表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した弓使い少年の村人冒険ライフ! ~従姉妹の金髪お姉さんとモフモフ狼もいる楽しい日々です♪~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/80

056・逃げ勝ち

第56話になります。

よろしくお願いします。

 リュックから『麻痺の薬』の瓶を取り出して、蓋を開けた。


 チャポッ


 その液体に、金属の矢の先端を浸ける。


(――よし)


 濡れた矢じりを見て、僕は頷いた。


 ヒュドラの巨体は15メードもあって、どこまで麻痺させられるかはわからない。


 でも、多少なりとも効果はあるだろう。


 あとは、あの鱗が問題だ。


 熊さんの全力の戦斧が、火花と共に何度も弾かれていた。


 狙うとしたら、目。


 でも、巨体に対して目は小さくて、しかも動きが激しい。


 となると、


(…………)


 僕は覚悟を決めるため、深呼吸した。


「アナリス……」


 姉さんが僕を見ている。


 僕は姉さんに笑いかけ、それから『狩猟弓』に矢をつがえて構えた。


 キュウ


 弦を引き、狙いを定める。


 そして、


「熊さん、こっちに!」


 と叫んだ。


 必死に戦っていた熊さんは、僕の姿にギョッとした。


「なんで逃げてないっ!?」


 悲鳴のように言う。


 僕は「いいから早く!」と言い返した。


 熊さんは怒りを我慢した表情で、僕の方へと走り出した。


 ドォン


 一瞬前まで彼のいた場所に、巨大なヒュドラの頭部が突っ込み、地面を破壊する。


 そして、その巨体がこちらを向いた。


 ズルル


 身をくねらせて、こちらへと迫ってきた。


 思った以上に速い。


 逃げる熊さんと僕を捕食しようと、3つの口がグパッと限界まで開かれた。


(――今)


 瞬間、僕は矢を放った。


 ヒュボッ


 唸りをあげた矢は、巨大な魔物の口内へと真っ直ぐ吸い込まれた。


 ズパァン


 矢の刺さった手応え。


 やはり、口の中にまで鱗はなかったみたいだ。


 そして、その衝撃と痛みでヒュドラは仰け反り、突進する動きが僕の3メード手前で止まった。


 …………。


 ギリギリだ。


 蛇の頭部が痙攣を始めて、やがて、斜めに傾いていく。


 ドォオン


 巨体が横倒しになった。


 まるで巨木のような蒼く長い身体がピクピクと細かく震えていた。


 効いた……。


 姉さんたちは目を丸くしていた。


 熊さんが、


「お前、何やったんだ!?」


 と唖然としていた。


 それを無視して、僕は走った。


 ガチャッ


 岩の上の『魔物集めの香炉』を抱えて、全力で引き返していく。


「逃げて!」


 僕は叫んだ。


 姉さんたちはキョトンとしていた。


「あの薬の量で、あの巨体を麻痺させられるのは10秒ぐらいだと思うから! 早く逃げないと!」


 全員、青ざめた。


 そんなみんなの前で、


 ズズ……ッ


 ヒュドラの巨体が再び動き始めた。


 僕は必死に走る。


「この馬鹿が!」


 そんな僕を、熊さんは香炉ごとガバッと抱えて走り出した。


 姉さんたちも走りだす。


 早く洞窟の外に出ないと、全員、食べられてしまう。


 ズルルッ


 麻痺が解けてきたヒュドラは、すぐに僕らを追い始めた。


 …………。


 恐怖の鬼ごっこ。


 追いつかれたら、死んで脱落だ。


 姉さんたちも、熊さんも、必死に逃げた。


 僕は、熊さんに担がれたまま、『狩猟弓』で何回も矢を放った。


 ガチッ カチン


 でも、硬い鱗に阻まれる。


 なるべく目を狙ったんだけど、熊さんの運び方が乱暴で、上手く狙いを定められなかった。


 やがて、


「出口だ!」


 レイさんが叫んだ。


 そこを抜ければ、僕らの逃げ勝ちだ。


 ヒュドラの巨体では、あの狭い洞窟の亀裂は通れない。


「っっ」


 まず、アリアさんが外に出た。


 続いてレイさん、姉さん。


「アナリス、早く! ロブリスさん!」


 3人が必死に手招きする。


 熊さんは、最後、ヘッドスライディングをするようにして洞窟の外へと飛び出した。


 ……うわっ。


 そのすぐ足元まで、ヒュドラの頭部の1つが迫っていた。


 間一髪だ。


 ガガァン


 岩の洞窟にぶつかる衝突音が響く。


 同時に、熊さんは僕と香炉を抱えたまま、地面に転がるようにして着地した。


(……うぐっ)


