022・姉のいない日々
第22話になります。
よろしくお願いします。
姉さんの旅立ちから1年が経った。
僕は8歳。
姉さんは15歳になった。
姉さんは、もう前世の僕より長生きしていることになる。
それが、何だか嬉しい。
姉さんが、本当の意味で『姉さん』になったような気がしたんだ。
そんな姉さんと僕は、2ヶ月に1度のペースで、ずっと手紙をやり取りをしていた。
2ヶ月ごとなのは、書いた手紙が届くのに1ヶ月かかるからだ。
そうして、お互いの近況を伝え合っていた。
この1年で、姉さんの生活には色々と変化があったみたいだ。
姉さんは、初めの頃は、よく常設の薬草採取クエストをこなしていたという。
でも今は、乗合馬車の護衛、魔物討伐、荷物の配送なども受注しているそうだ。
姉さん曰く、
「冒険者としての経験を積み重ねてるの」
だって。
ずいぶんと積極的だよね?
冒険者ランクを上げるという目標があるから、がんばってるみたいだ。
町に知り合いもできたそうだ。
冒険者ギルドの受付嬢、宿屋の女将さん、いつも行くパン屋のご主人とは、よく話すようになったって。
姉さんは人見知りなのに……凄いや。
焼き立てのパンは、とても美味しくて、アナリスにも食べさせてあげたいって、手紙に書いてあった。
うん、僕も食べたいよ。
でも、いいことばかりじゃないみたい。
女だからって、子供だからって、馬鹿にしてくる冒険者や依頼人もいるみたいなんだ。
凄く嫌なことを言われたって。
理不尽なことをされたって、書いてあった。
その手紙の文字は、涙でインクが滲んでいる個所がいくつもあったんだ……。
(……姉さん)
それを見て、僕も凄く悔しかった。
…………。
それでも姉さんは、前を向いて毎日がんばっているみたいだった。
最近の手紙では、
「仲間を作りなさいって、冒険者ギルドで言われたの」
とあった。
姉さんは、ソロで活動していた。
でも、危険なこの仕事では、あまり推奨できないことらしい。
だから、ギルドからも提案されたんだ。
今、知人の受付嬢さんがいい人たちを探してくれているとか……いい人、見つかるといいな、本当に。
でも、姉さんは、
「仲良くなれる自信がないから、1人がいい……」
と手紙に書いていた。
そして、1人でも大丈夫と思ってもらえるようにがんばる、だってさ。
あはは……。
…………。
どちらにしても、姉さんは新しい生活に、前より生き生きしてるみたいだ。
それが、僕には少し眩しかった。
……うん。
いつか、1度ぐらい顔を見に、僕も領都まで行ってみようかな?
◇◇◇◇◇◇◇
姉さんの手紙には、いつも返事を書く。
でも、僕から書くことは少ない。
だって、村での日々は穏やかで、慎ましやかで、大きな変化が何もないからだ。
書けるのは、日常のこと。
今月は、質のいい薬草が摘めた、とか。
最近、雨が多い、とか。
またミカヅキが大きくなったので、全身のブラッシングが大変だ、とか。
そんな些細なことばかりだ。
…………。
そのことを手紙で謝ると、姉さんは『そういう手紙の方がいい』と返事をしてくれた。
そういうものかな?
でも、姉さんがいいと言うので、そんなことを書いていこうと思う。
(あ……そうだ)
ミカヅキのことで思い出した。
実は、姉さんがいなくなってから、『薬草摘み』の最中にミカヅキが姿を消すことがなくなったんだ。
前は、勝手に狩りをしてた。
でも今は、いつも僕のそばでのんびりしてる。
何でだろう? そう不思議だったんだ。
そしたら、母さんが笑って、
「ユーフィリアの代わりに、自分がアナリスを守ろうって思ってるのね」
だって。
僕は、びっくりしちゃったよ。
ミカヅキは素知らぬ顔をしてたけど、僕は嬉しくなって、その首をいっぱい撫でてやったんだ。
…………。
うん、このことも書いておこう。
姉さんは、どんな顔をして読んでくれるかな?
「……クスッ」
僕は小さく笑うと、書きあげた手紙を丁寧に封筒へとしまったんだ。
その数日後、
「アナリス」
森から帰ってきた僕を、父さんが呼んだ。
(ん?)
振り返ると、父さんの手には、金属と木の素材を組み合わせた1張りの弓が握られていた。
狩猟用の弓だ。
でも、ずいぶんと小型だった。
「お前にこれをやろう」
父さんは、その狩猟用の弓を僕に差し出した。
え……?
僕はポカンとしてしまう。
その弓を受け取る。
練習用の木製の弓と違って、しっかりとした重さがあった。
「…………」
僕は、父さんを見上げた。
父さんは頷いて、
「今のお前なら、この弓も扱えるだろう。明日、森の奥へと入り、共に魔物を狩りに行くぞ」
と言った。
ご覧いただき、ありがとうございました。