039・領都観光
第39話になります。
よろしくお願いします。
翌日は、久しぶりの休日となった。
ここ最近、ずっと討伐クエストをしていたからね。
冒険者は身体が資本なので、しっかり休みを取るのも大事なことだ、とレイさんに言われてしまったんだ。
(今日はどうしよう?)
迷っていたら、
「じゃあ、私と街の観光する?」
と姉さん。
そう言えば、せっかく領都に来たのに、全く観光していなかったっけ。
僕は笑って「うん」と頷いた。
そうして本日は、姉さんと1日デート観光することになったんだ。
領都アルパディアは広い。
人口20万人もいる巨大都市なんだ。
何があるのか僕は知らないので、今日のデートコースは姉さんにお任せした。
「うん、任せて」
と、頼もしい姉さん。
実は、僕が領都に来ることが決まってから、色々と下調べしていてくれたそうだ。
ありがとう、姉さん。
ちなみにミカヅキは、宿屋の馬房でお昼寝中。
僕と姉さんは2人きりで、手を繋ぎながら、人の多い街中を歩いていく。
最初に行ったのは、パン屋さん。
姉さんお気に入りのお店だそうで、焼き立てのパンも買ってもらった。
どれどれ?
モグモグ
ん、これは美味しい!
こっちの世界のパンは、硬くて黒っぽいものが多かった。
でも、ここのパンは、前世のパンにも劣らない白さと柔らかさがあった。
うん、最高だ。
満面の笑みで頬張る僕に、
「ふふっ、アナリスの口に合ったみたいでよかった」
と、姉さんも笑っていた。
パン屋のご主人と店員さんたちも嬉しそうだった。
ここには、また買いに来ようっと。
次に訪れたのは、武器・防具屋だった。
レイさん、アリアさんの行きつけで、姉さんもお世話になっているそうだ。
(わぁ……いっぱいあるね?)
強そうな剣、頑丈そうな盾、格好いい鎧、などなど、たくさんの品が並んでいる。
僕だって男の子。
こういった物には、心が躍ってしまう。
姉さんは、
「アナリスの使っている矢、何本か駄目になっていたでしょ? だから、ここで補充したらどうかなって」
と、案内理由を教えてくれた。
そっか。
実はそうなんだよね。
村から出る時は7本、金属矢を用意してたんだ。
けど、使っている間に折れ曲がったり、歪んだりして、今は使えるのが4本だけなんだ。
ちょうどいいので、3本、購入しよう。
今はデート中だし、姉さんたちの行きつけのお店だったのもあって、購入した矢は宿屋まで届けてもらえることになった。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げて、きちんとお礼を言った。
お店の人は、
「今日はユフィお姉ちゃんとのデート、楽しみなよ?」
と片目を閉じた。
それに僕と姉さんは顔を見合わせ、つい笑ってしまった。
そのあとも、姉さんとのデート観光は続いた。
有名な噴水公園、ブランド店の並んだ大通り、希少な薬草だけを扱った薬草店……特に、最後の薬草店は楽しかった。
(世の中には、色んな薬草があるんだね?)
凄く勉強になったよ。
目をキラキラさせる僕に、
「……アナリスは、やっぱりアナリスのままだよね」
と、姉さんは笑っていた。
(???)
どういうこと……?
…………。
そんな感じで、デートは続いた。
昼食も、立派なレストランでご馳走になった。
村の素朴な料理、ギルド2階の安くて量の多い料理とはまた違って、上品なお味の料理でこれも美味しかった。
でも、値段的に滅多に来れないかな?
今日だけは、特別に姉さんが奮発してくれたみたいだ。
そして、午後。
次はどこに行くのかと期待する僕に、
「じゃあ、今度は、領都で1番有名な『神聖レクトア大神殿』に行ってみようか?」
と、姉さんは微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
僕の転生したローランド王国。
そこでは、前世の日本と違って、主に1つの宗教が信仰されていた。
それが『レクトア神教』だ。
たくさんの神様がいる中で、1番偉いのがレクトア神なんだって。
そして、そのレクトア神を祀っている神殿は各地にあって、この領都アルパディアにある『神聖レクトア大神殿』は国内有数の大神殿なんだそうだ。
…………。
そんな訳で、やって来た。
「おぉ……」
凄い人だ。
領内各地から、たくさんの参拝客が訪れているみたい。
僕と姉さんも、その内の2人だ。
神殿も荘厳で神々しい。
敷地面積だけで、ハイト村が何個か入ってしまいそうだ……。
あんぐり口を開けている僕に、姉さんはおかしそうに「ふふっ」と笑う。
「私も初めて見た時、同じ反応だったよ?」
と告白してくれた。
そうなんだ……?
