031・レイとアリア
第31話になります。
よろしくお願いします。
レイとアリア――その名前は、姉さんの手紙に何度も書かれていた。
そう、姉さんの仲間だ。
姉さんは、
「2人ともどうしたの?」
と、突然の再会に驚いていた。
それに黒髪の女の人が答える。
「先ほど、クエストが完了してな。アリアと休憩しようと2階に来たところだ。まさか、ユフィがいるとは思わなかった」
少し低くて、よく通る声。
多分、この人がレイさんだ。
黒髪黒目で、姉さんよりも背が高い。
ショートカットなので、一見、美青年にも見えてしまいそうだ。
うん、宝塚の男役みたい。
そんなレイさんは、金属の胴当てと手甲、マントを装備していて、背中には片手剣と円形盾を背負っていた。
きっと剣士なのかな?
その一方で、
「アンタこそ何してんのよ、ユフィ? 休暇中じゃなかったの?」
そう眉をひそめたのは、アリアさん。
青い髪は長くて、柔らかそうな癖があった。
美人だけど、目つきはきつい。
その瞳はブラウン色。
色鮮やかな髪からは、特徴的な長い耳が生えている――うん、異世界の代名詞のエルフだ。
鎧はつけてなくて、厚手の服とマントのみ。
腰ベルトに、短剣と魔法石のついた杖が提げてある。
きっと魔法使い。
姉さんは苦笑して、
「アナリスが……私の弟が冒険者ギルドを見たがったから案内してたの」
と、僕の肩に触れた。
2人は「弟?」と僕を見る。
僕は立ち上がった。
「初めまして、姉がいつもお世話になっています。ユーフィリア姉さんの弟のアナリスです」
ペコッ
そうお辞儀をする。
2人は目を丸くした。
それから、
「そうか、これが噂のアナリス君か」
「ふ~ん?」
と、それぞれに感想を漏らした。
レイさんが近づいてくる。
少し身を屈めて、
「初めまして、アナリス。私はレイだ。君のお姉さんとは、仲間としてパーティーを組ませてもらっている。よろしくな」
と微笑みかけてきた。
…………。
笑顔の破壊力が凄い。
僕が女の子だったら、一目惚れしてたかもしれない――そう思うほどだった。
僕は、
「よろしくお願いします、レイさん」
と笑顔を返した。
レイさんは頷いた。
「話に聞いていた通り、しっかりした弟さんだな」
と姉さんに言う。
姉さんも「でしょう?」と嬉しそうだ。
でも、
「そう?」
と呟いたのは、アリアさんだ。
「しっかりしてるけど、これぐらい普通じゃない? まぁ、見た目は悪くないけどさ」
そう肩を竦める。
…………。
アリアさんは、色々きついけど、根は優しい子だって姉さんの手紙に書いてあったっけ。
僕は笑顔のままだ。
アリアさんは、眉をしかめ、
「……何よ?」
と呟いた。
僕は言った。
「えっと、姉さんの手紙通りだなって思って。アリアさん、言い方はあれだけど、僕の外見を褒めてくれたでしょう? だから、優しい人だなって」
「…………」
アリアさんは、ポカンとした。
姉さんとレイさんも、驚いた顔をしている。
僕は続けた。
「だから、ありがとう、アリアさん」
「っっ」
アリアさんの顔が真っ赤になった。
ギュッ
姉さんの襟を掴んで、
「ちょっと、ユフィ!? アンタ、手紙に何書いたの!?」
「えっ? えっ?」
身体をガクガクと揺らされて、姉さんは大慌てだ。
あらら?
でも、2人とも仲良しだね。
そう眺めてたら、
「くっくっ」
レイさんが笑いを堪えていた。
僕を見て、
「なるほど、君は凄いな」
と言った。
(???)
はて、どういうこと?
◇◇◇◇◇◇◇
せっかくなので、そのまま4人でテーブルを囲むことにした。
「ふんっ」
アリアさんは機嫌が悪い。
でも、そっぽを向いた顔と耳は、少し赤かった。
それから、ちょっと話をした。
それによると、レイさんは17歳で姉さんの1つ上。
アリアさんは、16歳で同い年だそうだ。
(ふ~ん?)
エルフだからずっと年上かとも思ったけど、そうじゃなかったみたい。
そうしたら、
「アタシは、ハーフだからね」
とアリアさん。
ハーフ、つまりハーフエルフのことだ。
驚く僕に、
「何? エルフじゃなくて、がっかりした?」
と、アリアさんは皮肉そうに笑う。
ブンブン
僕は首を振った。
「ううん。つまり、アリアさんは種族を越えた愛の結晶ってことでしょ? それって、とっても素敵だよ」
「…………」
正直に伝えたら、なぜかアリアさんは停止した。
姉さんとレイさんは、顔を見合わせる。
チッ
アリアさんは舌打ちして、
「……アンタの弟、何なのよ? やり辛いわ……」
と、姉さんに愚痴った。
姉さんは苦笑する。
レイさんは「はははっ」とおかしそうに笑った。
それから、
「なら、私の黒髪と黒目はどうかな?」
と聞かれた。
(え?)
