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転生した弓使い少年の村人冒険ライフ! ~従姉妹の金髪お姉さんとモフモフ狼もいる楽しい日々です♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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048・ダイダロスと赤竜

第48話になります。

よろしくお願いします。

『ブモォ!?』


 炎に包まれたミノタウロスは、突然の激痛に混乱して暴れ回った。


 バキッ ドォン


 森の木々がへし折れる。


 草木に炎が引火して、周囲は一気に明るくなった。


 ……何が起きたの?


 僕は呆然だ。


 僕の頭を踏みつけるクレイマンも、訳がわからないといった顔だった。


 その時、


 バサッ バサッ


 上空から力強い羽ばたきが聞こえた。


 ハッとして、顔をあげる。


 そこには、夜空を背景に、巨大な翼を広げた真っ赤な竜が飛んでいた。




 体長15メード。


 翼も入れたら、20メードを越えるかもしれない巨大生物だ。


 特に前足が長くて、そこには翼膜が広がり、どうやら翼と一体化しているみたいだった。


 頭部には、長い角が2つ生えている。


 そして、その角に捕まって、1人の赤毛の冒険者が立っていた。


 背中には、巨大な大剣。


(あ……)


 その顔には、覚えがあった。


 前に、宿屋の馬房で会った人だ。


 名前は確か……そう、ダイダロスさんだ!


 王国でも有名な金印の冒険者で、世界でただ1人、竜を従魔にしていると姉さんが話していた。


 ダイダロスさんは、


「おい、お前。その子供に何をしているんだ?」


 と、低い声を発した。


 クレイマンは、咄嗟に応えられない。


 ダイダロスさんと赤い竜の迫力に圧倒されているみたいだった。


 …………。


 その瞬間、奴の意識から僕の存在は消えていた。


 そう感じた瞬間、


(――今)


 僕は、自分の頭を踏みつける足を思いっきり払った。


「!?」


 不意を衝かれ、クレイマンはバランスを崩す。


 僕は回転しながら起き上がり、


「やっ!」


 手にした山刀を振り上げた。


 ザシュッ


 それは魔法の杖を持ったクレイマンの右手首を切断した。


「がっ!?」


 鮮血が噴き、右手が地面に落ちる。


 ダイダロスさんは「お!?」と驚いた顔だ。


 クレイマンは驚愕の表情で、よろめくように後ろに下がっていった。


(――逃がさない)


 僕は、山刀を捨てた。


 そして、狩猟弓に矢をつがえ、奴へと狙いを定めた。


 ズキンッ


「ぐっ」


 瞬間、爆発を受けた腹部に激しい痛みが走った。


 矢を……射れない。


 クレイマンは鬼の形相で右手首に噛みつき、止血しながら、左手の『呼び鈴』を鳴らした。


 チリン


『ブモォオッ!』 


 炎に包まれたミノタウロスが吠えた。


 焼かれる激痛を越えるほど『呼び鈴』の強制力があるのか、瀕死の魔物は、僕へと襲いかかってきた。


 ズシン ズシン


 地響きが迫る。


 僕は、歯を食い縛った。


 ミノタウロスへと必死に狙いを定め、矢を放つ。


 ズパァン


 金属の矢は、ミノタウロスの右の眼球を貫いた。


 けれど、突進は止まらない。


 もはや痛みでは、死を目前にしたミノタウロスの行動を止められなかったのだろう。


 駄目か……。


 恐怖と諦めが頭をよぎった。


 その瞬間、


 ドゴォオン


 上空から急降下した巨大な竜の後ろ足が、ミノタウロスの巨体を踏み潰した。


 地面がひび割れ、陥没する。


 牛の巨人はうつ伏せに倒れ、その頭部は、竜の足の下で四散していた。


 血と肉片が散っている。


 …………。


 まるで隕石が落下したみたいな惨状だ。


 ミノタウロスを1撃で倒した、その威力と迫力を間近で目撃して、僕は、咄嗟に声も出なかった。


 その竜の頭部で、


「ちっ……逃がしたか」


 と、ダイダロスさんが呟いた。


 え?


(あ……)


 見れば、クレイマンの姿がなくなっていた。


 地面には、大量の血痕が残っていて、それは真っ暗な森へと続いていた。


 …………。


 奴に逃げられた。


 でも、正直、助かったかもしれない。


 痛みが強くて、僕も限界だった。


 ペタン


 僕は、その場に座り込んだ。


 脅威が去ったことを実感した安堵か、痛みのせいか、指先が震えていた。


 ギュッ


 その指を押さえて、僕は大きく息を吐いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あのあと、僕は痛み止めの薬草をムシャムシャと食べた。


 それから火傷に効く薬草を潰して、胸とお腹に塗ったあと、包帯でグルグル巻きにした。


(ん……)


 効果が出たのか、痛みが薄れて動けるようになった。


 ダイダロスさんは、


「手慣れてるな」


 と驚いた顔だった。


 僕は、すぐにミカヅキの元へと向かった。


 ミカヅキは、木の根元にうずくまって、苦しそうな呼吸をしていた


 蹴られた腹部は、腫れている。


 …………。


 もしかしたら、肋骨が折れているかもしれない。


 内臓にもダメージがあったろう。


 でも、魔物の回復力は、普通の野生動物よりもずっと高いから、大丈夫だと思いたかった。


 鎮痛、消炎作用のある薬草を塗る。


 塗り終わったあと、


「よしよし」


 僕は励ますように、その首回りを撫でた。


 ミカヅキは、


『クルル……』


 その間だけは痛みを忘れたように、気持ち良さそうに目を細めていた。




 やがて、薬草が効いて動けるようになったミカヅキは、


 ガツガツ


 焼けたミノタウロスの死体を食べ始めた。


 うん、まさに牛の焼肉だ。


 これだけ食べれば、きっと体力も戻って、回復も早まるかもしれない。


 …………。


 その姿を眺めていると、ダイダロスさんが近づいてきた。


 ズシン ズシン


 彼の後ろからは、巨大な赤い竜も歩いてくる。


 僕は、彼に向き直って、


「ありがとうございました、ダイダロスさん」


 と頭を下げた。


 余裕がなかったのもあって、お礼が遅くなってしまった。


 でも、ダイダロスさんは怒った様子もなく、僕らの治療が終わるのを待ってくれて、今も「いや」と笑ってくれた。


 それから、


「無事だったようで何よりだ。だが、いったい何があったんだ? さっきの奴は、野盗か何かか?」


 と聞かれた。


(ダイダロスさん、何も知らずに乱入したの?)


