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003・森の薬草

第3話になります。

よろしくお願いします。

 薬草は、森の恵みの1つだ。


 村人の健康を守り、行商に売れば、都市部でポーションに加工される。


 村にとっても、貴重な収入源だ。


 そんな『薬草摘み』は、狩猟よりも危険が少ないので、基本、村の女や子供の仕事となっている。


 その恵みの薬草を求めて、僕と姉さんは森に入っていった。




 ユーフィリア姉さんと2人で、森を歩く。


 森の木々は20メートルぐらいの高さで、頭上からは木漏れ日が差している。


 足元は、土と草の地面。


 起伏もあり、木の根などもあるけれど、そう悪い足場じゃなかった。


「…………」


 先を歩きながら、チラッと振り返る。


 2~3メートルほど遅れて、姉さんが僕のあとを追っていた。


 …………。


 そんなユーフィリア姉さんは、長袖に丈の長いスカートという服装をしていた。


 森で肌を傷つけないためだ。


 枝に絡まると危険なので、長い金髪も、今は緩く三つ編みにしてもらっている。


 森を歩くのにあった格好だ。


 ……でも、1点だけ。


 そんな姉さんの手には、なぜか『槍』が握られていた。


 頑丈な木製の柄に金属の穂がついている。


 うん、本物の槍だ。


 実は森へと向かう時、なぜか姉さんは、前の家から持ってきたというこの槍を装備してきたんだ。


 見た時はびっくりしたよ。


 姉さんは、


「……ご、護身用……」


 と言っていた。


「……る、留守番している時に、もし強盗とか来たら、これで相手を殺しなさい……って、お、お母さんがくれたの……」

「…………」


 伯母さん、過激だね?


(でも……気持ちはわかる)


 この世界では、前世より『命』が軽いんだ。だから倫理観も違ってくる。


 この5年間で、僕もそれを学んでいた。


 それに、


(森で護身用の武器を持つのは、悪いことじゃないもんね)


 森にだって、危険はある。


 野生の狼や熊とか、滅多にいないけど魔物に遭遇する可能性もあるんだ。


 僕自身、採取用のナイフ以外に、腰ベルトに『山刀やまがたな』を1本、提げている。


 ……いやまぁ、これは護身用というか、主目的は、邪魔な枝や草木などを払うためなんだけどね?


 でも、もしもの時にも使える道具だ。


 だけど、


 チラッ


 横目で、姉さんを見た。


「……ぁ」


(……あ)


 姉さんもこっちを見ていたみたいで、顔が合ってしまった。


 少し慌てたように、


「あ、あの……何?」


 と聞かれた。 


 え、えっと……。


「その槍、格好いいね?」 


 そう答える。


 僕も男の子なので、それは本心だった。


 姉さんはキョトンする。


 それから、すぐに嬉しそうに頬を赤らめ、はにかんだ。


「う、うん。……ありがと、アナリス」


 弾んだ声だ。


 初めて聞いたかもしれない。


 なんだか僕も、気恥ずかしくなってしまった。


 …………。


 うん、森の中だと長い槍は扱い辛いんじゃないかな……と思ったのは、内緒にしとこう。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 薬草摘みは、村の子供の仕事だ。


 とはいえ、さすがに3歳からこの仕事をしているのは、村でも僕だけだった。


 まぁ、享年15歳の転生者だからね。


 今では、父さんや母さん、村の人たちからは『妙に大人びた子供』だと思われているんだ。


 ちなみに現在5歳。


 すでに2年目のベテランです、はい。


 …………。


 おかげで、薬草には詳しくなった。


 薬草と1つにしているけど、実は、27種類ぐらいの効能の違う薬草があるんだ。


 今の季節は、8種類ぐらい採れる。


 薬草の群生地も、だいたい覚えた。


 天候、季節などによって、採取ルートも複数、見つけている。


 ちなみに今日は、最短ルートだ。


(姉さんにとっては、初日だからね?)


 そうして僕は、歩きながら、今日のルート以外のことを姉さんに説明していった。


 姉さんには、


「……アナリスって、ほ、本当に5歳、なの……?」


 なんて言われてしまった。


 僕は苦笑する。


「うん、5歳だよ。がんばって色々覚えたんだ」

「…………」


 姉さんは僕を見つめた。


 そして、


「……凄いんだね、アナリスは」


 優しい声で、そう褒めてくれた。


 …………。


 んと……なんか、ちょっとくすぐったかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それからは実際に薬草を探して、摘んでみた。


 薬草の見分け方、よく生えている場所などを教えながら、


「こうやって茎を押さえて……」


 サクッ サクッ


 手にしたナイフで、丁寧に葉を集めていく。


 それを肩かけの布袋の中に、傷めないように収めていくのを実演してみせた。


 姉さんは感心した顔だ。


「……上手」

「ありがと」


 少し照れる。


 それから、ナイフを貸して、姉さんにもやってもらった。


 サクッ


(お……?)


