007・少女の記憶Ⅲ(ユーフィリア視点)
第7話になります。
よろしくお願いします。
魔物が出たことで、2~3日、森に入れなくなった。
アナリス、少し残念そう……。
そんなアナリスと家事を手伝い、ふと時間ができたので、私は裏庭で日課だった槍の練習を再開した。
ヒュッ ヒュッ
前の家と同じように、素振りを繰り返す。
…………。
手取り足取り、槍の扱いを教えてくれたお母さん、そんな私たちをいつも見守っていてくれたお父さん、2人のことを自然と思い出してしまった。
なんだか、心が苦しいよ。
それを振り払うように、槍を振る。
その時、
「…………」
「……あ」
ふとアナリスがやって来て、目が合ってしまった。
な、なんか恥ずかしい……。
アナリスは首をかしげて、
「槍の練習?」
「う、うん。……日課なの」
私は頷いた。
アナリスは、私の持っている槍を見て、感心した顔だった。
…………。
お父さんとお母さんがくれた槍。
思わず、心の内が溢れた。
「私……冒険者になりたいの」
「…………」
「それで……お父さんとお母さんの行ったダンジョン遺跡に潜って、2人を見つけたいの」
そう口にしていた。
アナリスは、私の弟。
新しい家族だと思ってる。
でも、アナリスのお父さんとお母さんを、新しい私の両親とは思えなかったの。
だって、私のお父さんとお母さんは、この槍をくれたあの2人だから。
…………。
アナリスのお父さんは、寡黙だけど優しい人だった。
アナリスのお母さんは、私のお母さんと似ているところもあって、でも、ちょっと違っていた。
2人ともいい人、それはわかってる。
でも……それでも、両親として受け入れるのには抵抗があったの。
(ごめんなさい)
やっぱり、お父さんとお母さんのことを確かめないと、私の心は前に向けない。
お世話になってるのに、凄く勝手だ、私……。
そう思うのに、
「――うん、見つかるといいね」
アナリスは、そう言ってくれた。
私を姉として受け入れてくれたように、私のお父さんとお母さんへの思いを、そのまま受け入れてくれた。
それが嬉しい。
「……うん」
だから、私は笑って頷けたの。
翌々日から、なぜかアナリスは、私の横で山刀を振るようになった。
ブン ブン
まだ、へっぴり腰。
でも、筋はいいんじゃないかな? 剣閃の軌道は、凄く綺麗だもの。
それに、
(なんだか、楽しそう……)
きっと、それが上達には一番大切なことだから。
「くすっ」
私は、つい笑ってしまった。
弟と一緒に、こうした時間を過ごせることが嬉しかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「姉さんは、髪、切らないの?」
突然、アナリスにそんなことを言われた。
(え?)
驚く私。
どうやらアナリスは、私の長い髪が動きの邪魔にならないか、心配してくれたみたい。
慣れれば、そんな気にならない。
それに、
『いい、ユフィ? 男なんて、みんな、綺麗な長い髪の女が好きなのよ。お父さんだって、それで私のモノになったんだから!』
お母さんは、そう自慢そうに言っていた。
その言葉通り、お母さんの髪は長くて、とても綺麗だった。
……私も、その髪に憧れたの。
だから、私も真似をして、髪をずっと切らずに長く伸ばすようにしてきたの。
…………。
それに、もしお母さんに再会した時、私の髪が短かったらお母さんは悲しむかもしれないもの。
それまでは、切りたくない。
そんな感じのことを、アナリスにもわかり易い言葉で伝えてみる。
「……そっか」
わかってくれたのか、アナリスは頷いた。
でも、
ヒョイッ
その小さな手が伸びてきて、私の長い前髪を持ち上げた。
(あ)
突然、クリアになった視界に、アナリスの可愛い顔がアップで飛び込んでくる。
心臓が止まりそうになった。
そして、
「でも、前髪だけでも切らない? ――姉さんは美人なんだから、ちょっともったいないよ」
「…………」
美人……?
誰が?
私が……?
(え……えぇっ!?)
顔全体が、火に焼かれたように熱くなった。
そんな私の顔を、アナリスの青い瞳は真っ直ぐに見つめてくる。
「~~~~」
居た堪れなくなった私は、その場を逃げ出した。
ドクッ ドクッ
心臓が激しく鳴っている。
……な、何これ?
自分の頬に手を当てて、私はしゃがみ込んだまま、動けなくなってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ようやく森への立ち入りが許可された。
3日ぶりの『薬草摘み』。
アナリスは、すでに準備を終えて、家の外で私を待っている。
「…………」
そんな私は、鏡の前にいた。
痩せて、足元まで届くほどに長く金色の髪を伸ばした女の子が、そこに立っていた。
その目元は、前髪に隠されている。
…………。
私は、周りの男の子が怖かった。
私をいじめる子たちを見るのも、そんなみじめな自分を見るのも怖かった。
だから、前髪で隠したの。
全てがはっきりと見えないように、自分の心を誤魔化すために。
(でも……)
私は、その前髪を持ち上げた。
後ろに回し、紐で括って、視界を保つ。
……っ。
はっきりと見えてしまう世界が、怖い。
お父さんとお母さんがどこにもいないかもしれない世界を見るのが、怖い。
(それでも……)
私は唇を引き結んだ。
怖くても、それでも、はっきりと目にしたいと思ってしまった。
そう思えるモノを見つけてしまった。
「……んっ」
だから、私は前髪をあげたまま、家を出る。
待っていてくれたアナリスは、私を見つけて笑ってくれた。
(あぁ……)
それだけで心が弾んだ。
頬が熱い。
でも、どこか心地好い恥ずかしさだった。
「がんばろうね、姉さん」
アナリスは笑う。
私のことを心から受け入れて、慕ってくれている。
今、お父さんとお母さんはいなくても、私にはアナリスがいてくれる――それで充分だった。
「じゃあ、行こう?」
キュッ
その小さな手が、私の手を握る。
温かい。
その温もりを逃がさないように、私も指に力を込めた。
…………。
そして今日も、私たち姉弟は森へと向かったの。
ご覧いただき、ありがとうございました。
明日も2話、更新予定です。
ようやくモフモフも登場しますので、よかったらまた覗きに来て下さいね。よろしくお願いします♪