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転生した弓使い少年の村人冒険ライフ! ~従姉妹の金髪お姉さんとモフモフ狼もいる楽しい日々です♪~  作者: 月ノ宮マクラ


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012・冬到来

第12話になります。

よろしくお願いします。

 季節は流れ、冬が来た。


 吐く息は白くなり、辺境の小さな村でも雪が積もった。


 森も、真っ白だ。


 薬草は冬にも生えているけれど、数と種類は少ない。


 落雪もあるので、雪の積もった森に入るのは危険が多く、割に合わなくなった。


 しばらく森には入らないようにと、父さん、母さんからも注意された。


(……残念だなぁ)


 でも、まぁ仕方ない。


 父さん、母さんに心配かけるのも良くないもんね?


 そんな訳で『薬草摘み』はしばらく中止。


 冬の間、僕は、暖かな家で過ごす時間が多くなったんだ。




「お前、モコモコだなぁ」


 家の居間で、僕はミカヅキの全身に木製の櫛を通してやっていた。


 モフン モフン


 凄い量の毛が抜ける。


 多分、冬毛に生え変わっているんだろう。


 ……それにしても、ミカヅキがもう1匹できそうなほどの灰色の毛玉ができあがってしまったぞ?


『ワフォン……』


 ミカヅキは気持ち良さそうだ。


 お腹を天井に向けて、床に寝っ転がっている。


(全くもう)


 僕は苦笑しながら、もう1匹の毛玉のミカヅキを作ろうと、何度も櫛を通してやった。


 …………。


 そんな僕らの元に、姉さんが通りかかった。


 どうやら、お風呂上りみたい。


 爽やかな石鹸の香りがして、長い金髪はまだしっとりと湿っているみたいだ。


 姉さんはそれを、タオルで懸命に拭いている。


(…………)


 長いから大変そうだ。


 僕らを見つけて、


「ミ、ミカヅキ、気持ち良さそうだね?」


 と笑った。


 ちなみに、今の姉さんは前髪を下ろしているので、その目元は見えない。


 ミカヅキは『ワォン』と答えた。


 それに、僕と姉さんは笑った。


 僕は少し考えて、


「よかったら、姉さんの髪も手伝ってあげようか?」

「……え?」


 姉さんは驚いた顔だ。


 ある程度、ミカヅキのブラッシングは終わったからね。


 次は、姉さんの番だ。


 ミカヅキは『!?』と、ちょっとショックを受けた顔だ。


 姉さんは少し赤くなりながら、


「そ、それじゃあ、お願いしようかな……?」


 と頷いた。


 うん、任せてよ。




 姉さんには椅子に座ってもらって、僕は、その後ろに立つ。


 その長い金髪を、


 パフ パフ


 タオルで優しく挟むようにして拭いていく。 


「……ん」


 やっぱり姉さんは、少し恥ずかしそうだ。


 しかし、長いなぁ。


 でも、ちゃんと手入れをしているのか、とっても艶やかで綺麗だった。


 ……初めて会った時は、ボサボサだったのにね?


 でも、あの時は、姉さんも大変な時期だった。


 この髪の美しさは、今の姉さんの心の状態も表しているのかもしれない。


 やがて、姉さんの髪も、粗方、乾いた。


 あとは、暖炉や室内の熱でゆっくりと乾いてくれるだろう。


(さて、と)


 僕は、木製の櫛を手にする。


 もちろん、ミカヅキ用とは別の人間用の櫛だ。


 それを、姉さんの髪に通していく。


 スッ スッ


 う~ん、抵抗がない。


 真っ直ぐな姉さんの金髪は、傷みもないのか、簡単に梳くことができた。


 姉さん、いつも大事に手入れしてるんだろうね。


 髪は、女の命。


 そんな前世の古い言葉を思い出してしまった。 


「…………」

「…………」


 ここまで楽に櫛が通ると、なんとなく梳いていて楽しい。


 姉さんも気持ち良さそうだ。


 そんな僕ら姉弟のことを、ミカヅキは暖炉前に寝ながら、ぼんやり眺めていた。


 パチッ


 暖炉の薪が爆ぜる音がする。


 火の粉が小さく散った。


 そんな中、僕は姉さんの長い髪に、丁寧に櫛を通していく。


 その時、


「……ねぇ、アナリス?」


 ふと姉さんが声をかけてきた。


 ん?


 姉さんは、目を閉じたまま、 


「もし、この家から私がいなくなったら、アナリスは寂しい?」


(え……?)


 思わぬ質問だった。


 櫛を持つ手が止まる。


 …………。


 しばらくして、


「うん、寂しい。――そんなの当たり前でしょ?」


 正直に、そう答える。


 姉さんは「そっか」と嬉しそうだった。


 でも、その声には、少しだけ悲しそうな響きがあった気がした。


(姉さん……?)


