035・2人の過去
第35話になります。
よろしくお願いします。
その日の夕食は、冒険者ギルドの2階で食べることになった。
食事は、姉さんたちの奢りだって。
姉さんは、
「今日は私たち、何もしなかったもの。せめて、これぐらいはさせてね?」
と言っていた。
レイさんも頷き、アリアさんは肩を竦めていた。
少し迷ったけど、僕は、その厚意を素直に受けることにしたんだ。
ちなみにミカヅキも、ギルドの馬房で、約束のお肉をたくさん届けられているはずである。
きっと尻尾を振って、喜んでるだろうなぁ。
そんなことを思いながら、料理を口に運ぶ。
パクッ モグモグ
うん、美味しい。
満面の笑みで食べていると、
「次は、アナリス君だけでなく、私たちも実力を見せないといけないな」
と、レイさんが言った。
え、次?
僕はキョトンとする。
でも、姉さんは頷いて、
「そうだね。私たちもいいところ、見せないと」
と両手を握る。
アリアさんも「ふん」と鼻を鳴らして、
「このままじゃ、年上の沽券に関わるものね。コイツに調子に乗られても嫌だし」
と僕を見る。
3人とも、当たり前のように話していた。
…………。
あれ?
もしかして、これ、明日も討伐クエストをする流れかな?
結局、明日の再会を約束して、僕らは解散となった。
まぁ、いいか……。
元々は、姉さんが今、どんな暮らしをしているのか見たくて、領都までやって来たのだ。
これが、冒険者の生活。
姉さんの日々だというなら、僕も一緒にいよう。
…………。
そうして、僕と姉さんは宿屋に戻った。
お風呂上りの姉さんは、濡れた金色の髪をタオルで拭いていた。
姉さんの髪は、とても長い。
大変そうなので、僕も手伝った。
「ありがとう、アナリス」
少し恥ずかしそうに、姉さんは微笑んだ。
ポフ ポフ
タオルで挟むように、綺麗な髪から余分な水気を吸う。
そうしながら、
「あのさ……姉さんは、クレイマンってエルフ、知ってる?」
と聞いてみた。
姉さんは「え?」と目を瞬く。
それから、
「あ……もしかして、アリア?」
「うん」
「そっか、アナリスも聞かれたんだね」
その言い方だと、やっぱり姉さんも同じ質問をされたみたいだ。
姉さんは、吐息をこぼす。
…………。
少しだけ間が空いて、
「えっとね、私もそのエルフのことは知らないの。でも、アリアの妹の仇だって……前にアリアが、口を滑らせたことがあったよ」
と教えてくれた。
妹の仇……。
思った以上に重い話だった。
クルッ
姉さんが僕を振り返る。
僕を見つめ、それからギュッと抱き締めてきた。
姉さん?
驚く僕の耳に、
「アナリスは……いなくならないでね?」
少し震えた声が届いた。
…………。
アリアさんは、妹さんを亡くした。
姉さんだって、実の両親が行方不明のままだった。
どちらも、家族を失っていた。
僕は目を閉じる。
「うん。大丈夫、僕はいなくならないよ」
そう笑って、
ポンポン
まだ濡れた姉さんの髪の上から、その背中を軽く叩いてあげた。
◇◇◇◇◇◇◇
「さぁ、行こうか」
翌日、レイさんの言葉で、僕らは馬車に乗り込んだ。
本日も討伐クエストだ。
討伐対象の魔物は、領都から馬車で5~6時間ほどの草原地帯に生息しているそうだ。
ガラガラ
馬車は街道を進んでいく。
もちろんミカヅキは、そんな僕らの馬車を追いかけていた。
…………。
移動時間が長いので、車内で色々と話をした。
その中で僕は、
「レイさんとアリアさんは、どうして冒険者になったの?」
と聞いてみた。
姉さんは、伯父さん、伯母さんを探すためになった。
なら、2人は? と思ったんだ。
レイさんとアリアさんは、お互いの顔を見る。
それから、
「そうだな……まぁ、簡単に言えば、私もアリアもそれしか生き方を知らなかったからだろう」
と、レイさんが答えた。
アリアさんは、肩を竦める。
レイさんは、自分の艶やかな黒髪に触った。
そして、
「私は、トゥラン人の集まる傭兵団の生まれなんだ」
傭兵団……?
キョトンとなる僕に、レイさんは教えてくれた。
トゥラン人は生まれつき身体能力が高く、傭兵になる者が多い。
そして、レイさんは、そんな傭兵団の1つで傭兵夫婦の子供として生を受けたのだそうだ。
つまり、彼女は生まれながらの『傭兵』だ。
レイさんが若いのに剣士の技量が高いのは、そのためらしい。
ただ、両親は幼い頃に戦死。
傭兵団自体も3年前に解散して、消滅してしまったんだって。
レイさんは、
「だから、剣しか知らない私が生きるためには、冒険者になるしかなかった」
と、小さく笑った。
…………。
そうだったんだ……。
レイさんは、アリアさんを見る。
「アリアは、10年前、街道で行き倒れていた子供でな。たまたま通りがかった傭兵団が拾ったんだ」
「…………」
行き倒れ……?
僕も、青い髪のハーフエルフさんを見てしまう。
彼女は、ずっと窓の方を向いていた。
レイさんは、
「詳しい過去は知らない。聞く気もない。――だが、私たちは、それ以来の友人だ」
はっきりした口調で断言する。
ふと、窓に映るアリアさんの口元が笑みをこぼした。
…………。
なるほど、それで2人で冒険者になったんだね?
人生色々だ。
去年、ギルドの勧めで姉さんが加入するまでは、ずっと2人で冒険者を続けていたそうだ。
…………。
僕は言った。
「そうした友達がいるって、いいね」
レイさんは目を丸くした。
黒髪を揺らして、おかしそうに笑う。
「そうだな」
と頷いた。
姉さんも微笑んでいて、アリアさんはなぜか顔をしかめていた。
…………。
馬車では、それからも話をした。
レイさんが、実は1人だけランクが高く『緑印の冒険者』だったこと。
アリアさんが、お酒が苦手なこと。
姉さんが、最初にパーティーを組んだ自己紹介で、見ている側が可哀相になるぐらい緊張していたこと。
最後の話に、
「な、なんでアナリスに言うのっ?」
と、姉さんは真っ赤になっていた。
その反応に、姉さんには悪いけど、僕らは余計に笑ってしまった。
…………。
やがて、馬車は目的地へと到着した。
「さぁ、行こうか」
レイさんは黒髪をなびかせ、馬車を降りた。
姉さん、アリアさんも続く。
「…………」
僕は、3人の背中を見つめた。
……うん。
小さく笑って馬車を降り、すぐに姉さんたちを追いかけた。
ご覧いただき、ありがとうございました。




