021・姉からの手紙
第21話になります。
よろしくお願いします。
僕の日々から、姉さんがいなくなった。
何のことはない、それは2年前、姉さんと出会う前の状況と同じだった。
…………。
だというのに、なんか心が寒い。
(……いやいや)
そんな情けないことじゃ、1人でがんばってる姉さんに顔向けできないぞ?
しっかりしろ、アナリス!
パン
両手で、自分の頬を叩く。
そして、僕は弓と山刀を手にして、ミカヅキと一緒に今日も森へと向かったんだ。
姉さんがいなくなって、3ヶ月が経った。
「…………」
心には、正直、まだ寂しさがある。
でも、それを抱えた日々にも慣れてきた。
ミカヅキが、ずっと一緒にいてくれたのも大きい。
父さん、母さん、ミカヅキとの暮らしの中で、僕もちゃんと笑えるようになっていた。
…………。
そんな秋のある日、行商が村に来た。
そして、
「アナリス坊、手紙、預かってるぜ?」
と、1つの封書を渡された。
(ほえ?)
受け取り、差出人を確かめる。
…………。
しばらく沈黙したあと、僕は家へと駆けだした。
小さくて、繊細な細い文字。
それで書かれた差出人の名前は、
『ユーフィリアより』
とあったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
アナリスへ
こんにちは、アナリス。
もしかしたら、こんばんは、かな?
手紙を書くのが遅くなって、ごめんなさい。
こちらでの生活が落ち着くまで時間がかかって、こんなに遅くなってしまったの。
アナリスは元気?
おじさん、おばさん、ミカヅキも元気に過ごしていますか?
私は、何とか元気にやっています。
私は、冒険者になることができました。
領都アルパディアの冒険者ギルドで、無事に登録することができて、今は最下級の『赤印の冒険者』となりました。
でも、まだ目的は果たせません。
お父さん、お母さんの行方不明となったダンジョン遺跡は、『白印』の冒険者ランクにならないと入れない場所だったの。
だから今は、ランク上げに邁進しています。
それと私は、ギルドに紹介された初心者割引のある宿屋で暮らしています。
部屋はとても狭いけど、食堂で出される食事は安くて、量も多くて、美味しいの。
しばらくはここにお世話になるつもりです。
あ、あとで住所も書いておくね?
冒険者として、初めての仕事もしました。
それは、薬草採取クエスト。
冒険者ギルドに勧められたんだけど、アナリスと『薬草摘み』をしてたから無事に成功できました。
綺麗に採取できたから、ボーナスもついたの。
アナリスのおかげだね?
このクエストは常設されているみたいなので、当面は、これで生活費を稼ごうと思います。
そうそう。
冒険者の登録をしたあと、一緒にパーティーを組まないか? って何人かに誘われました。
でも、男の人ばかりで怖くて、断ったの。
……まだ、しばらくは1人でがんばることになりそうです。
情けないお姉さんでごめんね?
正直、まだまだ不安ばかりで、生きていくだけで必死です。
村に帰りたい。
アナリスに会いたい。
時々、そう思ってしまいます。
でも、そんな情けない自分じゃ、アナリスのお姉さんとして胸を張れないから……だから、我慢します。
もしよかったら、お返事くださいね?
それを見たら、私、きっとがんばれると思うから……。
お願いします。
ミカヅキと仲良くね。
おじさん、おばさんにも、よろしく伝えておいてください。
それじゃあ、また。
離れていても大好きだよ、アナリス。
アナリスの姉 ユーフィリアより
◇◇◇◇◇◇◇
裏庭の木の根元で、僕は、姉さんからの手紙を読み終えた。
そのあとも、しばらく便箋を見つめてしまう。
(そっか……)
姉さん、がんばってるんだね。
その姿を思うと、胸が切なくて、温かくて、心がいっぱいになってしまった。
…………。
便箋を丁寧に折り畳み、封筒にしまう。
それを見つめ、
「あ、そうだ」
返事、書かなきゃ!
僕は、慌てて立ち上がった。
家には、便箋も封筒もない。
だから、急いで行商さんから手に入れなければならなかった。
早く早く。
心の急かすままに、走りだす。
…………。
姉さんへの返事に何を書こう?
それを思うだけで楽しくて、僕は知らず笑顔で、村の道を走っていったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。