052・思わぬ再会
第52話になります。
よろしくお願いします。
目的の村の名前は、ルード村といった。
ハイト村とは昔から交流があって、お互いの村には結婚などで親戚関係の人も多かった。
距離は、徒歩で4~5日。
ルード村に向かうのは、僕と父さん、それとハイト村人3人の計5人だ。
あと、ミカヅキだね。
巨大なダークウルフの引く荷車には、食料や薬などが積まれていた。
そうした物資を野盗などに襲われて奪われないため、僕と父さんとミカヅキには、護衛の役目もあった。
…………。
うん、出番がないことを祈ろう。
そうして5人と1匹は、ルード村へと街道を進んでいった。
夜は野営をしながら、北西へと向かう。
幸いにして護衛の出番もなく、旅は順調だった。
そうして4日目、
(あ……)
街道の先に、木製の柵に囲われた小さな村が見えてきた。
ルード村だ。
周囲が森のハイト村と違って、ルード村の周りには、農作物の畑が広がっていた。
でも、大部分が荒れていた。
父さんの話では、大量発生した魔物によって、ルード村は畑のほとんどを荒らされてしまったんだって。
……酷い話だ。
そうしたことを聞きながら、僕らは村に近づいていく。
……あれ?
よく見たら、村の入り口に1台の馬車が停まっていた。
他の村の支援かな?
でも、馬車は荷馬車ではなく、人を乗せる馬車だった。
そこから、人が降りてくる。
まず現れたのは、大きな熊だ。
いや、正確には、熊の獣人だった。
黒い体毛に覆われた大きな身体に金属鎧を着ていて、背中には戦斧を負っている。
もしかしたら、冒険者かな?
続いて、2人目、3人目が降りた。
2人目は、綺麗な黒髪をした女の人で、円形盾と片手剣を装備していた。
背も高く、とても美人。
3人目は、青い髪で耳が少し尖っていた。
手には魔法の杖がある。
「…………」
見覚えのある姿に、僕は目を丸くしていた。
最後に4人目。
やはり目を引いたのは、黄金色に煌めく長い髪だった。
それを2つ折りのポニーテールにして、前髪だけは目元を隠すように下ろされていた。
その手には、長い槍。
うん、見間違えるはずもない。
父さんも気づいたのか、珍しく少し驚いた様子だった。
パタパタ
ミカヅキの大きな尻尾も、左右に揺れ出した。
…………。
その4人がいるルード村の入り口へと、僕らも近づいていく。
村長さんらしい人と話していた4人も、巨大なダークウルフとそれが引く荷車の接近に気づいたみたいだ。
その顔がこちらを見る。
そして、3つの顔が驚きを表情に浮かべた。
金髪の人が、
「え……アナリス?」
と、僕の名を口にした。
僕は笑った。
うん、久しぶり、姉さん。
…………。
1年も待たず、僕ら姉弟は思いがけなくもルード村で再会をした。
◇◇◇◇◇◇◇
「アナリス君?」
「なんで、アンタがいんのよ!?」
僕の姿に、黒髪美人のレイさん、青髪ハーフエルフのアリアさんも驚いていた。
僕も驚いてるよ。
同行した3人の村人も「ユーフィリアちゃん?」「美人になって……」とざわめいていた。
すると、
「おい、知り合いか?」
熊の獣人が、姉さんたちに問いかけた。
姉さんは「あ、はい」と頷いた。
それから僕らのことを、自分の弟と義理の父、ハイト村の村人たちであると説明していた。
熊さんは「ほう?」と頷く。
僕らの方からも、ルード村に援助物資を届けに来たことを話した。
熊さんは、ダークウルフの引く荷車にも視線を向けて、「なるほどな」と納得した顔をしていた。
僕は首をかしげて、
「えっと……それで、姉さんたちは、どうしてここに?」
と聞いた。
姉さんは微笑んで、
「実は、昇印試験なの」
と答えた。
…………。
……はい?
ポカンとする僕に、姉さんは教えてくれた。
今回、姉さんとアリアさんは『緑印』になるための昇印クエストを冒険者ギルドから提示された。
それが『ルード村近郊の魔物討伐』だ。
ルード村は、魔物災害に遭った。
現在、大量発生した魔物たちはいなくなったけれど、でも、全てが消えた訳ではない。
まだ、それなりの数が近郊に残っているんだ。
冒険者ギルドは、その駆除を、姉さんたちの『昇印試験』として設定したんだって。
…………。
昇印試験って、そんな感じなんだ?
