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028・2年ぶりの再会

第28話になります。

よろしくお願いします。

 村を出て17日目だった。


「あ……」


 地平の彼方、遠い街道の先に、城壁に囲まれた大きな街が見えた。


 領都アルパディア。


 現在、ユーフィリア姉さんが暮らしている街だ。


 ……ついに、ここまで来た。


 ギュッ


 小さな手を握る。


 僕は笑って、


「ミカヅキ、行こう!」


『ワォン』


 応えたミカヅキは、僕を乗せたまま、遠く霞む街へと走り出した。




(大きいなぁ……)


 領都の正面門へと辿り着いた。


 門前の広場には、たくさんの旅人や馬車などが集まっていた。


 みんな、入都の手続きを待っているんだ。


 僕も列に並ぶ。


 …………。


 1時間ぐらいして、僕の番が来た。


 詰め所のような建物で、書類に住所、氏名、年齢、来都の目的などを記入する。


 子供の1人旅には、少し驚かれた。


 でも、ダークウルフの従魔を見て納得してもらえたみたい。


 従魔証明書も確認される。


 それから、街中で従魔を暴れさせないこと、もしもの時は賠償責任など負うことを、係の兵士さんに説明された。


 10分ぐらいで、手続き終了。


「ふぅ」


 少し緊張したよ。


 ミカヅキが心配そうに近づいてくる。


 僕は笑って、


 モフモフ


 その柔らかな黒い毛を撫でた。


 ……うん、落ち着く。


「じゃあ、姉さんに会いに行こう、ミカヅキ」


 僕は笑った。


 そして、大きな門をくぐって、ついに領都の中に入ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「う、わぁ……」


 入ってすぐ、目の前の光景に呆けた。


 物凄い人の数だ。


 村の祭りでも、こんなに集まらない。


 前世の都会の人混みを見てるみたいだ。


 小さな僕は、人波に呑まれそうなので、ミカヅキの背中に乗せてもらった。


 お店もいっぱいだ。


 街路樹もあって、車道もある。


 そこには荷馬車や、大きな荷物を括りつけられた巨大亀も歩いていた。


(あれも従魔かな?)


 大通りの先には、お城が見える。


 きっと、あそこに領主様がいるんだろう。


 …………。


 凄いなぁ。


 小さな村で9年も暮らしてきたから、目を白黒させてしまうよ。


 でも、賑やかで楽しいな。


 姉さんには、手紙で到着予定日を伝えてあった。


 今日は、ちょうど予定日。


 姉さんからは、待ち合わせで近くの公園を指定されていた。


(あっちかな?)


 街の案内板を確認して、僕はその公園へと向かった。




 前世と違って、携帯電話もない。


 連絡手段もないので、姉さんが本当にいるのかわからなかった。


 もしもの時は、姉さんの宿を目指そう。


 そう思いながら、公園に到着。


 広くて綺麗な公園だ。


 芝生の大地が広がっていて、散策路が伸び、中央にある噴水が綺麗な虹を作っていた。


 噴水の周囲には、ベンチが設置されている。


「…………」


 生憎、姉さんの姿は見当たらない。


 スタッ


 ミカヅキから降りて、ベンチの1つに座った。


 その横で、ミカヅキはお座りしている。


 歩いている人たちは、大きなダークウルフの姿に驚きながら通り過ぎていった。


 …………。


 ここまで、長旅だったな。


 青い空をぼんやり眺めてしまう。


 陽気もポカポカ。


 少し眠くなってしまった。


 ウトウト


 そんな僕の耳に、


「――アナリス?」


 ふと、その懐かしい声が響いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕はハッとして、顔をあげた。


「…………」


 目の前に、長身の凄い美人さんが立っていた。


 え……姉さん?


 僕は、目を瞬く。


 その人は、身長170センチぐらいあった。


 胸も大きい。


 長い金髪は緩やかな三つ編みにされ、背中にこぼされていた。


 白シャツにロングスカートと清楚な服装。


 胸元には、小さな首飾りが揺れている。


 金色の前髪は、やっぱり長くて、目元まで隠されている。


 スッ


 こちらを確認するように、白い指が前髪をどけた。


「!」


 そこに現れた美貌は、間違いなくユーフィリア姉さんだった。


 綺麗な翡翠色の瞳。


 そこに、驚く僕の顔が映っている。


 僕の口から、


「……姉さん?」


 そう声がこぼれた。


 途端、姉さんの美貌が花咲くように綻んだ。


 頬を紅潮させ、


「アナリス!」


 突然に、僕を強く抱きしめた。


 わっ?


