073・新しい魔法武具
第73話になります。
よろしくお願いします。
訪れたのは、行きつけの武器防具屋だった。
姉さんたちを見て、
「おや、いらっしゃい!」
馴染みの店員さんが挨拶をしてくれた。
レイさんが事情を説明して、荷車に積まれた『魔鉱石』を見せたら、店員さんは愕然となっていた。
すぐに奥の応接室に案内された。
「これで、装備の新調をお願いしたいんだ」
とレイさんが語り、商談へ。
鍛冶屋の伝手もあり、この武器防具店が窓口となって新装備を作成することになった。
詳しい装備の内容も話し合う。
やがて金額も決まり、商談は成立となった。
完成まで1週間。
…………。
うん、楽しみだなぁ。
1週間後、再び武器防具店を訪れた。
応接室のテーブルには、僕らの新しい武器、防具が並んでいた。
(わぁ……)
つい目を輝かせてしまった。
レイさんの片手剣と姉さんの槍、その刃の部分には、半透明な鉱石が使われていた。
キラキラして、凄く綺麗だ。
アリアさんの杖も、持ち手の部分に半透明の鉱石があった。
僕も、自分のを見る。
テーブルにあるのは、先端の矢じりが『魔鉱石』で作られた30本の矢だった。
それと、刃の部分が半透明の『山刀』。
(…………)
これが、新しい武器なんだ。
少しドキドキする。
魔鉱石は硬度が高いので、切れ味や耐久性が増すそうだ。
でも、それだけじゃない。
「魔鉱石の武器には、任意の属性を付与できるのよ」
と、アリアさん。
その説明に合わせるように、店員さんが5種類ぐらいの宝石を持ってきた。
これは……?
目を丸くする僕に、
「これは魔法石よ」
と、魔法使いのアリアさんは教えてくれた。
赤い宝石は、火属性の魔法石。
青い宝石は、水属性の魔法石。
緑の宝石は、風属性の魔法石。
白の宝石は、聖属性の魔法石。
透明な宝石は、無属性の魔法石。
そんな風に、色々な魔力の秘められた宝石なのだそうだ。
レイさんが、その1つを手に取った。
「見ていろ」
カチャッ
赤い魔法石を、新しい片手剣に当てる。
すると、魔法石が光り、半透明だった片手剣の刃が灼熱したみたいに赤く輝きだしたんだ。
ボッ
強い熱を感じる。
僕は驚き、姉さんは微笑んだ。
「火属性の魔力が付与されたの。これで斬った相手を燃やすこともできるんだよ?」
と教えてくれた。
……凄いや。
こうして付与された魔力は、途切れることはない。
つまり、聖属性を付与すればエルダー神殿の時のように、いちいち『聖水』を使わなくてもスケルトンやゴーストも倒せるようになるんだ。
神殿では、聖水切れで姉さんが負傷してしまった。
でも、今後はそうしたこともなくなる。
これは、とても大きな効果だ。
レイさんは、透明な魔法石を片手剣に当てた。
シュウウ
赤く輝いていた刃が、半透明の状態に戻った。
「属性を変えたければ、一度、無属性に戻す。そうして魔物の弱点に合わせた属性武器にして、有利に戦えるようにできるんだ」
レイさんはそう笑った。
…………。
思った以上に、新しい武器は優秀だった。
今後は『聖水』などを用意しなくてもいいし、戦える相手の幅も増えるかもしれない。
「…………」
カチャッ
僕も、矢の1本を手に取った。
半透明の矢じり。
ここに属性を付与すれば、威力もあげられるのだ。
……うん。
この矢を使える日が楽しみだよ。
姉さん、レイさんは、防具の胴当てと手甲も新調していた。
各部に『魔鉱石』が使われている。
防具にも属性が付与できるそうで、
「例えば、水属性を付与しておけば、魔物に炎を吐かれたとしてもダメージが少なくて済むの」
と、姉さんが教えてくれた。
それはいいね。
姉さん、レイさんは前線で戦うことが多いから、防御力が上がるのは大事なことだった。
…………。
レイさんは、円形盾も新調していた。
「ふふっ」
手に取り、嬉しそうに眺めている。
まるで新しい洋服を買って喜んでいる女の人みたいだった。
アリアさんも、新しい杖を眺めていた。
魔法は、元々属性がある。
なので、杖に属性付与は必要ないのだけれど、『魔鉱石』は魔力伝達物質としても優れているそうだ。