 思ったより、強い衝撃。


 と、洞窟の外で待っていたダークウルフが、額の雷角を青く輝かせた。


 バチチッ


 放電が散り、


 ドパァン


 青い雷撃が洞窟の内部へと放たれて、隙間から強い光が溢れ出した。


 みんな、驚いた顔だ。


 そして洞窟の中からは、巨大な魔物が手痛い反撃を食らって、慌てて洞窟の奥へと逃げていくようなズルズル音が聞こえていた。


 …………。


 全員、しばらく放心した。


 やがて、気が抜けたように地面に座り込んだ。


 僕も起きあがれない。


 すると、ミカヅキが近寄ってきて、


 ベロン


 まるで『お疲れ様』というように僕の顔を舐めた。


 ……あは。


 僕は笑った。


 そうして安心した僕は、柔らかな黒い毛に埋もれるように、ミカヅキに抱きついたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あのあと、熊さんには滅茶苦茶、怒られた。


 でも、僕は、最初に熊さんじゃなくて『姉さんの指示に従う』って言ったもんね。


 それに証拠の香炉も手に入ったんだ。


 そう言ったら、熊さんは、とても渋い顔をした。


「……お前の弟は何なんだ?」


 なんて、姉さんに言う。


 姉さんは困ったように微笑んで、


「これがアナリスです」


 と答えた。


 熊さんは額を押さえて「これで10歳……末恐ろしいな……」とブツブツ呟いていた。


 そんな監督役に、レイさんは苦笑し、アリアさんは肩を竦めていた。 


 …………。


 その日の探索は、これで打ち切りとなった。


 ヒュドラに関しては、これほどの大物を村近くに放置しておけないとのことで、後日、改めて上級冒険者たちを派遣することになった。


 ちなみにあのヒュドラは、まだ幼生体らしい。


 成体になると、頭は7つ。


 体長も30メード越えになるそうだ。


 恐らく、小さい頃に香炉に引き寄せられて洞窟に入り、そこで同じような魔物を餌にして成長して、外に出られなくなったのでは……との熊さんの推測だった。


 あと、ヒュドラは毒持ち。


 成体だと、毒液も噴射するんだって。


 知らなかったとはいえ、本当に恐ろしい魔物だったみたいだ。


 …………。


 みんな、無事でよかった……。




 それからルード村を拠点に、5日間、周辺の魔物を駆除した。


 初日みたいな群れや大物はいなかった。


 そして、村周辺で魔物を見かけなくなったところで、姉さんたちの『昇印試験』は終了となった。


 結果については、


「ギルドに帰ってからのお楽しみだ」


 と、教えてもらえなかった。


 残念……。


 証拠となる『魔物集めの香炉』は熊さんが責任を持って、ギルドに届けてくれるそうだ。


 僕は『トールバキン家』にも知らせるようお願いしておいた。 


 熊さんは了承してくれた。


 そして、ルード村を発つ日がやって来た。


 …………。


 これで、姉さんとはお別れだ。


 少し寂しい。


 ハイト村も近いし、父さん、母さんも姉さんに会いたいと思っているだろうから、本当は一緒に帰って欲しかった。


 でも、わがままは言えないよね?


 姉さんも寂しそうだった。


 そんなしんみりした僕ら姉弟を見て、


「近いならお前、一度、里帰りしたらどうだ?」


 と、熊さんがあっさり言った。


 ……え?


「試験結果が出るのも時間がかかるし、1週間ぐらい遅れても問題ないだろ。ま、俺は帰るが、お前らはのんびりして来ていいぞ?」

「…………」

「…………」


 僕と姉さんは、呆けてしまった。


 アリアさんは、


「別にいいんじゃない? 私は構わないわよ」


 と肩を竦めた。


 レイさんも頷いて、


「私も、アナリス君とユフィの故郷には興味があるな」


 と楽しそうに微笑んだ。


 どうやら2人も、ハイト村に行きたいようだ。


 僕と姉さんは顔を見合わせる。


 どちらからともなく、笑顔になってしまった。


 …………。


 そうして僕と姉さんたち3人は、急遽、ハイト村に向かうことが決定した。

ご覧いただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