ちなみに、この駆除は、魔物災害に遭った村への国からの支援の側面もあって、クエスト支払いは国がしてくれるそうだ。
ルード村としても助かるだろう。
冒険者ギルドも、国も、みんな利点があるんだね。
すでに『緑印』のレイさんは、昇印する訳ではないけれど、パーティーメンバーとして参加している。
そして、熊の獣人は、
「俺は、3人の監督役だ」
と言った。
実は、この熊さんは『紫印の冒険者』だという。
青印の姉さんより、ランクが3つも上だ。
昇印試験は、姉さんたちにとっても格上のクエストになるので、もしものために同行しているんだそうだ。
もちろん、試験官の役目もあるのだろう。
(なるほどね)
僕はまじまじと、大きな熊さんを見つめてしまった。
視線に気づいて、彼も僕を見る。
それから、
「アナリスっていうと、お前が噂の天才児か?」
なんて聞かれた。
え、何それ?
「9歳でダークウルフを使役し、トールバキン伯爵令嬢を2度も助け、竜使いダイダロスからも一目置かれている……界隈でも噂になってるぞ?」
「…………」
初耳だ。
僕は、姉さんたちを見る。
姉さんは困ったように笑い、レイさんは頷いて、アリアさんは肩を竦めた。
…………。
呆然とする僕の反応に、熊さんは「噂は本当みたいだな」と感心した顔だった。
父さんは、何とも言えない表情だ。
3人の村人は、顔を見合わせている。
…………。
間違ってはいないけれど、何か違う。
だって、ミカヅキは家族だし、クリスティーナ様はみんなで助けたんだし、ダイダロスさんはただの従魔好き仲間というだけだ。
色々と過大評価されている気がした。
熊さんは、
「まぁ、噂ってのはそういうもんさ」
と、牙を見せながら笑った。
…………。
……噂って怖いなぁ。
僕は1人、思わず遠い目になってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
そのあと、ルード村への援助物資の引き渡しは、無事に終わった。
ルード村の村長さんには、凄く感謝された。
父さんと握手を交わして、今後も困ったことがあったらお互いに助け合いましょう、なんて話していた。
…………。
こうして、僕らの仕事は終わった。
なので、僕ら5人と1匹は、このままハイト村に引き上げることになった。
なったんだけど、
「僕とミカヅキは、もう少し残って、姉さんたちの手伝いをするよ」
と、僕は宣言した。
父さんは無言。
ハイト村人3人は、顔を見合わせた。
姉さんも「アナリス?」と驚いた顔だった。
もちろん、本来は僕に関係のない話だったかもしれない。
でも、せっかく姉さんに会えたんだ。
少しは姉さんの役に立ちたかった。
そう思ったんだけど、
「駄目だ」
熊さんは首を横に振った。
「これは、お前の姉さんの大事な昇印試験なんだ。その手助けは、監督役として許可できん」
なんて言う。
姉さんは、寂しそうだ。
レイさんも「気持ちは嬉しいが……」と僕らを慰めるように微笑んだ。
でも、僕も引っ込まない。
熊さんを見据えて、
「僕も、ルード村が困っているのを知った以上、黙って見過ごすことはできません。それなら、僕1人で勝手に周囲の魔物を狩りますよ?」
と、説得を開始した。
試験は大事、それはわかる。
でも、僕も参加すれば、魔物の駆除は早くなる。
いくら試験のためとはいえ、ルード村の危険な状況を長引かせていいだろうか?
いいや、よくない。
そして、もし僕が勝手に魔物を狩ったら、試験も滅茶苦茶になるかもしれない。
それなら僕の同行を許可して、監視した方がいいのでは?
少なくとも、僕は姉さんたちの指示には従う。
それに、熊さんは監督役なんだから、僕の助力も加味した上で試験を判断すればいいのではないだろうか?
というか、それが熊さんの仕事では?
…………。
以上のようなことを、一気に話した。
みんな、ポカンとしていた。
やがて、熊さんは唸るように表情をしかめて、考え込む。
ジロッ
熊の眼がこちらを睨んだ。
もちろん、1歩も引かない。
大好きな姉さんのことに関して、僕は1歩も引く気はなかった。
熊さんは口元を歪めた。
しばしの睨み合い。
…………。
すると、ずっと黙っていた父さんが口を開いた。
「この子の父として謝罪する。だが、アナリスは幼い頃から、こうと決めたことは、周りの誰が何を言おうと譲らない。経験上、諦めるしかないと助言しておこう」
「…………」
熊さんは、額を手で押さえた。
まるで頭痛がするみたいだ。
呻くように「噂通り……いや、それ以上か」と呟いた。
やがて、顔をあげる。
「わかった、同行を許可する。だが、俺の指示には従えよ!?」
と、やけくそみたいに怒鳴った。
僕は笑顔で、
「うん、姉さんたちの指示にね」
と頷いた。
その言葉に、熊さんは肉食獣らしい笑顔を浮かべた。
そんな僕らと試験官の様子に、レイさんは苦笑して、アリアさんは呆れた顔だった。
姉さんは、あわわ……と慌てている。
そんな姿も可愛い。
…………。
うん、大丈夫だよ、姉さん。
きっと姉さんなら合格できる。
そのために、僕も全力で姉さんの試験の手伝いをがんばるからね!
ご覧いただき、ありがとうございました。