レイさんの眼差しは、挑戦的だ。
僕は首をかしげる。
「えっと……凄く落ち着いた色だし、大人っぽいレイさんには似合っていると思います。とっても綺麗だと思いますよ?」
と、素直に答えた。
だって、ね?
前世日本人からしたら、むしろ懐かしくて、1番親しみのある色だ。
レイさんは、目を瞬く。
「…………」
レイさん?
彼女は、大きく息を吐く。
苦笑して、
「そう真っ直ぐ言われると、試した自分が恥ずかしくなるな」
と呟いた。
(???)
困惑する僕に、
「私はね、南方のトゥラン人の血が流れているんだ」
と、教えてくれた。
トゥラン人?
レイさんの話によれば、それはここより南の大陸の人たちで、ローランド王国の植民地の人々なのだそうだ。
つまり、奴隷の血筋。
レイさん自身は、ちゃんとした王国民だ。
でも、黒髪黒目という外見から、偏見の目を向けられることも多いという。
…………。
きっと、目だけじゃなかったんだろうな。
レイさんは、
「だが、綺麗、と言われたのは初めてだ」
と笑った。
少しだけ、頬が赤かったかもしれない。
「…………」
そんな僕らに、アリアさんは唇を尖らせている。
そして姉さんは、
「……レ、レイ?」
と、愕然とした顔をしていた。
それから、
ガシッ
突然、姉さんの手が僕の肩を掴む。
「い、いい、アナリス? アナリスのお姉ちゃんは、私だけだからね? 忘れちゃ駄目だよ!」
と訴えた。
う、うん?
いや、わかってるけど……?
近づけられた姉さんの美貌に驚きながら、僕はコクコクと何度も頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇
それからも、4人で話をした。
話の内容は、姉さんたちのこと。
これまでどんなクエストを受けて、どんなことがあったか?
そんな話をしてくれた。
よく話してくれるのは姉さんとレイさんで、アリアさんは興味がなさそうな顔だった。
(…………)
話の内容からも、3人がいい関係なのはわかった。
いい人たちとパーティーが組めたんだね、姉さん。
それが嬉しかった。
そうして話をしている中で、
「私たちも明日は休みにしようと思っているんだが、ユフィたちはどうするんだ?」
と聞かれた。
僕と姉さんは顔を見合わせる。
「アナリスはどうしたい?」
えっと……。
どうしよう、特に考えてなかった。
そんな僕に気づいて、
「それなら、私たちと薬草採取のクエストにでも行ってみるか?」
と、レイさんが提案した。
え?
「聞けば、アナリス君は3歳から薬草を集めていた天才だそうじゃないか。ならば、ちょうどいい。それに、こういうのも、良い経験になるだろう?」
「…………」
「…………」
確かに……。
久しぶりに姉さんと薬草を摘むのも楽しそうだ。
僕は「うん」と頷いた。
「姉さんもいい?」
「もちろん」
姉さんは笑って「アナリスのしたいことをしよう?」と言ってくれた。
レイさんも微笑む。
でも、アリアさんは驚いた顔で、
「ちょっと、レイ!? 嘘でしょ?」
と嫌そうだ。
まぁ、休みが潰れるんだもんね。
それを思うと、申し訳ない。
でも、
「嫌なら、アリアは1人で休んでいてもいいぞ?」
「…………」
レイさんが言うと、アリアさんは黙った。
唇を尖らせ、
「何よ、行くわよ! 行かないと、私だけ仲間外れで、しかも嫌な奴みたいじゃないっ」
と言い返した。
姉さんとレイさんは笑った。
うん、レイさん、アリアさんを上手くコントロールしてるみたい。
(そっか)
この3人のリーダーは、レイさんなんだね。
そう、よくわかった。
不貞腐れたように横を向いて、頬杖を突くアリアさん。
僕は、
「ごめんね、アリアさん。でも、一緒に行くことにしてくれて、ありがとう」
とお礼を言った。
アリアさんの美人顔が歪んだ。
「うっさい!」
怒鳴られてしまった。
でも、顔と耳が赤い。
…………。
素直じゃないけど、なんか憎めない人だ。
僕も、つい笑顔になってしまう。
それにアリアさんは、ますます不機嫌そうになってしまった。
あはは。
僕は、姉さん、レイさんと顔を見合わせて、また笑ってしまった。
そうして僕は、明日、姉さん、レイさん、アリアさんの3人と薬草採取クエストをすることになったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。




