069・スケルトン&ゴースト
第69話になります。
よろしくお願いします。
「アナリス、いける?」
槍を構えたまま、姉さんが問いかけてきた。
僕は「うん」と頷いた。
キュッ
狩猟弓を構え、聖水の光る矢で狙いを定めた。
スケルトンは、斜めに首を傾け、
カツッ
こちらが攻撃態勢に入ったのを認識したのか、唐突に僕へと走り出した。
(速い!)
余計な肉がないからかな?
身軽なスケルトンは、思った以上の速度だった。
手にした曲剣を振り被り、
ズパァン
その頭蓋骨に、僕の放った矢は突き刺さった。
矢じりの光が火花のように散る。
途端、走っていたスケルトンは、操り人形の糸が切れたように転倒した。
ガシャアン
床にぶつかり、バラバラだ。
「…………」
白い骨は動かない。
第2射目を用意していた僕は、それを見つめて、大きく息を吐いた。
姉さんは「うん」と頷いた。
レイさん、アリアさんも納得の顔だ。
放った矢を回収すれば、聖なる光を灯していた先端は輝きを失っていた。
(……1射だけか)
使ったあとは、また聖水をかけないといけないみたいだ。
散らばった骨の中に、小さな魔石があった。
アリアさんは「回収、回収」とそれを拾っている。
魔石も、貴重な収入源なんだ。
ミカヅキはスケルトンには食べる肉がなくて、少し残念そうだった。
モフモフ
宥めるように撫でてやる。
レイさんは、
「スケルトン相手の倒し方も、これでわかったかな?」
と微笑んだ。
僕は頷いた。
…………。
そうして僕らは、スケルトンの骨を踏みながら、更に奥へと進んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇
地下1階では、何回かスケルトンに遭遇した。
僕らは聖水で『聖属性』になった武器で、その魔物たちを倒していった。
ガチン
(お?)
1度だけ、普通の矢で攻撃してみた。
頭蓋骨を貫通し、半分砕けているのに、そのスケルトンは普通にこちらに迫ってきた。
2射目の光る矢を当てる。
スケルトンは転倒し、そのまま砕けてしまった。
(……なるほど)
聖なる武器じゃないと本当に駄目なんだ。
…………。
姉さんとレイさんも、光る槍と片手剣で4~5体のスケルトンの群れを倒していく。
倒すたび、光量が減る。
光が消える前に、聖水をかけ直していた。
アリアさんの出番はなく、彼女は、魔石の回収係となって結構な数を集めていた。
ガリッ ボキン
ミカヅキは、散らばった骨を食べ始めた。
骨でも、何もないよりはいい――そんな感じの食べ方だった。
…………。
やがて、僕らは階段を見つけ、地下2階に向かった。
古い神殿の廊下を歩く。
廊下の柱は、時々、倒壊していたり、床石や壁が壊れている個所もあった。
足元には、たまに人骨が落ちている。
これはスケルトンの骨ではなく、本当に普通の死体の骨みたいだ。
…………。
それらをランタンで照らしながら、
「昔ね、この神殿では恵まれない人々が集まって、大勢で暮らしていたんだって」
と、姉さんが語りだした。
昔、この地方では戦争があった。
多くの難民が生まれて、当時のエルダー神殿は、その人たちの援助をしていたんだって。
その人たちの多くは、神殿地下で暮らしていた。
「ところがね」
姉さんの声が落ちた。
その美貌を悲しげにして、
「その神殿に、大きな魔物が1匹、入り込んじゃったんだって。それで、神殿の難民と神官たちは、みんな殺されちゃったの」
「…………」
僕は言葉もない。
やがて、この神殿は魔素溜まりとなり、ダンジョン遺跡になった。
…………。
僕らが戦ったスケルトンは、そうした昔の人たちの骨だったのかもしれない。
姉さんは「悲しいよね」と吐息をこぼした。
(……うん)
悲しくて、とても怖い話だった。
まるで怪談話だ。
それも実話の。
レイさん、アリアさんは何も言わない。
廊下のあちこちが壊れているのは、もしかしたら当時の人々と魔物の争った跡なのかな……?
カチャッ
そんな僕らの前に、またスケルトンが現れた。
…………。
多少、感傷的になったけれど、僕らは『冒険者』だ。
すぐに聖なる光の武器を構えて、そのスケルトンを倒すために攻撃を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇
(ん……?)
廊下を歩いていると、その隅に淡く光る結晶が生えているのに気づいた。
大きさは、2~3センチ。
青く透明で、内側から発光していた。
姉さんが、
「それが『魔鉱石』だよ」
と教えてくれた。
これが……。
魔力を宿した鉱物で、こうしたダンジョン遺跡でしか生成されないんだ。
そして、今回のクエスト目標の鉱石。
でも、これはあまりに小さくて、依頼された量にはとても足りなかった。
レイさんは、
「まだ地下2階だからね。地下3階なら、たくさん手に入るだろう」
とのことだ。
なるほど、と納得。
とはいえ、小さくても集めない理由はない。
僕は目の前の淡く光る『魔鉱石』へと、小さな手を伸ばした。
ヌッ
すると、目の前の壁を抜けて、半透明のしわがれた手が現れて、僕の手首を掴もうとした。
(……え?)
目を瞬く。
その手が、僕の手に触れようとして、
「アナリス!」
瞬間、姉さんに襟首を掴まれ、後ろに引っ張られた。
わっ?
僕は、尻もちをつく。
そして顔をあげると、廊下の壁をすり抜けて、半透明の老人が僕らの前にユラリと現れたんだ。
その顔は、悲嘆の形相だ。
…………。
驚く僕の耳に、
「ゴーストだ」
レイさんの声が聞こえた。
彼女は、光る片手剣を構えて、
「触れられると生気を奪われる。最悪、死に至ることもあるので気をつけるんだ」
と警告してくれた。
アリアさんは「今、危なかったわね」と呟いた。
…………。
姉さんは「よくもアナリスを!」と怒ったように、光る槍を振るった。
バシュッ
煙を斬ったように老人の姿が揺らめいた。
同時に、斬られた部位にバチチッ……と、聖なる光の火花が散った。
その部分の身体が消滅する。
老人は大きく口を開けて、苦悶の表情だ。
バシュッ バシュッ
姉さんは容赦しない。
2度、3度と攻撃を繰り返して、やがて、老人の姿は完全に消滅してしまった。
カラン
小さな魔石が地面に落ちた。
アリアさんがそれを拾う。
レイさんは他に魔物がいないか周囲を確認し、姉さんは「ふう」と息を吐く。
僕を見て、
「アナリス、大丈夫だった?」
と、心配そうに聞いた。
僕は「うん」と頷く。
それから、
「ありがとう、姉さん」
と笑った。
姉さんは少し頬を赤くして、くすぐったそうにはにかんだ。
…………。
そのあと、改めて『魔鉱石』を手に入れた。
パキッ
根元から簡単に折れた。
鉱石は淡く発光したままで、触れている指から不思議な力の波紋みたいなものを弱く感じた。
それを布袋にしまう。
そして、ミカヅキの荷物鞄に入れさせてもらった。
「よし、先に進もう」
レイさんが言う。
僕らは頷いた。
…………。
やがて廊下の先に階段を見つけて、僕らは地下3階へと降りていった。
ご覧いただき、ありがとうございました。