 ちょっと驚いた。


 そんな僕に、彼は苦笑する。


 話を聞けば、どうやらダイダロスさんたちは、たまたま、この森の上空を飛んでいたんだそうだ。


 ところが、その森で魔法の光が見えた。


(……ミカヅキの雷撃かな?)


 それが連続したので、戦闘が行われているとすぐにわかった。


 しかも、それは街道近くの森だ。


 様子を見るために降下すると、案の定、ミノタウロスに襲わている子供を発見して、ダイダロスさんは慌てて加勢してくれたのだそうだ。


 彼は笑って、


「その子供が坊主だとは、すぐには気づけなかったがな」


 と付け加えた。


 そうだったんだ。


 でも、おかげで僕は命拾いした。


 ダイダロスさんは、


「それで、そっちの事情は教えてもらえるのか?」


 と聞いてきた。


 僕は、頷いた。


 命を助けてもらった以上、誠実でありたい。


 僕は、先日、トールバキン家のお嬢様の護衛をしたこと、彼女を襲った犯人の1人がクレイマンで、その時、目をつけられた僕が、今度は実験材料として狙われたことを包み隠さず話した。


 …………。


 彼は目を丸くして、


「おいおい……なんで、9歳の子供が貴族令嬢の護衛をしてるんだ?」


 と呆れ顔をしていた。


 何でだろう……?


 僕にもよくわからない。


 とりあえず、「成り行きで」と曖昧に応えた。


 彼は嘆息して、


「何と言うか……災難だったな」


 と苦笑した。


 正直なダイダロスさんの言葉に、僕も苦笑いしてしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その夜は、心配したダイダロスさんも一緒に野営をしてくれた。


 彼の後ろには、もちろん赤い竜もいた。


 …………。


 僕とミカヅキが生き残れたのは、この巨大な赤い竜がいてくれたおかげだった。


 僕は、赤い竜に近づく。


 ダイダロスさんは気づいて、でも、黙認してくれた。


「…………」


 間近で見ると、本当に大きい。


 まるで小山だ。


 炎を吐く生き物だからか、体温も高くて、近づくだけで暖かかった。


 風貌は、少し恐ろしい。


 でも、その黄金色の瞳には、深い知性の光があった。


 その目と見つめ合う。


 僕は笑って、


「ありがとう、竜さん。おかげで助かりました」


 そうお礼を言った。


 それから、小さな手を伸ばして、その大きな鼻先に触れてみた。


 滑らかな、硬質な鱗。


 そこから、大きな生命力を感じさせる呼吸が伝わってきた。


 ブフッ


 その鼻息が、僕の髪を揺らす。

 

 その様子を眺めて、


「ガロンのことを怖がらず、初見でそこまで近づいて触れるような奴は、初めて見たな」


 と、ダイダロスさんは、どこか嬉しそうに言った。


 …………。


 その夜は、寝る前に、彼と色々話をした。


 特に、従魔の話題は、お互いに感覚が合うのか、話が弾んでしまった。


 クレイマンの襲撃については、ダイダロスさんの方からトールバキン家と騎士団に報告してくれるそうだ。


 あと、姉さんにも。


 でも、姉さんが心配するので、怪我したことは内緒にしてくれるようお願いした。


 ダイダロスさんは「男だな」と笑った。


 …………。


 夜が更けて、僕は眠りにつく。


 やがて、東の山脈に太陽が顔を出して、朝が来た。


 


「それじゃあ、坊主。達者でな!」


 バサッ


 早朝の空へと、ダイダロスさんと彼を乗せた赤い竜は飛び立っていった。


 僕は、大きく手を振る。


 やがて、その竜の姿は、森の木々の向こうに消えていった。


 それを見届けて、僕とミカヅキも旅を再開した。


 …………。


 次の村までは、僕も自分の足で歩いた。


 怪我したミカヅキを気遣ってだ。


 村の宿屋には3日間ほど逗留して、しっかりと身体を休めることにした。


 ミカヅキは、ずっと眠っていた。


 4日目から、再び出発。


 クレイマンの襲撃を心配していたけど、幸いにしてそれはなかった。


 もしかしたら、手首が切断された影響で、向こうも僕のことを襲うだけの余裕がなくなったのかもしれないね。


 何にしても、よかった。


 …………。


 道中の街道で、小さな魔物に遭遇することもあった。


『ガウッ』


 それはあっさり雷撃の餌食になって、ミカヅキの胃袋に収まって大事な栄養となった。


 これで回復が早まるかな?


 …………。


 そんなこんなで、領都を出てから23日目。


 周囲の風景は懐かしいものになった。


(……うん)


 僕は自然と笑みをこぼす。


 予定より少し遅れたけれど、僕らは無事にハイト村へと帰り着いたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 子どもの危機にズバッと参上、ズバッと解決! さすらいのヒーロー! 快傑ズb……。 じゃなくて、まさかのダイダロスのおっちゃん登場。 お陰でアナリスもミカヅキ…
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