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023・認められた狩人

第23話になります。

よろしくお願いします。

 父さんと一緒に、森にやって来た。


 僕のそばには、ダークウルフのミカヅキもいる。


 そして僕の手には、父さんから渡された小型の狩猟用の弓もあった。


(…………)


 少し緊張してる。


 ここは、いつもの森じゃない。


 森の深部だ。


 ここには、危険な『魔物』が生息してるんだ。


 基本的に、熊や狼などは人間の気配を感じたら逃げる。


 でも、魔物は逃げない。


 むしろ、襲ってくる。


 いつもの森は、村の狩人が魔物を追い払っているから、滅多に現れないんだ。


 でも、ここは違う。


 常に危険と隣り合わせの状況だ。


 …………。


 父さんは、なぜ僕をこの森の奥に連れてきたのだろう?




 ヒュッ ズドン


 父さんの矢が、襲ってきた黒い角ウサギの魔物を貫いた。


『ピギッ』


 悲鳴をあげ、魔物は絶命した。


 父さんは素早く次の矢を構え、他の黒い角ウサギを狩っていく。


 ズドン ズドン


 5匹の魔物は、全滅した。


 ……父さん、強い。


 初めて見たけど、これほど速く、正確に射貫けるなんてびっくりした。


 なるほど、村1番の狩人というのは本当なんだね。


 父さんは、魔物に刺さった矢を回収する。


 そして僕を見て、


「次に現れた魔物は、お前が倒せ」


 と言った。


 僕は緊張しつつ、


「うん、わかった」


 と頷いた。




 僕が先頭に立ち、父さん、ミカヅキがあとに続く。


 僕らは、森を歩いていく。


(…………)


 木々の暗がりから、茂みの奥から、絶え間なく生き物の気配がする。


 人間がいるのに、どれも逃げない。


 いつもの森では考えられない状況だ。


 空気が重い。


 ギュッ


 手にした狩猟弓を確かめるように握る。


 矢筒の矢は、3本。


 いつもの木の矢と違って、全てが金属の矢だ。


『グルル』


 その時、ミカヅキが小さく唸った。


(!)


 僕はハッとして、周囲を見る。


 でも、近くに魔物の気配はない。


 父さんは無言のまま、僕を見つめていた。


「…………」


 息を殺し、神経を集中する。


 ……カサッ


 かすかな物音がした。


 上?


 パッと見上げた。


 近くに生えた木の上、高さ10メードほどの頭上に巨大な蜘蛛がいた。


 体長は、足も入れて3メード強。


 それは今にもこちらに飛びかかりそうな体勢で、


「――――」 


 僕は、矢筒の矢を抜いた。


 狩猟弓につがえて、放つ。


 ヒュボッ ズパン


 金属の矢は、見事、蜘蛛の頭部に命中した。


 蜘蛛が落下する。 


 ズドォン


 枯れ葉と土煙が舞った。


『ギ、ギギ……』


 蜘蛛の魔物は、鋭い歯を軋ませながら、まだ動いていた。


 凄まじい生命力。


 僕は、2射目を用意する。


 と、その時、魔物の大きな腹部がこちらを向いた。


「!」


 気づいた僕は、横に跳ぶ。


 ブシャア


 魔物のお尻から、投網のように白い糸が放射された。


 間一髪で、それをかわす。


 少しでも判断が遅れていたら、身動きできなくなっていただろう。


(このっ!)


 空中で矢を放つ。


 ヒュオッ ズバン


 今度は、腹部に命中。


 巨大な蜘蛛の魔物は、苦しげに身を捩らせた。


 僕は、地面に転がる。


(最後の1本!)


 転がりながら、矢筒から矢を抜いた。


 回転が止まると同時に、膝立ちで弓を構え、


 ヒュボッ ズパン


 放たれた金属の矢は、再び魔物の頭部を貫いた。


『グギィ……』


 長い足を痙攣させ、魔物はひっくり返る。


 ピクッ ピクッ


 足を丸めて、やがて動かなくなった。


「…………」


 僕は油断なく、左手で狩猟弓を握りながら、右手で山刀を鞘から抜いた。


 シュラッ


 そのまま、待機。


 魔物は動かない。


 慎重に近づいて、


 ザキュッ


 長い足の1本を斬った。 


 反応は……なし。


「ふぅ……」


 僕は、ようやく息を吐いた。


 と、そんな僕へとミカヅキが飛びついてきて、


『ワオン』


 ベロベロ


 褒めるように、僕の顔を舐め回した。


(わっ?)


 びっくりした。


 僕は苦笑しつつ、ミカヅキの大きな頭や太い首を撫でてやった。 


 そして父さんは、


「よくやった」


 と頷いた。


 うん、褒められて嬉しい。


 それから、僕は3本の矢を回収する。


「次の魔物を探すぞ」

「うん」


 僕は頷いた。


 そして、父さん、ミカヅキと一緒に、また森を歩きだしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから、何体も魔物を倒した。


 尾の先が刃となったイタチ、長い蔓の生えた食人植物、黒い角ウサギなど、たくさん狩った。


 中には、火を吐く巨大トカゲもいて、


 ガチンッ


 放った矢は、火花と共に外皮で弾かれてしまった。


 硬い鱗を貫けなかったんだ。


(コイツは無理)


 そう判断して、必死に逃げた。


 おかげで、矢を1本、失っちゃった。


 でも、父さんは、


「良い判断だ」


 と褒めてくれた。


 ミカヅキは戦いたそうな顔をしていたけど、僕に従ってくれた。


 いい子だね。


 モフモフ


 その首を撫でてしまった。


 そうして狩った獲物は紐で括り、ミカヅキに背負ってもらった。


 そして、


「今日は、ここまでだ」


 日暮れ前に、父さんはそう言った。


「うん」


 僕は頷く。


 正直、かなり疲れたよ。


 …………。


 そうして、僕らは森を抜け、村へと帰っていった。




「明日からは、自由に森に入れ」


 家に帰ると、父さんはそう言った。


 え?


 ポカンとする僕。


「お前の腕は見た。その実力は、すでに森の奥でも問題ない。――アナリス、お前はもう1人前の狩人だ」


 父さんは僕を見つめていた。


 咄嗟に答えられない。


 母さんは笑って、


「アナリスは、父さんに認められたのよ」


 ポン


 僕の背中が叩かれた。


 父さんは頷いた。


 ……あ。


 ブルッ


 身体が震えた。


 ちょっと泣きそうだ。


 そんな僕に、父さん、母さんは優しく笑っていた。


 …………。


 姉さんに手紙を書こう。


 僕が認められたこと、喜んでくれるかな?




 その日から、僕は、村の『狩人』としての活動を本格的に始めることになった。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ ミカヅキという戦力込みでの判断だと思うけど、よく八歳の子に魔物狩りの許可を出しましたね。 ファンタジーでも少し早くないかという気もしますが、アナリスがユーフィ…
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