 僕は、その横顔を覗き込む。


 でも、姉さんは目を閉じたまま、


「アナリス、どうしたの? 手が止まってるよ?」

「あ、うん」


 促されて、僕は慌てて櫛を動かした。


 スッ スッ


 姉さんの綺麗な金髪を梳いていく。


 何もない時間が流れていく。


 パチッ


 また暖炉の薪が爆ぜ、小さな火の粉が舞った。


 そして、


「……私も、いつまでも、アナリスと一緒にいたいなぁ」


 姉さんは、そうポツリと呟いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 灰色の空からは、今日も雪が降っていた。


 窓から見える森も、真っ白だ。


「……はぁ」


 あの様子だと、今日も森に入ることはできなさそうだね。


 ……残念。


 吐き出した吐息に、窓も白く染まっている。

 

 室内を振り返れば、母さんは、台所でお昼ご飯の準備をしてくれていた。


 暖炉前には、姉さんとミカヅキ。


 モフン モフン 


 お腹を見せて寝るミカヅキを、姉さんがブラッシングしていた。


 ミカヅキ、だらしない顔だ……。


 と、視線に気づいて、


「あ……」


 姉さんがはにかむように笑ってくれた。


 僕も微笑む。


 姉さんに近づいて、隣に座ると、


「今日も寒いね」


 そう言いながら、身体をくっつけてくれた。


 ……ん、あったかい。


 2人でお互いの体温を伝え合いながら、モフモフと灰色の毛玉を一緒に撫でる。 


 チラッ


 なんか姉さん、楽しそうだ。


 その横顔を、僕は、しばらく見つめてしまう。


「…………」


 先日、姉さんの様子が少しおかしかったのは、何だったのかな?


 正直、ちょっと気になる。


 でも、姉さんが何も言わない以上、僕からは聞かない方がいい気もするんだ。 


「アナリス?」


 視線に気づいた姉さんは、首をかしげる。


 長い金髪が、肩から柔らかくこぼれた。


 僕は「ううん」と首を振って、それから、窓の外へと視線を向けた。


「父さん、大丈夫かな?」


 そう呟いた。


「…………」


 姉さんもつられて、窓から見える森を見る。


 父さんは今、森に行っていた。


 村の狩人たちは、雪が積もっていても、毎日、森に入るんだ。


 獲物を狩るため。


 それもあるけど、それだけじゃなくて、狩人には森の奥から魔物が出てこないように見張りと間引きの役割もあるんだ。


 要するに、村の安全を守る番人だ。


 だから、冬でも森に入る。


 でも……やっぱり、雪の積もった森は危険なんだよね。


 …………。


 姉さんは、僕の髪を撫でた。


「きっと大丈夫だよ」

「……うん」


 僕も頷く。


 それから僕らは、母さんの「ご飯、できたわよ」の声で立ち上がった。


 ちなみに、最初に反応したのはミカヅキ。


 ガバッ トトトッ


 我先にと、自分の食器皿に向かっていく。


「…………」

「…………」


 その姿に不安を忘れて、僕と姉さんはクスクス笑い合ってしまった。




 日が暮れて、外は暗闇となった。


 父さんはまだ帰ってこない。


「遅いわね」


 母さんが呟いた。


 夕食も食べ終わって、もう冷めてしまった父さんの料理だけが残されている。


 暖炉前で、僕は姉さん、ミカヅキと一緒にいた。


「…………」

「…………」


 姉さんと顔を見合わせる。


 お互い、不安そうな顔だ。


 ミカヅキだけは我関せずで、丸くなって眠っていた。


 その時、


 ピクッ


 ミカヅキの耳が動いた。


 顔を持ち上げ、玄関を向く。


(ミカヅキ?)


 不思議に思った時、


 ガタン


 玄関の扉が音を立てて開いた。


 父さんだ。


 全身に雪を積もらせて、酷く疲れた様子の父さんがそこに立っていた。


 僕らは、すぐに駆け寄った。


「おかえり、父さん。……今日は遅かったね?」

「あぁ」


 外套を脱ぎながら、父さんは頷いた。


 その表情が険しい。


(???)


 いつも寡黙な父さんだけど、今夜は少し様子が違った。


 父さん?


 母さん、姉さんも気づいたのか、物問いたげな顔だ。


 僕らの視線に、


「森で問題が起きた」


 父さんは短く言った。


 問題?


 父さんは、白い闇に覆われた森を見る。


 そして、


「冬眠に失敗した『魔爪の白熊』が村近くの森にまで来てしまったようだ」


 と、重苦しい声で告げた。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ アナリスが唯々毛の手入れをしている回でしたね。 体毛と髪の毛の違いはありましたが(*´ω`*) しかしこの姉は冒険者になる気持ちは変わらないご様子な上にアナ…
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