016・春の行商人
なんと本日、レビューを頂きました!
とても嬉しい……。
高坂岬さん、本当にありがとうございました!
それでは本日の更新、第16話です。
よろしくお願いします。
厳しい冬が過ぎ、春が訪れた。
春の始まりに、僕らは1歳、年を取った。
この異世界の人間は、みんな、4の月の初日に年を重ねることになっているんだ。
だから、僕は6歳。
ユーフィリア姉さんは、13歳になった。
その日は、国中で国民全員の誕生祭が行われて、ハイト村でもお祭りがあったんだ。
(楽しかったなぁ)
あ、そうそう。
冬に倒した魔爪の白熊は、村の共有財産として、毛皮、骨、魔石、魔爪などは高く売って、お肉は村人の胃袋に消えた。
お肉、美味しかったよ。
そんな訳で、春である。
森から雪も消えて、ようやく『薬草摘み』も再開できるようになった。
うん、今年もがんばるぞ!
僕と姉さん、ミカヅキの2人と1匹は、森へと入った。
久しぶりの森。
若葉や新芽が多くて、薬草となる植物がたくさん生えていた。
(うん)
今年は豊作だ。
心を弾ませながら、僕は、それらをナイフで摘んでいく。
サクッ サクッ
集めた薬草を、丁寧に皮袋にしまう。
ふと顔をあげると、少し離れた所で、ユーフィリア姉さんも薬草を集めていた。
うん、上手。
慣れた手つきだ。
もう姉さんも立派な『薬草摘み』だね。
「ふぅ」
手を止めて、姉さんは息を吐く。
額の汗を腕で拭って、
「……あ」
こちらの視線に気づいて、少し照れたように笑った。
…………。
1年前に比べて、姉さんは少し背が伸びた。
身体つきも、前から胸とか大きかったけど、より大人っぽくなった気がする。
「ど、どうしたの?」
見つめていると、姉さんは首をかしげた。
長い金髪が揺れる。
僕は「ううん」と首を左右に振って、
「やっぱり、姉さんは美人だな、って思っただけ」
と笑った。
姉さんは「え……?」と驚いた顔だ。
目と口が丸くなっている。
ボッ
すぐにその顔全体が赤くなってしまった。あらら……?
(姉さん、可愛い……)
僕は、心の中でほっこりしてしまった。
姉さんと薬草を集めている間、ミカヅキは姿を消していた。
また狩りかな?
サワッ
(――ん)
ふと、左側の木々の奥から気配を感じた。
姉さんとそちらに向かう。
(あ、いた)
茂みの向こうに、赤いスカーフをした灰色の狼みたいな姿があった。
ミカヅキだ。
姿勢を低くしている。
その正面には、鹿の群れがいた。
ミカヅキの額には、5センチほどの青いクリスタルみたいな角があった。
パチッ パチチッ
そこに青い放電が散った。
それで気づいたのか、鹿の群れが一斉に逃げ出す。
瞬間、角が光った。
バシィン
青い稲妻が走って、1頭の鹿に直撃した。
(うわっ?)
