032・薬草採取クエスト
第32話になります。
よろしくお願いします。
翌日、僕らは、領都の正面門前の広場で待ち合わせをした。
今日はミカヅキも一緒だ。
道行く人は、みんな、お座りしているダークウルフの巨体に振り返っていた。
やがて、
「おはよう、ユフィ、アナリス」
「……ふんっ」
レイさん、アリアさんが到着した。
僕は「おはようございます」と2人に挨拶した。
姉さんも、
「おはよ」
と笑っていた。
そして2人の視線も、自然と僕の隣のミカヅキへと向けられた。
「おぉ……大きいな」
レイさんは感嘆の声をあげる。
アリアさんは、
「何よ、コイツ……魔力契約してない従魔じゃない。大丈夫なの?」
と眉をしかめた。
魔力契約?
キョトンとなる僕に、2人は教えてくれた。
本来、従魔とは魔法によって契約し、魔力によって主人の命令に絶対的に従わせるというのが主流なのだそうだ。
僕とミカヅキの間に、そんな契約はない。
そうした主従関係は珍しく、それは『自然契約』と呼ばれるそうだ。
アリアさんは、
「自然契約の場合、従魔に殺される主人も多いらしいわね」
と、いやらしく笑った。
ふ~ん?
特に反応を示さなかった僕に、アリアさんは表情を曇らせる。
「……つまんな」
と、そっぽを向いてしまった。
……?
あ、僕を怖がらせようとしたのか。
今更、気づいた。
(でもなぁ)
僕はミカヅキを見る。
気づいたミカヅキも、僕を見た。
信頼だけの灯った瞳。
疑念も、敵意も何もない。
うん、ミカヅキが僕に何か悪いことをするとは、まったく思えなかった。
(だって、家族だもんね?)
モフモフ
首を撫でる。
ミカヅキは、気持ち良さそうに金色の目を細めた。
「ふふっ」
姉さんが微笑む。
アリアさんは、唇を尖らせていた。
レイさんは苦笑して、
「それじゃあ、クエストに行くとしようか」
と言った。
僕らは頷く。
そうして、4人と1匹で領都を出発して薬草採取に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
クエストは、朝の内にレイさんが受注してくれたらしい。
依頼内容は、薬草採取。
場所は、領都から歩いて2~3時間ほどにある草原だ。
…………。
ミカヅキの背に揺られながら、無事に到着。
ちなみに、僕だけミカヅキに乗っていたのは、姉さんたちの歩幅に9歳の足で合わせるのが大変だったからだ。
「よっ」
僕は、ミカヅキの背から草原に降りた。
広い草原だ。
ハイト村が丸ごと、何個も入ってしまいそうな規模の広さだった。
「さて、どうする?」
レイさんが僕に問いかけた。
ん?
「ここはアナリス君の好きにやっていい。お手並み拝見だ」
と、彼女は笑った。
姉さん、アリアさんも異論はなさそうだ。
僕は少し考えて、
「じゃあ、依頼書、見せてもらってもいいですか?」
と聞いた。
レイさんは「あぁ」と頷いて、荷物から依頼書を取り出してくれた。
ふむふむ。
「集める薬草は、オリビエの葉、レダの葉、シュオン草ですね。万能傷薬でも作るのかな? でも、これなら、すぐ見つかると思います」
と、僕は頷いた。
3人は驚いた顔だ。
それを無視して、歩きだす。
ここは森とは違うけれど、生えている場所の特徴は似ているはずだ。
それを考えれば、
「あ、あった」
ほら、見つかった。
地面には、レダという植物の群生地があった。
アリアさんが、
「えっ、もう?」
と驚いている。
レイさんも目を丸くしていた。
姉さんだけが「だって、アナリスだもん」と得意げだ。
しゃがんで、
サクッ サクッ
いつもの採取ナイフで、丁寧に葉を摘んでいく。
「手慣れてるな」
レイさんが呟いた。
そりゃ、3歳から6年間、ずっとやってるもの。
採取した葉を布に包んで、リュックにしまう。
立ち上がって、
「じゃあ、次に行きましょう」
僕は3人に笑いかけた。
それから1時間で、必要な量の採取は終わってしまった。
「…………」
「…………」
レイさん、アリアさんは呆然だ。
姉さんは、
「お疲れ様、アナリス」
と、微笑む。
いや、これぐらいの量なら疲れてもないかなぁ……?
っていうか、
「これで、クエスト終わりなの?」
僕は、そっちに驚きだ。
たった1時間で、40ゴルダ――4000円ぐらいの報酬だそうだ。
村より、よっぽど儲かる。
行商さんの移動費で、相場からたくさん引かれてたのかな?
レイさんは、
「本来は、5~6時間かけて集めるものなんだがな……。さすが、薬草集めの天才ということか」
と感心していた。
アリアさんは「何なの、コイツ……?」と、なぜか不満そうだ。
姉さんは、僕の髪を撫でる。
「普通は群生地を見つけるのに手間取ったり、雑草と薬草を見分けるのに苦労するんだけどね。さすが、アナリスだよ」
と褒めてくれた。
僕は「うん」と笑った。
それから姉さんは、
「あとね。報酬が高いのは、この草原には魔物も現れるからなの。危険な場所で採取するから、冒険者の仕事になるんだよ?」
と教えてくれた。
あ、なるほど、そうなんだ?
「どんな魔物が出るの?」
興味を引かれて、聞いてみた。
すると、レイさんが、
「ゴブリン、オーク、グレートウルフなどだな。危険なものには、レッドキャップもいる。だが、これは夜しか現れない」
と答えてくれた。
ふ~ん?
ハイト村の森にいる魔物とは、種類が違うみたいだ。
特に、ゴブリン、オークなどは人型だ。
やはり、土地によって生息する魔物は違ってくるのかもしれないね。
その時だった。
ピクッ
ミカヅキが鼻を動かし、顔を持ち上げた。
同時に、
「!」
アリアさんもハッとしたように、草原の奥へと視線を向けた。
腰に提げた杖を、手に握る。
「アリア?」
その動きに、レイさんが気づいた。
アリアさんは、
「噂をすれば……ね。多分、ゴブリンだわ。探知魔法の反応だと、7~8匹いるわね」
と、ブラウン色の瞳を細めた。
…………。
え、魔物?
姉さんも表情を厳しくして、手にした槍を構えた。
「アナリス、ジッとしててね」
こちらを見ずに言う。
僕は「うん」と頷いた。
それから、安全地帯であるミカヅキの背中に、ヒョイッと登った。
ガシャッ
レイさんも片手剣と円形盾を構えた。
「…………」
僕も、さりげなく狩猟弓の準備をする。
金属の矢を1本、弦に当てた。
姉さんたち3人の女冒険者は、動きを止めたまま、草原を睨んでいた。
…………。
空気が引き締まっていく。
そして、
『――ウキャアッ!』
突如、甲高い雄叫びが草原に響き渡った。
ご覧いただき、ありがとうございました。