 ナイフの扱いが上手い。


 そっか。


 家事は一通りできるから、包丁の感覚で刃物も扱えるんだ。


 切り口も綺麗だ。


 これなら傷みにくいし、行商にもちゃんと買い取ってもらえそうだ。


 僕は笑った。


「ユーフィリア姉さん、凄いや。こんなに綺麗に採取できるなんて思わなかった」

「そ、そう……?」


 素直に褒めたら、姉さんは頬を赤らめていた。


 可愛い……。


 それから、姉さんが摘み取った薬草も布袋にしまっていく。


 その時、


 ガサッ


 左の草むらから、音がした。


(ん?)


 姉弟でそちらを見る。


 そこに、角の生えた体長50センチを超える黒い体毛のウサギがいた。


 ――え?


 僕は呆けた。


 そして、背筋が震えるほどの恐怖に襲われた。


(魔物だ!)


 森のこんな村に近い場所で遭遇するなんて思わなかった。


 魔物に遭うのは、人生で3回目。


 でも、前の2回は父さんが一緒で、父さんの弓矢で倒してくれてたんだ。


 1人で会うのは、初めてだ。


 ドキドキ


 緊張しながら、山刀を抜く。


(倒せなくても、追い払えれば……)


 そう思いながら、切っ先を黒いウサギへと向けて構えた。


 ギラッ


 ウサギの鋭い角が、陽光に妖しく輝く。


 逃げる気配はなかった。


 普通の動物に比べて、闘争本能も強いのが魔物の特徴の1つだった。


(…………)


 去年だったか、あの魔物の角に刺されて、ハイト村の狩人が1人亡くなっていたのを思い出した。


 ……い、今、思い出したくなかったな……。


 ゴクッ


 唾を飲み、魔物と向き合う。


 と、


「アナリス、下がって……」


(え?)


 僕の前に、三つ編みにした金髪を揺らしながら、ユーフィリア姉さんが進み出た。


 ヒュン


 手にした槍を回転させ、構える。


 姉さん?


 驚いていると、


 ズダン


 黒いウサギは地面を蹴り、角をこちらに向けながら突進してきた。


「!」


 反射的に硬直する。


 そんな僕の前で、ユーフィリア姉さんは自然な動作で、手にした槍を前方へと突き出した。


 ドスンッ


『ピギッ!?』


 魔物の悲鳴があがった。


 姉さんの槍は、突進してきた魔物を受け止め、その胸に深々と先端を突き刺していたんだ。


 確実に、心臓まで届いている。


 魔物は、すぐに動かなくなり、地面に転がった。


 血だまりが広がる。


 呆然となる僕。


 その前で、姉さんは「ふぅ……」と大きく息を吐いた。


 それから、こちらを振り返る。


「だ、大丈夫だった、アナリス?」


 心配そうな声。


(う、うん)


 僕は、そう答えようと思った。


 その時、一陣の風が吹き抜けて、姉さんの長い金色の前髪が横に流れていった。


 綺麗な翡翠色の瞳が見えた。


 そこにあったのは、驚くほど端正な顔立ちだった。


 ……え、凄い美人。


 前世のテレビや映画、雑誌などでも見たことがないレベルの美少女だ。


 サラリ


 風が止み、その美貌が隠れる。


「アナリス?」


 不思議そうに聞かれる。


 ドキドキ


 どうした訳か、心臓の鼓動が早くなっていた。


 僕は辛うじて、


「……ユーフィリア姉さん、強いんだね?」


 と口にした。


 姉さんは、小さくはにかんで、


「お、お父さんとお母さんに、戦い方は色々と教えられたから……」


(そ、そっか)


 僕は頷いた。


 人見知りで口下手な従姉妹。


 でも、中身は、とっても強くて美人のお姉さんだったみたいだ。


 姉さんの手が、僕の頬に触れる。


 柔らかくて、温かい。


 そして息を吐き、


「……アナリスが無事でよかった」


 姉さんは、僕にそう微笑みかけてくれた。

ご覧いただき、ありがとうございました。



本日中にもう1話投稿予定です。

毎日更新していきますので、もしよかったら、ブクマや★★★★★の評価などもして頂けると励みになるので嬉しいです♪


どうか、よろしくお願いします~!

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