でも、わかる。
これだけの規模の神殿は、前世の日本でもないかもしれない。
それぐらいの物なんだ。
何人か案内の神官さんが立っていて、その誘導に従って、僕と姉さん、多くの参拝客は奥へと進む。
やがて、巨大な広間に出た。
美しい天井画。
煌びやかなステンドグラスの窓。
そして中央には、高さ15メードはある巨大な女神像が立っていた。
「…………」
これがレクトア神?
見れば、参拝客はみんな、手を合わせて拝んでいる。
隣の姉さんもそうしていた。
僕も真似をする。
…………。
もしかしたら、僕が転生したのはこのレクトア神の導きなのかな?
僕は拝んだまま、
(今生では健康な肉体をくださって、そして、姉さんに出会わせてくれて、ありがとうございます)
と感謝を祈った。
ポワッ
なんとなく、胸の奥が温かくなった気がする。
しばらくそうしてから、目を開けた。
見れば、すでに姉さんはお参りを終えていて、微笑みながら僕を見ていた。
「帰ろっか?」
「うん」
僕は頷いた。
手を繋いで、また人の流れに乗って歩きだす。
その時、
ドンッ
(わっ?)
まだ立ち止まっている人がいて、僕はぶつかってしまった。
軽い僕は、転倒する。
姉さんは「ア、アナリス、大丈夫?」と慌てていた。
僕は「あ、うん」と頷く。
それから、ぶつかってしまった人を見た。
その人は、ローブを羽織ったエルフの男の人だった。
長い銀髪。
そこから細長い耳が伸びていて、その美しい碧色の瞳は、静かにレクトア神像を見上げていた。
(……?)
その視線が僕に向く。
「すまない、坊や。大丈夫かい?」
そう声をかけてきた。
僕は「はい」と頷き、エルフさんも手を貸してくれて、すぐに立ち上がれた。
姉さんが、
「す、すみません」
と謝る。
彼は「いや」と微笑み、そして、人の流れに乗って去っていった。
僕は、その背中を見つめる。
姉さんは、
「ごめんね、アナリス。私がいたのに」
と謝った。
僕は笑って、
「ううん。僕こそ、ちゃんと前を見てなかったから。ごめんなさい」
と謝り返した。
お互いに謝罪してしまい、姉弟で笑い合った。
それから、再び歩きだす。
今度は転ばせないようにと、姉さんの手には、さっきより強い力がこもっていた。
少し痛い。
けど、その愛情が嬉しい。
そうして歩きながら、
「…………」
ふと、さっきのエルフさんの消えた方を見た。
あの時の彼の瞳。
レクトア神の像を見つめる瞳には、深い憎悪と冷たい殺意の輝きが滲んでいたように思えた。
…………。
気のせいかな?
僕は首をかしげ、そうして姉さんと一緒に、神聖レクトア大神殿をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇
夕方、宿屋に帰ってきた。
馬房のミカヅキに『ただいま』の挨拶をしてから、建物に入った。
すると、女将のポーラさんに、
「おかえり、2人とも。――あと、アナリスにお客さんが来てるよ?」
と言われた。
え……僕に?
思わず、姉さんと顔を見合わせてしまった。
こっちの知り合いなんて、レイさんとアリアさんぐらいだけど……誰だろう?
なんでも、その人は昼前ぐらいからずっと待っているという。
うわ、ずいぶんと待たせちゃったね?
宿の食堂にいるとのことで、僕らはすぐに向かった。
…………。
食堂には、何人か宿泊客もいた。
でも、その中で1人だけ、異彩を放つ赤毛の『女騎士』が座っていた。
僕は目を瞬く。
姉さんは『誰……?』と長い金髪を揺らして、首をかしげた。
その人もこちらに気づいて、
「こんにちは。お久しぶりです、アナリス様」
と微笑んだ。
…………。
えっと……ライシャさん、だっけ?
うん、あの時のトールバキン家の5人の騎士にいた女騎士さんだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。




