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029・姉さんの部屋

第29話になります。

よろしくお願いします。

 姉さんと一緒に、領都アルパディアの通りを歩いていく。


 通りにはたくさんの人がいて、


(あ……)


 今、すれ違った人、耳が長かった。


 もしかして、エルフかな?


 その向こうには、熊みたいな大きな人も歩いている。


 きっと獣人だ。


(……凄いなぁ)


 まさに、前世で想像していた異世界の風景がここにあった。


 キョロキョロ


 僕の視線は忙しい。


 そんな僕に、姉さんは「クスッ」とおかしそうに笑っていた。


 通りには、たくさんのお店もある。


 ハイト村とは大違い。


 中には、屋台などもあって、姉さんはその1つに目を留めた。


 そちらに行って、


「あ、あの、それ2つください」


 ベッコウ飴みたいなお菓子を2本買った。


 その1つを、


「はい、アナリス」


 と、こちらに渡してくれる。


 僕は「ありがとう、姉さん」と受け取った。


 うん、甘い。


 長旅の疲れもあって、その甘さはとても美味しかった。


 姉さんの気遣いも嬉しい。


 夢中で食べる僕に、姉さんも優しい顔だ。


 ペロッ


 姉さんも舌を伸ばして、飴を舐める。


 …………。


 ちょっと色っぽい。


 仕草は昔と変わらないけど、身体が大人になったから、いけないことをしてるみたいだ。


 ドキドキ


 通りがかった人たちも、姉さんを見ていた気がする。


 でも、姉さんは、


「ふふっ、美味しいね、アナリス」


 なんて無邪気に笑っていた。


 …………。


 姉さんって、意外と鈍感なのかなぁ?




 そうして食べ歩きをしながら、姉さんと色んな話をした。


 その話の中で、


「3日ぐらい前から、私、毎日あの公園に通ってたんだよ?」


 と教えられた。


 なんでも予定日より早く僕が到着してもいいように、そうしてくれてたんだって。


 僕はびっくりだ。


 今日も会えなければ、もう4~5日は通うつもりだったそうだ。


「冒険者の仕事は?」


 そう聞いたら、


「10日ぐらい、お休みもらったの。アナリスが来るんだもの、当然だよ」


 そう笑っていた。


 姉さん……。


 嬉しいような、申し訳ないような気持ちだ。


 ちなみに、パーティー仲間のレイさんとアリアさんは、姉さんがいない間は2人で活動してるとか。


 元々、2人組のパーティーだったから問題ないそうだ。


 姉さんは笑って、


「今度、アナリスにも2人を紹介してあげるね」


 と言った。


 手紙で、2人の人柄などはよく書かれていた。


 レイさんは、真面目なお姉さん。


 アリアさんは、素直じゃないけど、実は優しいエルフさん。


 そんな感じだって。


「2人もね、アナリスに会いたいって言ってたよ。私の弟がどんな子なのか、見てみたいんだって」


 そう語る姉さんは、どこか嬉しそうだ。


 僕も笑って、


「2人に会うの、僕も楽しみだよ」


 と返した。


 姉さんも頷いた。


 それからハッとして、


「ふ、2人とも素敵だけど、アナリスのお姉ちゃんは、私だけだからね? それ、忘れちゃ駄目だよ?」


 なんて言った。


(???)


 いや……それは当たり前でしょう?


 変な姉さんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 30分ほど歩いて、姉さんのお世話になっている宿屋に到着した。


(へぇ?)


 思ったより、綺麗な宿屋だ。


 冒険者ギルドと提携していて、初心者冒険者は格安で泊まれるんだって。


 姉さんも2年ほど、ここで暮らしている。


 姉さんは笑って、


「ここの2階に、私の部屋があるの」


 と、教えてくれた。


 そして、宿の玄関へと向かう。


 その時、ふと通りを歩いている人の何人かが、姉さんを見ていることに気づいた。


「…………」


 実は、ここに来るまでの道中もそうだった。


 すれ違う人たちが時々、姉さんのことを見てくるんだ。


 …………。


 姉さんは美人だ。


 大人っぽくなって、それがより目立つようになった。


 弟の僕としては、人を魅了する姉さんが誇らしくもあったけど、やっぱり少し心配でもあった。


 悪い虫に引っかからないでね、姉さん?


