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002・新しい姉

第2話になります。

よろしくお願いします。

 妹や弟ができるのは、わかる。


 でも、新しく姉ができる……というのは珍しいのではなかろうか?


(……うん)


 正直、戸惑ってます、僕。


 そんな僕と、父さん、母さん、姉になるという少女は今、4人でテーブルを囲んでいた。


「…………」

「…………」


 僕の隣に、その金髪少女は座っている。


 顔はうつむいたままだ。


 長い金髪がカーテンになっていて、その表情はわからない。


 小さな両手は、膝の上でキュッと握られていた。


(…………)


 僕は、父さんを見た。


「えっと……詳しい話、聞かせてもらえる?」

「あぁ」


 いつも寡黙な父さんは、静かに頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 母さんには、姉が1人いた。


 僕は会ったことないけれど、話に聞いたことはある。


 母の姉、つまり僕の伯母さんはとても活発な性格で、ずいぶん昔に村を出て『冒険者』になったそうなのだ。


 異世界の代名詞。


 危険だけど、ロマンに溢れた職業だ。


 数年後、そんな伯母さんは同じパーティー仲間の男性と結婚した。


 そして、


「その義姉たちの子が、このユーフィリアだ」


 と父さん。


 僕はマジマジと、隣の少女を見てしまう。


 視線に気づいた彼女は、長い金髪を揺らして、恥ずかしそうに身を縮めていた。


 伯母夫婦は、冒険者だ。


 ユーフィリアが幼い頃は一緒に暮らしていたけれど、ある程度の年齢になると、彼女1人に留守番を任せ、あるいは近所の人に頼んで、また冒険に出るようになった。


(……つまり、この子は鍵っ子だったのかな?)


 そんなイメージだ。


 1回の冒険で家を空ける期間は、だいたい10~20日前後だそうだ。


 そして、3ヶ月前のこと。


 伯母夫婦は、いつものように冒険のため、ユーフィリアを家に残して出かけていった。


 最近、新しいダンジョン遺跡が見つかった。


 その探索に成功すれば、一獲千金が狙えるかもしれない――冒険者らしく、伯母夫婦もそれを求めたのだ。


 期間は、約30日の予定だった。


 けど、


「それから2ヶ月経っても、義姉たちは戻ってこなかった」

「…………」


 父さんの声は淡々としていた。


 その隣の母さんは、何かしらを耐えるような表情だった。


(…………)


 冒険者は危険な職業でもあった。


 そういうこともありえるだろう……。


 やがて、ずっと1人ぼっちで空腹のユーフィリアに近所の人が気づいて、役所に連絡。そこから親戚である父さんたちにも連絡が届いたらしい。


 そして父さんは、その姪っ子を引き取ることにしたのだそうだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(……なるほどね)


 そういうことなら、話はわかった。


 僕だって、自分の従姉妹を1人で放り出しておくようなことはしたくない。


 こちらを見つめる父さん、母さんに、僕は頷いた。


 それから、隣の少女を振り返る。


 ビクッ


 一瞬、彼女は震えた。


 僕は深呼吸して、


「えっと……僕は、アナリスって言います。その……これからよろしくね、ユーフィリア姉さん」


 そう声をかけた。


 金髪の少女は「……う、あ」と呻く。


 長い前髪の奥にある頬が、林檎みたいに赤くなっていた。


 そして、


「あ、あの……その……よ、よろしく……アナリス……」


 ペコッ


 こちらに小さく頭を下げてくれる。


 拍子に、長い金色の髪が床まで届いてしまっていた。


(……うん)


 受け入れてもらえて、嬉しい。


 よかった……。


 そう安心して、僕は笑った。


 ニコッ


「!」


 すると、それを見たユーフィリア姉さんが固まった。


(ん?)


 僕の顔を見つめ、口が半開きになっている。


 なんか、顔が赤い。


 胸元で、小さな両手がギュッと握り合わされていた。


(???)


「……姉さん?」

「っっ」


 パッ


 声をかけると、長い金髪を散らして顔が背けられた。


 チラリと見えた耳も真っ赤だ。


 ……えっと?


 戸惑う僕と姉さんに、


「…………」

「あらあら」


 父さんは無表情で、母さんは頬に手を当て、おかしそうに笑っていた。


 …………。


 あの……どういうこと?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あれから、3日が経った。


 姉さんが来た翌日、父さんはユーフィリア姉さんを連れて、ハイト村の村長さんの屋敷まで挨拶に行った。


 新しい村の住人が増える訳だからね。


 こういう挨拶は大切なのだ。


 母さんも近所の人たちに、新しい家族を紹介しに行った。


 ユーフィリア姉さんは、ちょっと人見知りみたいで、知らない人たちに会うのは大変だったみたいだ。


(お疲れ様、姉さん)


 心の中で合掌しておく。


 2日目は、父さんは朝から森へと入って、狩りをしていた。


 母さんは、家で家事をしながら、合間に内職だ。


 僕は午前中は母さんを手伝って、午後からは薬草摘みに森に入り、夕方に家に帰ってから、また母さんを手伝った。


 ユーフィリア姉さんは、


「……うぅ」


 昨日、挨拶回りをした反動か、1日中、暗い表情で家事を手伝っていた。


 ちなみに、1人で留守番することが多かったからか、姉さんは炊事、洗濯、掃除など、何でもできるみたいだった。


 そして3日目の朝。


 朝食の準備中に、


「ユーフィリア? 今日はアナリスと一緒に『薬草摘み』に行って来てね」


 と、母さんが言った。


(え?)


 僕は驚く。


 ユーフィリア姉さんも「え……?」と呆然としていた。


 母さんは笑って、


「うちは貧乏だからね。ユーフィリアも家族になったんだから、ちゃんと働いてもらうわよ?」


 パン


 金髪の流れる姉さんの背中を叩く。


 ケホケホ


 小さく咳き込むユーフィリア姉さん。


 と、その長い前髪の奥にあるだろう目が、こちらを向いた(……と思う)。


「…………」

「…………」


 姉さんの頬が、なぜか赤くなった。


 すぐにうつむく。


(???)


 まぁ、いいか。


「それじゃあ、ユーフィリア姉さん。あとで一緒に行こうね?」

「う、うん」


 コクコク


 笑いかけると、姉さんは何度も頷いた。


 そんな僕らに、母さんも笑っている。


 父さんは我関せずに、黙って1人、狩猟の道具の準備をしていた。


 そして、その日の午後。


 僕とユーフィリア姉さんは2人だけで、ハイト村の森へと入っていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この姉さん! チョロインなうえにショタ属性ありですかい! にやにや!
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