だから、
「今までより威力の高い魔法が出せるのよ」
と、アリアさん。
試しで魔力を流しているのか、握った半透明の部分と先端の魔法石がピカピカと光っていた。
…………。
みんな、嬉しそうだ。
その姿を見て、
「えっと……このあと、簡単な魔物討伐クエストを受注して、新しい武器を試してみない?」
と聞いてみた。
3人は、キョトンと僕を見る。
それからお互いに顔を見合わせ、そして頷き合った。
「うん、いいね」
「そうしよう」
「ま、いいんじゃないの?」
そう笑った。
…………。
それから代金を支払い、僕らは足早に冒険者ギルドを目指したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
その日の午後、僕らは森へとやって来た。
「はっ」
ギュパァン
僕の放った矢は緑色の光を放ちながら、『岩皮の猪』の眉間を貫いた。
ズズン
巨大な猪は、地面に倒れた。
堅い外皮は完全に砕け、矢は脳まで確実に達していた。
…………。
凄い威力だ。
これまで僕の矢は、あの外皮を貫けずに眼球を狙うしかなかった。
でも、風属性を付与したら矢の速度が上がって、魔鉱石の硬度もあって、あの外皮を貫いてしまったんだ。
正直、びっくりだよ。
ちなみに、矢は全部で30本ある。
10本は、僕の矢筒。
残りの20本は、ミカヅキの荷物鞄にしまわれていた。
予備の普通の金属矢10本も鞄の中だ。
合計40本。
これだけあれば、矢切れの心配もなくなると思った。
…………。
うん、確実に戦力アップだ。
姉さん、レイさんも魔物を狩っていた。
2人の装備には、火属性の赤い輝きが灯っていて、
「やっ!」
キュボッ
姉さんの槍が『氷結の鹿』を突き刺すと、傷口から炎が噴き出して、周囲を赤く照らした。
『ギイッ!?』
魔物は悲鳴を上げる。
その角が光り、複数の氷の矢を放ってきた。
レイさんが円形盾を構え、前に出る。
中央の『魔鉱石』は赤い輝きを灯していて、氷の矢は盾に当たる直前に、高熱に溶かされるように小さくなった。
カィン キィン
軽い音と共に弾かれ、氷の矢は蒸発する。
すると、少し離れた場所にいたアリアさんが、手にした杖の魔法石を青く光らせながら大きく振るった。
ヒュバン
杖の先端から『水の鞭』が伸びていた。
それは『氷結の鹿』の身体をしたたかに打ちつけ、その毛皮を裂いて、内側の肉を露出させた。
『ピギィッ!?』
その威力に魔物は転倒する。
ザシュッ ズドン
レイさん、姉さんは、すかさず魔物の巨体にそれぞれの武器を体重をかけて突き刺した。
ボボッ
傷口から炎が漏れた
巨大な鹿の魔物は、内臓を焼かれて絶命した。
…………。
それを見届け、3人は頷き合う。
新しい武器の威力に、姉さんたちも満足そうだった。
「思った以上だったね」
領都に帰って家までの道中、姉さんはそう笑った。
僕は「うん」と頷いた。
僕の矢は、これまで以上に飛距離と威力が増したし、相手の弱点に合わせた姉さんたちの武器防具も、とても効果的だった。
アリアさんの魔法も威力が上がっていた。
レイさんも頷いて、
「高い買い物だったが、それだけの価値はあったな」
「そうね」
アリアさんも上機嫌に同意した。
同行したミカヅキも、仕留めた魔物の肉をたくさん食べていたので満足そうだった。
みんな、上機嫌だ。
自分たちが強くなった――その実感があったからだと思う。
次のクエストはどうしようか?
そんな話を4人でしながら、やがて、僕らは自分たちの家へと帰り着いた。
(おや……?)
そこで気づいた。
家の前に、1台の馬車が停まっていた。
側面には、見覚えのある家紋が描かれていて、姉さんたちもハッとなった。
トールバキン家の馬車だ。
そばには赤毛の女騎士――ライシャさんが立っていた。
「こんにちは、皆さん」
そう会釈する。
そして、僕らを見て、
「本日はトールバキン伯爵様より、皆さんにお伝えしたいことがあるとのことで参りました」
と言ったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。




