075・現れた黒幕
第75話になります。
よろしくお願いします。
2日間、騎士団と共に移動した。
辿り着いたのは、広大な草原と森林、大きな湖のある風光明媚な土地だった。
アルパ領の貴族たちが保養地として多くの別荘を構えている土地だそうで、僕らは森林に身を隠しながら、その別荘地から外れた郊外へと向かった。
…………。
草原の奥に、石造りの建物が見えた。
昔の戦争時代の古い砦を改築した物で、所有者は偽造されているけど、ルイーズ家なのだそうだ。
僕らは森の中から、その砦を見つめた。
(あそこに……)
悪事を働いたルイーズ伯爵と狂信の魔術師クレイマンがいる。
「…………」
アリアさんは唇を噛み締め、その石の建物を睨んでいた。
騎士の数は300人。
陣頭指揮には、騎士団長のトールバキン伯爵様が直々に立っていた。
彼は言う。
「あの建物には、抜け道がある」
それも古い砦だった時代の名残りだそうで、近くの森へと通じているそうだ。
彼の瞳が、僕らを見た。
「君たちには、その出口で他の騎士たちと共に待機していて欲しい」
そう指示された。
まずはトールバキン伯爵様が率いる騎士250名が建物を包囲して、接近する。
無論、迎撃はあるだろう。
クレイマン以外にも、ルイーズ家は多くの犯罪者をここに匿っているらしいので、その抵抗もあるはずだった。
そして恐らく、その間に、ルイーズ元伯爵は抜け道を使う。
そちらを、騎士50名と共に僕らに捕らえて欲しいとのことだ。
ちなみに、その陣頭指揮は、これまで何度か顔を合わせたこともあるあの騎士隊長さんがするそうだ。
伯爵様は言う。
「クレイマンがどちらに行くか、私にもわからない。君たちと奴が確実に戦える保証はないが、どうだ?」
建物か、抜け道か。
僕らはどちらに行くべきなのか?
…………。
正解がわからない。
でも、アリアさんは答えた。
「あの男は『転生の秘術』を手に入れるまでは決して死ぬ気はない。なら少しでも生き残れるように、抜け道を使うでしょうね」
…………。
僕らは頷いた。
伯爵様も「わかった」と応じられて、僕らは指示通りに動くことになった。
…………。
やがて、騎士団は2手に分かれた。
トールバキン伯爵は、長年の決着をつけるため、睨むように石造りの建物を見つめていた。
「…………」
その背を見つめ、そして僕は前を向く。
姉さんたちと騎士50名と一緒に、抜け道の出口がある森の奥へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
一見、何もない森の風景だ。
けれど、騎士50名と僕らが見つめる茂みの奥に、抜け道の出口があるという。
…………。
少し緊張する。
狩人として獲物を待ち伏せている時の心境に似ていた。
それも大物を……。
…………。
…………。
…………。
配置について15分ほどすると、遠くの森が騒がしくなった。
捕り物が始まったんだ。
騎士団と抵抗するルイーズ家の人々の間で、戦闘が行われているみたいだった。
ドォン ズズゥン
激しい爆発音や振動が伝わる。
大規模な魔法などが使われたのかもしれない。
『グルル……』
その気配に当てられたのか、ミカヅキは少し興奮しているみたいだった。
モフモフ
その首の黒い毛を撫でながら、宥める。
僕らの出番は、もう少し後だ。
向こうの戦闘が続き、やがて、抜け道を使ったルイーズ元伯爵たちが出口に現れてからが本番なのだ。
(…………)
姉さんも緊張した顔だ。
槍を強く握り締めて、指先が白くなっていた。
レイさんも片手剣の柄を、何度も握り直している。
アリアさんも思い詰めた表情だ。
…………。
それから、また15分ぐらいしただろうか?
ピクッ
ミカヅキの耳が反応した。
それは真っ直ぐ茂みの方へと向けられていて、僕は騎士隊長さんの方を見た。
彼は頷いた。
騎士たちが剣を抜く。
僕も『狩猟弓』に風属性を与えた『魔鉱石の矢』をつがえた。
ガサッ
茂みが大きく揺れた。
何もない草原の地面がはがれて、下から金属の扉のような物が左右に開かれていった。
(……来た)
そこから身なりの良い太った男が出てきた。
あれが、ルイーズ元伯爵。
50代ぐらいの男性で、髪は薄く、目元は穏やかな印象だけれど、その奥にある瞳にはギラギラと悪意の光が灯っていた。
彼以外にも、護衛らしい騎士が7人。
女性が3人。
そして、
「っ」
アリアさんが息を呑む。
その集団の最後に、銀色の髪をしたエルフ――見間違えるはずもない、あの狂信の魔術師クレイマンがいた。
僕が斬り落とした右手は、金属の義手になっていた。
アリアさんの身体が震える。
瞳孔も開いていて、今にも飛び出しそうだ。
ギュッ
レイさんが手を握り、必死に彼女の理性を保たせていた。
そして、騎士隊長さんが動く。
「そこまでだ! 大人しく縛につけ!」
抜剣しながら、騎士50名と共に彼らを包囲するように飛び出した。
僕ら4人と1匹も、あとに続く。
ルイーズ元伯爵たちは、驚いた顔だ。
顔色を青くし、けれど、すぐに憤怒の形相で剣を抜いた。
応じるように護衛の騎士7人も抜剣して、抵抗の意思を行動でしてみせた。
女たちは後方で怯えていた。
そして、クレイマンは、
「おやおや?」
と、見世物を楽しむかの態度でその様子を眺めていた。
その視線が周囲を見回して、
(!)
僕と目が合った。
クレイマンは驚いた顔をする。
「あぁ、君かぁ?」
すぐに嬉しそうな壊れた笑みをこぼすと、その義手の右手を懐に収め、小さな『呼び鈴』を取り出したんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。