 大きな弾力の谷間に、顔を挟まれてしまった。


「やっぱり、アナリスだ! この匂い、変わってない。優しいアナリスの匂いだ!」


 ムギュ


 姉さんの目元には、涙が滲んでいる。


 喜んでもらえて嬉しい。


 でも、ちょっと苦しい。


 僕は少し困りながら、


「久しぶり、姉さん」


 と、笑いかけた。


 姉さんは「うん、うん」と何度も頷く。


『ワォン』


 その時、隣のミカヅキがアピールするように吠えた。


 パッ


 姉さんの顔がそちらを向く。


 長い金色の髪が踊って、その表情がまた輝いた。


「ミカヅキ!」


 今度は、そちらに抱きつく。


「大きくなったね、ミカヅキ! 元気だった?」


 モフモフ


 大きな身体が撫でられる。


 ミカヅキは気持ち良さそうにしながら、『ワフッ』と答えた。


 そして、姉さんの顔を舐める。


 ベロッ


「あはっ」


 姉さんはくすぐったそうだ。


 2人とも、凄く嬉しそう。


 そして、その間、僕は姉さんとミカヅキの間で、ずっとサンドイッチにされていた。


 うぐぐ……。




 姉さんが村を出たのは、2年前。


 14歳だった。


 今の姉さんは、16歳。


 この2年間で、身長もニョキニョキ伸びて、姉さんは都会の女になっていた。


 …………。


 本当に姉さんだよね?


 思わず、ジ~ッと見てしまう。


「な、何?」


 姉さんは戸惑った顔だ。


「えっと……姉さんが凄く綺麗になってて、びっくりした」

「……え?」


 正直に言うと、姉さんが固まった。


 ボッ


 その頬が赤くなる。


 あ、恥ずかしがり屋なところは変わらないみたいだね?


 ちょっと安心した。


 僕は笑って、


「姉さんに会えて、嬉しいよ」


 そう伝えた。


 姉さんも僕を見つめて、「私も」とはにかんだ。


 それから、


「色々と話したいけど、まずは私の暮らしてる宿屋に行こっか」

「うん」


 その提案に、僕も頷いた。


 ミカヅキと一緒に、公園をあとにする。


 キュッ


 すると、姉さんが手を握ってきた。


「ま、迷子になるといけないからね」


 と恥ずかしそうに言った。


 僕は「うん」と頷く。


 その時、僕の手首を姉さんが見つめた。


 ん?


 視線を追いかけると、2年前、姉さんが自分の髪で作ってくれた金色のミサンガがあった。


「まだ、持っててくれたんだね……」


 嬉しそうな、しみじみした声。


 僕は首をかしげた。


「当たり前だよ? だって、姉さんがくれた物なんだから」

「…………」


 姉さんの目に、涙が滲んだ。


 ……姉さん?


 姉さんは、すぐに指で目元を拭う。


 それから笑って、


「私ね、家を出てから改めて、アナリスのこと……とっても大切だったんだって、わかったの。だから、嬉しくて……」


 姉さん……。


 姉さんは頬を染めながら、「えへへ」と誤魔化すようにはにかんだ。


「そ、それじゃ行こっか」


 そう言って、歩きだす。


 …………。


 繋いだ姉さんの手はとても熱くて、でも、どこか懐かしかった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



小説と全く関係ないですが、野球日本代表WBC優勝おめでとうございます!


勝利の瞬間、大谷さんのグローブと帽子を投げ捨てて吠える姿に、とても胸が熱くなりました……。

野球日本代表の皆さん、本当にお疲れ様でした。

そして、喜びと感動を本当に、本当にありがとうございました~!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ アナリスとユーフィリアの再会シーンに混ざりたくて吠えるミカヅキががいじらしい。 やはりメインヒロインはミカヅキだったのか!?(え、違う?)
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