058・村での日常
タイトル、あらすじ、また少し変更しました(試行錯誤中……)。
第58話になります。
よろしくお願いします。
しばらく歩いた僕らは、森にある湖を訪れた。
ここで、少し休憩だ。
姉さんとアリアさんは、水辺の砂浜へと歩いていく。
2人は「綺麗な水ね」「でしょ?」と会話をしながら、水をすくったり、素足で水面を蹴ったりしていた。
ミカヅキも浅瀬で遊んでいた。
どうやら小魚を追いかけているみたいで、バシャバシャと水飛沫が散っていた。
2人と1匹は、とても楽しそうだ。
…………。
僕は、その様子に微笑みながら、砂浜に腰を下ろした。
すると、
「アナリス君は、一緒に遊ばないのかい?」
そう、レイさんに声をかけられた。
レイさんは、姉さんたちの方には行かずに、僕の隣に立っていた。
僕は困ったように笑って、
「実は……僕、泳げないんです」
と白状した。
前世の僕は心臓が悪かったので、心肺に負担のかかる水泳などはできなかった。
おかげで今生も泳げない。
そのせいか、少し水が苦手なんだ。
レイさんは「そうなのかい?」と目を丸くしていた。
それから、
「アナリス君は、何でもできそうなイメージだったから、少し意外だよ」
なんて言う。
レイさんの中の僕は、どんなイメージなんだろう……?
僕は、少し困ってしまった。
レイさんは笑って、
「でも、君にもそういう弱点があって、正直、少し安心したかな?」
と、付け加えてくれた。
僕とレイさんは、しばらく姉さんたちを眺めた。
姉さんもアリアさんも水遊びに夢中で、2人とも服まで濡れていた。
まるで子供みたいだ。
僕は、つい笑みをこぼしてしまう。
すると、その時、
「アナリス君……やはり、君も『冒険者』になって、これからも私たち3人と共に冒険をしないか?」
不意に、レイさんがそう言った。
…………。
僕は、レイさんを振り返る。
彼女は微笑みながら、
「前に断られたのは覚えているよ。でも、君の才能はただの『村の狩人』で終わらせてしまうには惜しいと、私はどうしても思ってしまうんだ」
そう言葉を続けた。
……そんな風に言ってもらえるのは、素直に嬉しい。
でも、僕自身は、『村の狩人』で充分だと感じているんだ。
そんな僕を、レイさんは見つめた。
黒い瞳を伏せ、
「君がいると、あの2人もよく笑うんだ」
と口にした。
あの2人……姉さんとアリアさん?
僕は、レイさんを見つめる。
レイさんは少しだけ寂しそうに微笑んで、
「アナリス君と一緒にいる間だけは、あの2人は、自分たちが背負っている重荷のことを忘れられるみたいなんだ」
そう言った。
…………。
行方不明の両親。
妹の仇である実の父親。
それは、姉さんたちの心に刻まれた深い傷だろう……。
僕は、咄嗟に何も言えなかった。
レイさんは、水辺で遊ぶ大切な2人の仲間を見つめて、目を細めた。
「…………」
それから僕を見る。
その時、ふと湖を渡った風が、レイさんの艶やかな黒髪を揺らした。
それを片手で押さえ、
「私の提案、もしよかったら、少しだけ考えてみてくれないか?」
と、彼女は微笑んだ。
(…………)
僕は頷いた。
レイさんは「ありがとう」と笑みを深くした。
…………。
それから僕ら2人は、また姉さんたちの水遊びをする姿を眺めたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
やがて、村へと帰ってきた。
家に戻ったら、裏庭で、日課の『狩猟弓』と『山刀』の練習を行った。
それを見て、
「懐かしいな」
姉さんは微笑む。
そして自身も、手にした槍の素振りを始めた。
2人での練習は、3年ぶり。
つい僕も笑った。
結局、レイさん、アリアさんも参加して、4人で汗を流すことになった。
同じ裏庭では、薬草も栽培していた。
体長20メードのヒュドラさえも一時的に麻痺させた植物だ。
それを見せると、
「アンタ……こんなの栽培してんの?」
と、アリアさんは呆れた顔をした。
別に、法律で禁止されている訳でもない。
基本的には魔物にしか使わないつもりだし、睡眠の効果などは、風邪などで体調を崩した人の睡眠導入剤としても活用できるんだ。
姉さんは、
「アナリスなら悪用しないよ」
と言ってくれた。
その信頼が嬉しいし、もちろん裏切るつもりもなかった。
レイさんは、
「アナリス君には『薬師』としての才能もありそうだね?」
と笑っていた。
(……僕は『狩人』の才能だけで充分なんだけどな)
そう思いながら、
サァアア
大事な薬草たちに、僕はジョウロで水を撒くのだった。
家に入る前に、僕は相棒のダークウルフの全身ブラッシングを行うことにした。
これも日課だ。
モフモフ
柔らかな黒い毛を、大きなブラシで撫でていく。
森を歩いて汗をかいたレイさん、アリアさんには、先に家に戻って、お風呂に入ってもらうことにした。
でも姉さんは、ブラッシングに付き合ってくれた。
「ミカヅキは、私の家族だもの」
と、微笑む姉さん。
僕も笑って、ブラッシングを一緒にすることにした。
ミカヅキも、久しぶりに姉さんに黒い毛を梳いてもらえるのが嬉しそうだった。
モフモフ
モフモフ
夕焼けの中、姉弟でダークウルフの毛を撫でていく。
足元に、黒い毛玉が落ちていく。
…………。
しばらく、そうしていると、
「あのね、アナリス。……私たち、明日ね、この村を出ようと思ってるの」
姉さんがポツリと言った。
僕の手が一瞬、止まる。
すぐに動かして、
「そっか」
と頷いた。
姉さんたちが2~3日でいなくなるのは、決まっていたことだ。
でも……わかっていても、少し寂しかった。
姉さんは瞳を伏せて、
「……ごめんね」
「ううん」
謝る姉さんに、僕は首を振った。
昔は当たり前だった一緒にいる時間も、今では大切なものになっていた。
ふと姉さんを見る。
姉さんもこちらを見ていた。
「…………」
「…………」
視線が合って、どちらからともなく微笑み合う。
…………。
そうして僕らは、ミカヅキの大きな身体をゆっくり、ゆっくりとブラッシングしていったんだ。
日が暮れて、夜が訪れた。
姉さんたちとの最後の夕食を食べたあと、僕らはそれぞれの部屋に向かうことにした。
レイさん、アリアさんは客室へ。
僕と姉さんも、自分たちの部屋へと向かおうとした。
その時、
「アナリス、ユーフィリア」
父さんが僕らを呼び止めた。
ん?
姉さんと振り返る。
そこには、父さんだけでなく母さんも並んで立っていた。
(……?)
なんだろう……2人の表情が、いつもと違う気がした。
僕は首をかしげる。
姉さんも戸惑った顔だ。
そんな僕らに、
「お前たちに話がある」
淡々とした声で、父さんが言った。
…………。
えっと……何の話だろう?
ご覧いただき、ありがとうございました。




