005・少女の記憶Ⅰ(ユーフィリア視点)
第5話になります。
よろしくお願いします。
(……私、死んじゃうのかな……?)
朦朧とした意識の中で、ふと、そう思った。
お父さん、お母さんが冒険に出るのを、いつものように見送って、けれど、2人は予定日を過ぎても帰ってこなかった。
10日が過ぎ、20日が過ぎ……。
気がついたら、家に食材はなくなって、私はもう4日間、水だけしか口にしていなかった。
(……お腹、空いたな)
胃の痛みはすでになくなって、ただただ身体が重い。
今も床に倒れたまま、動けない。
もう……動きたくもなかった。
「はぁ」
1つ、息を吐く。
そして私は、ゆっくりとまぶたを閉じた。
…………。
…………。
…………。
私の名前は、ユーフィリア。
今年12歳。
お父さんとお母さんは冒険者で、あまり家にいることはなかったけれど、家にいる間はずっと優しくて、私をいっぱい愛してくれた。
「ほら、ユフィ! 誕生日プレゼントよ!」
ガシャッ
7歳の誕生日に、私はリボンのついた槍をプレゼントされた。
……何これ?
可愛いお人形が欲しかった私は、ポカンとしちゃった。
でも、お母さんは笑って、
「アンタは、私の娘よ! きっと才能あるわ! だから、これで毎日、槍の練習をするのよ? それで将来は、私たちと一緒に冒険に出ましょう!」
そう言って、私を抱きあげた。
私はびっくりしてしまう。
お父さんは、優しく笑って、そんな私とお母さんを眺めていた。
…………。
それから私は、お母さんに槍の扱い方を教えてもらった。
お母さんがいる時は、毎日、一緒に槍の練習をして、1人でお留守番している時も、毎日、1人で素振りを繰り返した。
毎日、毎日。
5年間、1日も休まずに、私は練習をし続けた。
そして、ある日、
「それじゃあ、行ってくるわね、ユフィ!」
「いい子で待っているんだよ」
お母さんとお父さんは私の身体を抱きしめる。
それから、いつものように笑顔で手を振って、2人は玄関を出ていった。
――それが、私が2人を見た最後だった。
◇◇◇◇◇◇◇
気がついたら、私は、町の治療院のベッドにいた。
たまたま近所の人がお裾分けを持って来てくれて、倒れている私を見つけてくれたそうなのだ。
お役人様と冒険者ギルドの人がやって来て、
『ご両親がダンジョンで行方不明となりました』
と言った。
何を言っているのか、わからない。
わかりたくない。
でも、その人たちはわからない説明を続けて、やがて、親戚の人が私を引き取りに来ると伝えた。
お母さんの義理の弟。
そう名乗る人が、私の前にやって来た。
「…………」
「…………」
目つきが悪くて、全然、喋らない。
(……私、嫌われているんだ)
そう思った。
だって、会ったこともない血の繋がらない子供を引き取るなんて、きっと面倒だもの。
でも、逆らえなかった。
怖かったから。
だから、その人と一緒に、その人の暮らしている村の家へと行くことになった。
馬車で7日ほどの旅。
車内で、その人の家には、5歳になる男の子がいると聞いた。
(お、男の子……)
私は震えた。
よくわからないけど、なぜか私は昔から男の子にいじめられる……。
お母さんは「きっとユフィが好きなのよ」って笑ってたけど、なんで好きな子に意地悪するのかわからない。だから、やっぱり私が嫌いなんだと思う。
(そ、その子も私をいじめるのかな?)
怖かった。
そうして怖いまま、7日間が過ぎてしまった。
空は赤く、夕暮れだ。
辿り着いた村にある1軒の家の玄関前にやって来る。
「…………」
ドキドキ
緊張で心臓が痛い。
私は、この家の新しい家族にならなければいけない……なれるだろうか?
頭の中の誰かが『無理だよ』と言っている。
…………。
この家の男の子は、私を受け入れてくれるのかな?
それとも……?
思わず、スカートの布を両手で握り締めてしまう。
ガタン
そして、私の義理の父となった人が家の扉を開けた。
「帰ったぞ」
中にそう声をかける。
うつむいていた私も、そちらを向いた。
お母さんにどこか似ている女の人と、小さな男の子がこちらにやって来ていた。
(……この子が)
つい、その子を見つめてしまう。
焦げ茶色の髪に、澄んだ青空みたいな青い瞳をした男の子。
「……?」
その子は、私を不思議そうに見つめて、
コテン
と、首をかしげた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
本日は、もう2話更新する予定です。よかったら、また読んでやって下さいね。