033・討伐と報酬
第33話になります。
よろしくお願いします。
草むらから、赤褐色の魔物の群れが飛び出してきた。
(これがゴブリン?)
大きさは、子供の僕と同じぐらいだ。
数は7~8匹。
ゴブリンたちの手には、錆びた剣や斧などが握られていた。
円形盾を構えたレイさんが前に出る。
「むんっ」
ガギィン
振り下ろされた斧を、火花と共に弾き返して、
ヒュッ ザシュン
体勢を崩したゴブリンを、即座に右手の片手剣で斬り伏せた。
――強い。
滑らかな動きだ。
それだけで、レイさんは、剣士として確かな実力があるんだなと理解できた。
でも、ゴブリンの数が多い。
レイさんは、あっという間に包囲されてしまう。
だけど、
「やっ!」
姉さんの槍がゴブリンの1匹の胸を貫いた。
包囲が崩れる。
その隙を逃さず、レイさんは別のゴブリンを倒していく。
いい連携だね?
レイさんが3匹。
姉さんが2匹。
それぞれにゴブリンの相手をしていく。
そんな中、アリアさんは少し離れた場所で、手にした杖の魔法石を青く輝かせていた。
ブツブツと呪文を詠唱している。
魔力の波動に、青色の長い髪が踊る。
そして、アリアさんは光る杖を高く掲げた。
ゴポッ ゴポン
『!?』
『!?』
姉さんの前にいた2匹のゴブリンの頭部が、突然、青い水の球体に包まれた。
鼻や口から気泡があがる。
(水の魔法?)
魔法というものを、僕は初めて見た。
ジタバタ
窒息したゴブリンたちは暴れる。
隙だらけだ。
ドスッ ドスッ
姉さんの槍は、その2匹のゴブリンの心臓を正確に貫いた。
地面に倒れるゴブリン。
姉さんは槍を構えたまま、チラッとアリアさんを見る。
コクッ
微笑み、小さく頷いた。
アリアさんも笑みを返す。
そして、その間に、レイさんは更に1匹のゴブリンを倒していた。
『ヒギ……』
残された2匹のゴブリンは怯んだ顔をする。
バッ
次の瞬間、身を翻して、脱兎のごとく逃げ出した。
ヒュッ
レイさんの片手剣が、その背を掠る。
「ちっ」
レイさんは舌打ちする。
美人だけに、その仕草も格好いい。
「…………」
僕は手にした狩猟弓を引き絞った。
ヒュッ ズパン
ゴブリンの後頭部に、金属の矢が突き刺さった。
「む?」
「はっ?」
レイさん、アリアさんが驚いた顔をした。
2射目。
ズパン
最後の1匹のゴブリンも頭を射抜かれ、地面に倒れた。
よし。
僕は「ふぅ」と弓を下ろす。
ふと見れば、姉さんが表情を輝かせて、こちらを見ていた。
「さすがだね、アナリス」
なんか嬉しそうだ。
それに、僕も笑った。
……うん。
少しは僕も姉さんたちの役に立てたかな?
◇◇◇◇◇◇◇
あのあと、姉さんたちは、ゴブリンの死体から魔石を取り出した。
砂粒みたいなサイズ。
「ちぇっ……しけてるわねぇ」
それを手の中で揺らしながら、アリアさんは唇を尖らせた。
姉さんは苦笑する。
「ゴブリンだもん。こんなもんだよ」
「……ま、そうね」
アリアさんは肩を竦めた。
レイさんは、そんな2人を眺めて微笑む。
それから僕を見て、
「しかし、いい弓の腕をしているな。あの距離で当てるとは、さすがに驚いた」
と言った。
僕は「ありがとうございます」とはにかむ。
美人に褒められるのは、やっぱり嬉しい。
アリアさんは「まぐれでしょ?」と不満そうに呟いた。
でも姉さんが、
「アナリスは、5歳で魔爪の白熊を倒してるんだよ? あれぐらい当たり前だよ。ね、アナリス?」
と笑いかけてきた。
僕は「うん」と正直に頷いた。
まぁ、魔爪の白熊については、姉さんとミカヅキもいたからだけど……。
レイさん、アリアさんは目を丸くする。
「5歳?」
「嘘でしょ?」
2人の視線が僕を見る。
…………。
えっと……とりあえず僕は、ニコッと笑っておいた。
レイさんが、
「なるほど……これがアナリス君か。いつもユフィが自慢する訳だ」
と呟いた。
ちなみに、その間、ミカヅキはゴブリンの死体を食べていた。
ガブッ ガツガツ
7匹もいるので、満足そうだ。
ゴブリンの素材はお金にならないらしいから、3人も許してくれたんだ。
(それにしても……)
僕は首をかしげた。
「どうしてゴブリンは、僕らを襲ってきたんだろう?」
「え?」
僕の呟きに、姉さんが反応する。
いや、だって、こっちは武装もしていたし、ダークウルフの存在もあったのだ。
勝ち目は低いと思うのに。
そう言うと、
「えっと……それは、多分ね……その……」
と歯切れが悪い。
(???)
