエルフは、


「あぁ、このような場所で再び『生命の器』に出会えるとは……これは、私への贖罪の祝福か?」


 と、僕に笑いかけた。


 ……あの目。


 明らかに僕を人ではなく、実験素材と見ている目だ。


 ガシャッ


 姉さんが槍を構え、前に出た。


 僕は言う。


「生命の器って、何?」


 この問いかけは、時間稼ぎ。


 その間に、レイさんは片手剣と円形盾を装備して、アリアさんの前に立つ。


 その後ろで、アリアさんは杖を構えた。


「…………」


 必死に感情を押さえた顔だ。


 ミカヅキは、そんな僕らを守れるように、いつでも動ける位置に立っていた。


 その動きに、クレイマンは興味もない。


 ただ笑ったまま、


「その肉体のことだ。レクトア神に愛された豊潤な生命の輝きが感じられないかね? まさに神の創りし身体だ。……あぁ、妻を甦らせるための良き素材となるだろう」


 と、嬉しそうに語った。


 …………。


 その意味は、よくわからない。


 ただ、前世の肉体と違って、このアナリスの肉体は健康だ。  


 とても丈夫で、風邪を引いたこともない。


 それは、女神の力による何かがあったということなのだろうか?


(…………)


 ケルベロスとの戦いの時、聖なる光がこの身体から溢れたことも、何かしらの関係があるのかもしれない。


 でも、今はそれを追求する時じゃない。


 僕は息を吐く。


 狩猟弓を構え、即座に『風属性の魔鉱石の矢』を放った。


 ヒュボッ バシィン


 クレイマンの正面に、光の盾が現れた。


 矢はそこに命中し、しばらく振動してから、地面にポトリと落ちてしまった。


 …………。


 風属性の矢でも、魔法の盾は貫けないみたいだ。


 クレイマンは笑ったままだ。


 義手が持ち上がる。


「後悔するがいい女神よ。我が愛する妻を病という悪意で奪った貴様は、今度は私に愛した『生命の器』を奪われるのだ。己の罪深さをその悲しみで知れ」


 ヒィン


 手のひらに魔法石が埋め込まれていた。


 その魔法石が輝く。


 魔法が放たれることを警戒して、僕らは身構えた。


 その時、


「いい加減にして! そんなことをしても、母さんは喜ばないわよ!」


 その悲鳴のような叫びが聞こえた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 アリアさんだ。


 その瞳から頬へと、涙がこぼれていた。


 クレイマンはキョトンとする。


「アリア……?」


 その瞬間だけ、彼の表情は狂ったものから正常なものへと戻ったように見えた。


 アリアさんは、杖を構える。


「どうして!? いつまでそんなことを続けるの!? 死んだ者は生き返らない、母さんはもうどうしたって戻らないの! どうしてそれがわからないの!?」


 杖の先端が震えている。


 実の父に武器を構えて、けれど、心も震えていた。


 クレイマンは意外そうだ。


「何を言っている? エレーナは生き返るさ。もう少しで転生させられる。そのためには、まだまだ儀式の素材が必要なんだ」


 その目が僕を見た。


 そこに素材がある……視線がそう語っていた。


 アリアさんは首を激しく振った。


 青く長い髪が左右に散る。


「儀式、実験、素材、生贄……もうたくさんよ! そのために実の娘まで……ミリアまで犠牲にして! そんなの間違っていると思わないの!?」


 悲痛な叫びだ。


 その痛みは、僕らの心にも突き刺さるほどに。


 けれど、


「何も間違ってはいないだろう?」


 狂ったエルフは、そう答えた。


 その瞳に、狂気が宿る。


「ミリアのことは愛していた。だが、私にとって1番大切なのは娘ではなく、妻だ。妻のためならば、娘などいくらでも犠牲にしよう」


 それは本気の声だ。


 アリアさんは硬直する。


 娘の心を踏みにじり、クレイマンは笑った。


「なぁに、エレーナが生き返れば、素材となったミリアが生き返ったのも同じだ。ほら、家族がまた1つになる。素晴らしいことだろう?」


 その瞳は優しい。


 父のように温かく、けれど、その奥に狂人の輝きがあった。


 奴は言う。


「だからアリア? お前も素材になりなさい」


 我が子を諭すように。


 甘く、優しく、そして残酷な言葉を。


 アリアさんは動けなくなった。


 もうどうやっても、何をしても、自分の父親が帰ってこないことを理解して……それを改めて思い知って。


(…………)


 姉さんもレイさんも、友人を思って泣きそうだ。


 奴は無理だ。


 クレイマンの心は、すでに現実を見ずに、自分だけの世界に逃げていた。


 妻の死から。


 その痛みから逃れるために。


 そして、重ねた罪の重さを自覚するのを恐れるように。


 だから、


「あの人を止めよう、アリアさん」


 僕は言った。


 アリアさんは顔をあげる。


 泣き腫らした目で、僕を見た。


 奴へと弓を構えながら、


「自分ではもう止まれないんだ。だから、僕らで止めてあげよう。その罪の歩みを、僕らで一緒に止めてあげよう、アリアさん」


 そう訴えた。


 姉さんは頷いた。


 レイさんも無言で武器を構え直して、答えを示した。


「…………」


 そんな僕らを、アリアさんは見つめる。


 力を失っていた瞳に、輝きが戻った。


 グイッ


 乱暴に、腕で涙を拭う。


 そして、手にした魔法石のついた杖を構え直した。


「えぇ、そうね」


 覚悟を決めた声だ。


 手と心を震わせながら、けれど、必死に力を込めていた。 


 …………。


 クレイマンは不思議そうな顔だった。


 僕らの想いや覚悟がわからないのだろう。


 けれど、僕らが敵対の意思を固めたことだけはわかったみたいで、


「やれやれ」


 まるで幼子の反抗を嘆く父親みたいな声を漏らした。


 カシャッ


 その義手を再び持ち上げた。


 埋め込まれた魔法石が、淡く輝いている。


 こちらも、ダークウルフの透明な青い雷角の中で、パチパチ……と美しい放電が始まっていた。


 僕も狩猟弓を引き絞る。


 …………。


 もう言葉はいらない。


 あとは戦いによって、自分たちの意思を示すのみだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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