 そんな姉さんは、


「ただいまぁ」


 と、何も気づかないまま、宿に入っていった。




「へぇ、アンタがアナリスかい?」


 受付にいた宿屋の女将さんは、40代ぐらいの気風の良い女の人だった。


 名前は、ポーラさん。


 ジロジロ


 ポーラさんは、姉さんに紹介された僕を珍しそうに見てくる。


 僕は頭を下げた。


 ペコッ


「こんにちは。ユーフィリア姉さんの弟のアナリスです。姉がいつもお世話になってます」


 ポーラさんは目を丸くした。


 それから「あははは!」と大笑い。


「なるほど、ユフィちゃんがいつも自慢する訳だ。しっかりした弟さんじゃないか」


 パシン


 大きな手で、姉さんの背中が叩かれる。 


 ケホケホと、小さく咳き込む姉さん。


 でも、


「えへへ」


 表情が緩んで、姉さんも嬉しそうだ。


 うん、僕も嬉しい。


 それから、僕も1ヶ月ほど、姉さんの部屋でお世話になるので宿泊手続きをした。


 ミカヅキは、裏の馬房に泊まることになった。


 すぐに手続きも完了。


「会えてよかったね」


 ポーラさんが、姉さんにそう声をかけた。


 姉さんは、少し照れた顔。


 それから、


「じゃあ、私の部屋に行こっか」

「うん」


 姉さんは僕の手を握って、優しく引っ張った。


 僕は素直に従う。


 宿の階段を登って、姉さんの部屋へと一緒に向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「へぇ、これが姉さんの部屋?」

「うん」


 僕の言葉に、姉さんは恥ずかしそうに頷いた。


 案内されたのは、質素な部屋だ。


 ベッドとタンスが1つずつ、窓際には机と椅子が1組、奥には鍵付きの木箱の物入れが1つあるだけだった。


 愛用の槍は、角に立てかけられていた。


 女の子らしさは、あまりない。


 姉さんは、


「あ、あんまり見ないで」


 と、顔を赤くしている。


 いや、僕、これから1ヶ月、この部屋で暮らすんですけど……?


 とりあえず、姉さんの要望になるべく応えつつ、僕は背負っていた荷物を部屋の隅に下ろした。


 …………。


 姉さんはベッドに座って、


 ポンポン


 自分の隣を叩いた。


 僕もそこに座った。


「長旅、お疲れ様だったね、アナリス」


 姉さんははにかみ、そう労ってくれる。


 僕も笑った。


 初めての旅は楽しかった。


 でも、9歳の身体だと体力的に厳しいものがあったのも事実だ。


 少しだけ身体が重い。


「よしよし」


 姉さんが頭を撫でてくる。


 気持ち良くて、眠ってしまいそうだ。


 それを誤魔化すように、旅の話をしてあげた。


 ミカヅキの背中に揺られて、初めての景色に感動しながら、あちこちの村に泊まり、野宿もしてきた。


 途中では、人助けもしたっけ。


 姉さんは、


「火炎蜥蜴を倒したの?」


 と驚いていた。


 僕は、がんばったのはミカヅキだけどね、と笑った。


 それからも姉さんは、僕の話を聞いてくれた。


 拙い喋りだったと思うけど、ずっと耳を傾けてくれた。


 それが嬉しかった。


 そして最後に、


「本当にがんばったね、アナリス。――会いに来てくれて、ありがとう」


 ギュッ


 小さな身体を抱きしめてくれた。


(わっ?)


 ちょっと驚いた。


 姉さんは身体を離すと、僕に優しくはにかんだ。


 それから、


「ね、アナリス。どこか行ってみたい所ってある? せっかく領都まで来たんだもの、私、案内するよ?」


 そう言ってくれた。


 行ってみたい所……?


 姉さんは「どこでもいいよ?」と言ってくれる。


 1つだけ、思い浮かんだ。


「じゃあ、冒険者ギルド」

「え?」


 姉さんは、目を瞬く。


 僕は笑って、


「せっかくなら、姉さんの職場を見てみたいかな」


 と、正直に答えたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ <姉さんって、意外と鈍感なのかなぁ? 人の振り見て我が振り直せ。 正に無自覚姉弟定期(笑) しかし一番気になるのは、一ヶ月の間ミカヅキが何処で暮らすのかですか…
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