045・無事に帰還して
第45話になります。
よろしくお願いします。
戦闘は終わった。
怪我をした騎士は何人かいたけれど、みんな軽傷で死人は出なかった。
うん、よかった。
治療には、僕の持ってきた薬草も使ってもらった。
「助かるよ、ありがとう」
2度目なので、隊長さんにはすぐ喜んでもらえた。
姉さんたちは、魔物の素材を回収して、残った部位はミカヅキが食べて片付けてくれた。
クリスティーナ様は、
「皆様、さすがでしたわ!」
と、馬車の窓から興奮していた。
命を狙われたことの恐怖やトラウマもなさそうで、僕は安心した。
ただ一方で、
「…………」
アリアさんは、ずっと黙っていた。
因縁の探し人をようやく見つけて、けれど、逃がしてしまったのだ。
…………。
その心中を思うと、僕も苦しい。
レイさん、姉さんも、何と声をかけていいか、わからないみたいだ。
……うん。
僕は、あの黒いローブの3人がいた岩の下へと向かった。
地面を探す。
(あ……あった)
見つけたのは、壊れた『黒い笛』だった。
それを拾って、みんなの所へ戻る。
そして、僕は、その黒い笛をアリアさんに差し出した。
「……何よ?」
怪訝そうなアリアさん。
僕は言った。
「えっと、これ、あの3人が持ってたんだ。この証拠を伯爵様に調べてもらえば、犯人のこと、もっとわかるかもしれない」
アリアさんは驚いた顔をした。
今回の襲撃は、計画的だ。
裏に、何らかの組織があるのかもしれない。
そして、この手がかりで組織のことがわかれば、犯人の1人、クレイマンというエルフの居場所もわかるかもしれないと思ったんだ。
その意図が伝わったのだろう。
アリアさんは、黒い笛を見つめて、
「そうね」
と頷いた。
黒い笛を受け取る。
それから、彼女はその手を伸ばして、僕の頭を強く撫でた。
「ありがと、アナリス」
少し優しい声で、そう言った。
……ん。
僕は黙って、彼女の感謝を受け止めた。
そんな僕らに、レイさん、姉さんも安心したような顔だった。
…………。
やがて、再出発の準備も整うと、僕らは再び領都への帰路についたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
10日後、僕らは領都アルパディアに到着した。
あれ以降、次の襲撃はなかった。
こちらも警戒を強めていたから、手が出せなかったのかもしれないし、他の理由があったのかもしれない。
何にしても、無事の帰還だ。
屋敷に戻ると、トールバキン伯爵から直々に「ご苦労だったね」と言葉をかけられた。
期待には応えられたみたい。
実際に襲撃があって、それを防いだから追加報酬ももらえることになった。
「やったね、アナリス」
姉さんと、そう喜んだ。
それから『黒い笛』についての調査もお願いすると、伯爵様は快諾してくれた。
娘が狙われたのだ。
伯爵様も本気で調査するだろう。
その調査結果、特にクレイマンという人物についての情報は、僕らにも報告してくれると隊長さんが約束してくれた。
(うん)
その報告に期待したい。
アリアさんも文句はなさそうだった。
やがて、屋敷を去ろうとしたら、クリスティーナ様から「アナリス様と別れたくない」と泣かれてしまった。
……えっと。
腕にすがられ、引き留められる。
伯爵様とライシャさんが、必死に宥めてくれた。
僕は困って、
「また会えますよ」
と笑いかけた。
お嬢様は「……約束ですよ?」と涙の溜まった橙色の瞳で僕を見つめた。
僕は「はい」と頷いた。
それで、ようやく納得してくれたみたいだ。
腕を解放され、今度こそ、伯爵家のお屋敷をあとにする。
その帰り道で、
「……アナリス、あのお嬢様に気に入られちゃったね」
と、姉さんが低く呟いた。
え?
見ると、なぜか不機嫌そうだ。
長い金髪を揺らして、「ふん」とそっぽを向かれてしまう。
え……ね、姉さん?
僕は焦ってしまう。
そんな僕ら姉弟に、レイさんはおかしそうに笑い、アリアさんは呆れた顔をしていた。
…………。
そんな感じで、僕の初めての護衛クエストは終わった。
◇◇◇◇◇◇◇
あれから5日が経った。
僕は、姉さんたち3人と討伐クエストをしながら、村に帰る準備も進めていた。
予定より、1ヶ月遅れだ。
とはいえ、お金も稼げたからいいかな、とも思う。
そうそう、クリスティーナ様の各地の神殿を巡る安産祈願は、今後はしばらく延期となったそうだ。
先日の襲撃は、明らかに人為的だったからね。
当然の決断だろう。
お嬢様はがっかりしているそうだ。
ちなみに、もし延期じゃなかったら、僕は村に帰れず、再び護衛として雇われていたかもしれない。
…………。
あ、伯爵家関連でもう1つ。
実は、冒険者ギルドから、姉さんの両親の再捜索が開始されたことも伝えられたんだ。
トールバキン伯爵様が、ちゃんと動いてくれたんだね。
まだ始まったばかりだけど、何か新しい手掛かりが見つかったらいいな……。
村に帰る日が近づく。
すると、姉さんは時々、落ち込む顔を見せるようになった。
「……アナリスが帰ると寂しいな」
そう悲しそうに微笑む。
……うん、僕も寂しい。
でも、僕はハイト村の『狩人』だし、父さん、母さんに親孝行もしないで村を離れたくないんだ。
僕は、無理に笑って、
「また来年、姉さんに会いに来るよ」
「うん」
姉さんもがんばって笑ってくれた。
それから、姉さんは寂しさを埋めるように、ずっと僕のそばに寄り添うようになった。
食事とか、寝る時とか、凄く身を寄せてくる。
正直、少し恥ずかしい……。
でも、嬉しい気持ちもあったので、姉さんの好きにさせた。
…………。
元気出してね、姉さん。
そんなある日のこと。
冒険者ギルドにいた僕ら4人の元に、女騎士のライシャさんが訪ねてきた。
彼女は、
「調査報告を伝えに参りました」
と言った。
(!)
それは、あの旅での襲撃に関してと、クレイマンというエルフについての報告だ。
ずいぶん早い。
アリアさんの表情も変わった。
秘密情報なので、貴族の権限でギルドの個室を借りて、話を聞かせてもらうことになった。
皆で席に着く。
ライシャさんは、僕らを見回して、
「今回の襲撃には、犯罪者ギルドが関わっていたようです」
と口にした。
…………。
犯罪者ギルド……?
ご覧いただき、ありがとうございました。