鹿が弾け飛び、木に激突する。
毛皮は黒く焦げ、辺りには肉の焼ける匂いが広がった。
…………。
僕と姉さんは、唖然としていた。
雷角。
ダークウルフは、その角から雷の魔法を放つという――それを見せられたのだ。
(凄い威力……)
と、ミカヅキが僕らに気づいた。
しとめた鹿の首を咥えて、こちらへと引き摺ってくる。
ズルズル
そんなミカヅキの体格は、すでに体長1・5メードほどになっていた。
もう僕より大きい。
顔つきも丸さが消え、細長くなっている。
おできみたいだった雷角も、今では立派な角となった。
体毛も所々、黒くなっている。
とはいえ、ダークウルフの成体は3メードを越えるので、まだまだミカヅキは子供らしいけどね。
ドサッ
『ワフッ』
僕らの前に鹿を落として、ミカヅキは自慢げに吠えた。
その姿に、僕は笑った。
両手を伸ばして、
「よしよし、さすがだね、ミカヅキ。偉いよ」
その頭や首を撫で回した。
モフモフ
ミカヅキは気持ち良さそうに、金色の瞳を細めた。
大きくなっても変わらない顔だ。
それが何だか嬉しい。
そんな僕らに、姉さんは優しく微笑む。
それから姉さんも手を伸ばして、ミカヅキの頭をゆっくりと撫でていた。
◇◇◇◇◇◇◇
春の陽気のある日、行商の人たちが村にやって来た。
月に1度、彼らは村を訪れるんだ。
3台の馬車には、衣服や食品、家具、農耕具、嗜好品などなど、たくさんの生活用品が積まれていた。
ちなみにハイト村にも、道具屋はある。
でも、品数は多くない。
品質も微妙で、やはり都会の製品の方がよかったりする。
道具屋も、どちらかというと村人の昔買った行商の品の修理などで生計を立てている感じだった。
閑話休題。
そんな行商の馬車には、多くの村人が集まっていた。
その中には、僕と姉さんもいたりする。
僕らの集めた薬草や、父さん、ミカヅキの狩った動物や魔物の毛皮を売るためだ。
「ほいよ、50ゴルダだ」
チャリン チャリン
行商のおじさんが硬貨5枚を、僕の手に落とす。
ちなみに、1ゴルダは100円ぐらい。
つまり、5000円だ。
これが春になって集めた薬草の金額だった。
(うん、悪くない)
今年は、質のいい薬草が生えてたもんね。
毛皮の方は、1000ゴルダ――訳10万円ぐらいになった。
そっちは姉さんが受け取って、僕の50ゴルダと合わせて、財布となる皮袋にしまった。
「いい金額になったね」
「うん」
僕の言葉に、姉さんも微笑んだ。
行商の馬車には、お菓子なども商品棚に並んでいた。
村の子供たちは、それを買っている。
みんな笑顔で、美味しそうだ。
…………。
村の子供たちとは、別に仲が悪いわけじゃないけど、僕はあまり接点がなかった。
だって、話題が合わないんだもの。
僕の中身は、享年15歳。
そのせいで、どうしても距離ができてしまうんだよね……。
…………。
少し寂しい思いで、その子たちを見つめる。
すると、
「アナリスもお菓子食べたい?」
(え……?)
何を勘違いしたのか、姉さんがそんなことを言い出した。
僕が答える前に、
「す、すみません。それ2つください」
「あいよ」
姉さんは、小さな砂糖菓子を買ってしまった。
「はい」
僕の手に1つ、渡してくれる。
…………。
姉さんは人見知りなのに、知らない大人の人に自分から話しかけていた。
僕は姉さんを見る。
「ありがとう、姉さん」
「ううん」
姉さんは、少しくすぐったそうにはにかんだ。
2人で砂糖菓子を食べる。
……うん、甘い。
姉さんと一緒に食べたそれは、とっても甘く、心に残った。
行商の人たちは、村への郵便物も運んでくる。
大抵は、村長さんへの手紙とか、道具屋さんが注文した物で、僕らには関係がなかった。
でも、その日は、
「お、アナリス坊。坊んちの手紙も1つ、預かってるぜ」
(え?)
そして、封書を1つ渡された。
珍しい。
誰からだろうと差出人を見ると、
『領都アルパディア 冒険者ギルドより』
とあった。
え……冒険者ギルド?
それも、領都の?
僕はびっくりする。
手紙をクルッと返して、宛名を見た。
すると、
『ユーフィリア様へ』
とあった。
(……姉さん宛て?)
思わず、隣の少女を見る。
姉さんも驚いた顔で、その手紙を見つめていた。
…………。
ふと涼やかな風が吹く。
春の乱流に、姉さんの長い金髪は流れるようにたなびいていた。
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