006・少女の記憶Ⅱ(ユーフィリア視点)
第6話になります。
よろしくお願いします。
アナリス――それが、その子の名前。
どうやら何も知らされていなかったみたいで、その男の子は、突然、私みたいな姉ができるということに青い目を丸くしていた。
(あぁ……駄目だ)
きっと拒絶される。
私みたいな姉なんていらない……って。
他の男の子みたいに、私のことを嫌うんだ……って。
そう思ったの。
それなのに、
「――これからよろしくね、ユーフィリア姉さん」
その子は、そう言ったの。
(……え?)
思わぬことに、私は慌てた。
そして、何とか「よ、よろしく」と返事をする。
そんな私に、
ニコッ
アナリスは笑いかけてくれた。
「っっ」
その無防備な笑顔は、私のことを受け入れてくれた証だった。
私を、姉として。
家族として。
自分の心の中に受け入れてくれたのだと、伝わってくる笑顔だった。
(……あ)
そうわかったからかな?
アナリスがとても可愛く見えた。
この子が、私の弟。
そう思えることが、思っていいのだということが嬉しいと感じてしまった。
ドキン ドキン
ここに来る前とは違う意味で、心臓が高鳴る。
頬が熱い。
アナリスは不思議そうに、
「姉さん?」
と聞いてくるけれど、私は胸がいっぱいで何も答えられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
村の人たちに挨拶をした翌日、私はアナリスと一緒に森に入ることになった。
薬草を摘むためだ。
この村では、そういう仕事があって、アナリスは毎日それをしているのだという。
(が、がんばらなきゃ!)
ここで姉らしいところを見せるのだ。
そう意気込んで、いつもの槍を手にして森に入った。
そんな私を見て、アナリスは少し困った顔をしていたけど、なんでだろう?
でも、
「その槍、格好いいね」
そう言ってもらえて、嬉しかった。
えへへ……。
アナリスと一緒に森を歩く。
歩きながら話をして、驚いた。
アナリスは、森のことをよく知っていた。
薬草がどこに生えているのか、今の季節は、どんな種類の薬草が生えていて、どんな効能があるのか、みんな知っていた。
それだけじゃない。
森の歩いていい安全な場所、歩いてはいけない危険な場所もわかっていた。
そこまで歩くのにかかる時間さえも。
何より、それを私に説明してくれる話し方が、とてもわかり易かったの。
(ほ、本当に5歳……?)
そう疑ってしまうぐらい。
だって、私が5歳の頃なんて……もっとお父さんやお母さんに甘えて、わがままばかりだったもの。
アナリスは苦笑して、
「うん、5歳だよ。がんばって色々覚えたんだ」
と言っていた。
……そっか。
きっと、いっぱい努力したんだ。
「凄いんだね、アナリスは」
私は、そう笑った。
アナリスは驚いた顔をする。
それから、少しだけ恥ずかしそうに赤くなっていた。
…………。
……私の弟、可愛い。
◇◇◇◇◇◇◇
アナリスに教わった通りに、ナイフを使って、薬草を摘む。
初めてだったけど、
「ユーフィリア姉さん、凄いや。こんなに綺麗に採取できるなんて思わなかった」
なんて褒めてもらえた。
(……う、嬉しいな)
私は心を弾ませ、それからも薬草を集めていく。
その時だった。
ガサッ
草むらから物音がして、見ればそこに、角の生えた大きな黒いウサギがいた。
「――――」
魔物だ。
たまにお母さんが、お土産として持って帰ってくる魔物だった。
でも、生きているのは初めて見る。
ドクン
緊張で鼓動が跳ねた。
すると、そんな私を庇うかのように、アナリスが腰に提げていた山刀を抜いた。
(だ、駄目!)
この子は、私を受け入れてくれた。
私の弟。
そして、私はこの子の姉なんだ。
そう思った時には、槍を手に私が前に出ていた。
…………。
練習した通りに、やればいい。
そう自分に言い聞かせて、
ドスン
私の槍は、その黒いウサギの魔物の心臓を見事に貫いていた。
魔物は絶命した。
……よかった。
槍を私にプレゼントしてくれたこと、扱い方を教えてくれたことを、お父さんとお母さんに感謝した。
何よりも、
(弟を守れて……よかった)
そう思った。
そんな私を見て、アナリスはなぜか驚いていたけれど、あまりに気にならない。
その頬に触れて、
「……アナリスが無事でよかった」
そう思いをこぼしながら、小さく笑ったの。
…………。
私、少しは姉らしくできたかな……?
ご覧いただき、ありがとうございました。
本日、もう1話投稿します。