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017・手紙

タイトル、少し変更しました(試行錯誤中)。



第17話になります。

よろしくお願いします。

 裏庭にある1本の木の根元に、僕と姉さんは座った。


 姉さんの手には、手紙がある。


「な、何の手紙だろうね?」


 僕へと笑いかけるけれど、その笑顔はとてもぎこちなかった。


 …………。


 冒険者ギルドからの手紙。


 それはどう考えても、行方不明になった伯父さん、伯母さんに関係するものだろう。


 僕は、何も言えなかった。


 胸に手を当て、姉さんは深呼吸。


 それから、ピリピリ……と、丁寧に封を開いた。


 中にあったのは、1枚の紙。


「…………」


 姉さんの翡翠色の瞳が、その文面を追いかけていく。


 しばしの黙読。


 やがて、その肩が震え、長い金色の髪が揺れた。


 次の瞬間、


「っっ」


 姉さんは手紙を捨てて立ち上がり、家へと走って飛び込んでしまった。


 バタン


 玄関の扉が、大きな音を立てる。


(姉さん?)


 僕は唖然としてしまった。


 落ちていた手紙を拾う。


 そして、その内容を見て……唇を強く噛み締めた。


 …………。


 書かれていたのは、冒険者ギルドが行方不明となっていた伯父さん、伯母さんの捜索を打ち切った、という連絡だった。


 行方不明となって1年。


 2人はいまだ見つかっていない。


 死体も。


 遺品さえも。


 冒険者ギルドも最初は捜索隊を出し、そのあとは他の冒険者に情報提供などを呼び掛けていた。


 でも、行方不明となる冒険者は多い。


 そうした捜索活動は、1年間で打ち切られてしまうらしいのだ。


「…………」


 クシャッ


 手紙を強く握る。


 それからハッとして、僕は弾けるように姉さんを追いかけた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「何かあったの?」


 家に入ると、心配そうな母さんが声をかけてきた。


「姉さんは?」


 そう聞くと、母さんは寝室の方を見る。


 部屋の扉の前には、心配そうなミカヅキが座っていて、『クゥン』と不安そうに鳴いていた。


 …………。


 僕は、母さんにも手紙を渡した。


 それを見て、


「……あぁ」


 母さんは悲しげな声を漏らした。


 母さんにとっても、行方不明の姉の捜索が打ち切られたんだ。辛くないはずがない……。


 でも、母さんは、


「アナリス、お願い。今は、ユーフィリアのそばにいてあげて」 


 と頼んできた。


 僕は無言で、大きく頷いた。




 コンコン


 寝室の扉をノックして、


「姉さん、入るよ」


 そう声をかけてから、ミカヅキと一緒に中に入った。


 鍵はない。


 扉は普通に開いて、そして室内を見回せば、ベッドに突っ伏して泣いている姉さんを見つけた。


 …………。


 長い金髪がシーツと床に広がっている。


 その肩が小刻みに震えていた。


 ミカヅキは、不安そうにこちらを見る。


 僕は、ベッドに近づいた。


 気配に気づいたのか、姉さんは顔をあげる。


「……アナ、リス」


 涙と鼻水に濡れたグシャグシャの顔だ。


 そんな姉さんの顔をお腹に押しつけるようにして、僕は姉さんの頭を抱きしめた。


 ギュッ


 姉さんの身体がビクッとした。


 でも、離さない。


 姉さんはしばらく動かなかった。


 やがて、


「ふ……っ……う、うぅ……アナリス……うぁああ……」


 そんな嗚咽が聞こえてきた。


 心が痛かった。


 苦しかった。


 でも、きっと姉さんの方がもっと痛くて苦しいんだ。


 だから、それが少しでも和らぐように、僕は姉さんの頭を抱きしめ続けた。


 姉さんの手が、僕の腰に回される。


 ギュウ


 強く抱きしめられた。


 僕は何も言わないで、ただ、姉さんの頭を小さな手で撫で続けた。




 やがて、姉さんは泣き疲れたのか、眠ってしまった。


「…………」


 姉さんの両腕は、いまだ僕の腰に回されている。


 今の僕は、抱き枕だった。


 ……まぁ、今日ぐらいはね?


 同じベッドに横になりながら、僕は、姉さんの流れる金髪を撫でていた。


 すると、ミカヅキがベッドに飛び乗った。


『クゥン』


 僕と姉さんに寄り添うように丸くなる。  


 ……ミカヅキ。


 僕は、小さく笑った。


 ミカヅキのフサフサした灰色の大きな尻尾が、僕と姉さんのお腹の上に乗せられた。


 まるで布団みたいで、ほんのり温かい。


「ありがとう、ミカヅキ」


『…………』


 パタリ


 大きな尻尾が1度だけ、大きく動いた。


 姉さんの寝顔を見る。


 目元は赤くなり、涙の跡が痛々しい。


 それを見つめながら、


「大丈夫。僕とミカヅキは、ずっと姉さんのそばにいるよ。――そのことを、どうか忘れないでね」


 そう囁いた。


 キュッ


 姉さんの指に、少しだけ力がこもった。


 声に反応したのかな?


 起きている気配はない。


 でも、不思議とその苦しげだった表情が、少しだけ和らいだ気がした。


「…………」


 それを見たら、安心したのか、僕まで眠くなってしまった。


 あふ……あくびがこぼれる。


 姉さんの背中に手を回して、まぶたを閉じた。


 ……姉さん。


 そう心の中で呼びかけて。


 そして、段々と眠りの世界に落ちていく。


 …………。


 その日、血の繋がらない姉と弟と妹は、1つのベッドで寄り添いながら眠りについたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ ミカヅキの株価が最高値を更新中。 優しくてええ子や(*´꒳`*) しかしまぁ、ユーフィリアの両親は残念ですが冒険者なんてやっていれば何処れはそうなってもおか…
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