見れば、アリアさんもそっぽを向いていた。
そして、
「ここに、3人も女がいたからだ」
とレイさんが答えた。
え?
僕はキョトンとなった。
「ゴブリンは性欲が強い。奴らは、異種族のメスを孕ませることもできる。つまりはそういうことだ」
「…………」
僕は、目が点だ。
姉さん、アリアさんは視線を逸らす。
つまり、レイさん、アリアさん、姉さんの3人に欲情して襲ってきた……と?
レイさんは頷いた。
「奴らは、欲望に従って生きているからな」
そうなんだ……?
姉さんは真っ赤な顔でうつむき、アリアさんも耳まで赤くしながら、そっぽを向いていた。
僕は、
「えっと……3人とも美人だもんね」
曖昧に答えた。
レイさんは、少し驚いた顔をする。
すぐに微笑んで、
「君は、なかなか見る目があるな」
クシャクシャ
その手で、僕の髪を少し乱暴に撫でた。
◇◇◇◇◇◇◇
夕方、冒険者ギルドに帰ってきた。
「さぁ、君の報酬だ」
ドン
ギルド2階のフードコートで、僕の目の前のテーブルに革袋が置かれた。
中身は、ゴルダ硬貨。
クエスト達成の報告を、レイさんがして来てくれたのだ。
硬貨を数える。
(……え?)
32ゴルダ――3200円分も入っていた。
僕は目を瞬く。
「こんなにもらっていいの?」
「あぁ」
レイさんは頷いた。
姉さんが笑って、
「薬草採取は、アナリス1人でがんばったんだもの。それだけもらってもいいんだよ?」
と言った。
今回の報酬は、全部で47ゴルダだったそうだ。
クエスト報酬が40ゴルダ。
ゴブリンの魔石が7つで7ゴルダ。
その内の32ゴルダも、僕1人でもらってしまった。
…………。
でも、その分、姉さんたちの報酬が少ない。
1人5ゴルダ。
500円でしかない。
これは、さすがに申し訳なかった。
でも、
「今日は、アンタのための冒険でしょ? アタシらはいつも、もっと稼いでるんだから。ガキが余計な気遣いしてんじゃないわよ」
と、アリアさん。
姉さん、レイさんも頷いた。
…………。
「ありがとう、姉さん、レイさん、アリアさん」
僕は、3人に深く頭を下げた。
しかし、1日で3000円以上稼げるなんて……。
「冒険者って儲かるね」
僕は呟いた。
1時間、薬草を集めるだけで4000円。
しかも、ゴブリンというお小遣いのおまけ付きだ。
村の収入とは大違い。
姉さんは「そうだね」と苦笑した。
「でも、そう感じるのはアナリスだからだと思うよ? 普通の初心者冒険者は、もっと苦労するんだから」
そうなの?
…………。
少し考えて、
「領都にいる間、僕、もっとお金稼ごうかなぁ?」
と口にした。
滞在期間は、1ヶ月。
稼げるだけ稼いだら、父さん、母さんも喜んでくれるかもしれない。
不猟の年でも安心だ。
僕の言葉に、3人は顔を見合わせた。
そして、レイさんが、
「ならば、明日は、魔物の討伐クエストでも受けてみるか?」
と提案した。
魔物討伐……?
僕は、3人を見る。
アリアさんは肩を竦めて、
「まぁ、アンタ、弓の腕はいいみたいだし? ダークウルフもいるし? 多少、危険だけど、やれるかもね」
と言った。
姉さんも、
「うん、アナリスなら大丈夫かな」
と頷く。
レイさんは笑って、僕の前にある革袋を指差した。
そして、
「クエストにもよるが、最低でもその3倍は稼げるぞ?」
「やる!」
その言葉に、僕は即答した。
その時の僕は、目がお金マークになっていたかもしれない。
姉さんたちは苦笑する。
レイさんが「決まりだな」と頷いた。
…………。
そうして明日、僕ら4人は『魔物の討伐クエスト』をすることになったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。




