001・姉との出会い
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第1話になります。
よろしくお願いします。
「やぁ……これは葉も大きくて、いい薬草だ」
大きな木の根元に生えていたそれを見つけて、僕は笑顔をこぼしてしまった。
カチャッ
持っていたナイフを抜いて、1枚1枚、丁寧に葉を摘み取る。
それを布袋にしまって、口紐を閉じた。
(うん)
採取を終えた僕は、1つ頷いて、また次の薬草を探しに森を歩きだした。
僕の名前は、アナリス。
今年5歳。
ローランド王国の東の辺境にあるハイト村で、狩人をしているジョアンとマーサの息子だ。
仕事は、薬草摘み。
ハイト村は、大きな森と湖に面していて、漁業と狩猟で生計を立てている村なんだ。
父さんは狩猟派。
そのせいで3歳の頃から、僕は、父さんと一緒に森に入っていた。
おかげで森には詳しくなったし、5歳になった今は、もう1人で薬草を摘みに森に入るようになっていたりする。
薬草は、そんなに高くはないけど、行商さんに買い取ってもらえるんだ。
それで家計の足しにするんだよ。
……ん?
5歳にしては、なかなか聡明だって?
ありがとう。
そして、貴方はなかなか鋭いね。
うん、その通り。
実は、僕は日本人としての記憶を持った『転生者』なんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
前世の僕は、享年15歳だった。
享年は数え年なので、一般的には14歳で亡くなったって言った方がいいのかな?
つまり、中2で死んだんだ。
中学卒業までは生きたかったんだけどね……残念だったよ……。
僕は生まれつき、心臓に問題があったらしい。
小学生の間は、まだ普通に生活できていたけれど、中学に上がった直後に体調を崩して、そのまま病院から出ることはできなかった。
僕が亡くなった時は、ちょうど修学旅行の季節だった。
行き先は、なんと海外だった。
(うわ……行ってみたい)
病院のベッドでそう思ったけれど、駄目だった。
みんなが飛行機に乗っているだろう頃に、僕は、父さん、母さんに看取られて死んでしまったんだ。
で、気がついたら転生した。
そう、転生。
入院中、何度も読んだ漫画やライトノベルでよくある展開が、自分の身にも降りかかったんだ。
(え、本当に?)
自分でもびっくりしたよ。
ある意味、海外よりもレアな行き先へと修学旅行に来てしまった気分だ。
だけど、問題が1つ。
僕の転生には、特別なチート能力や境遇はなかった。
本当に、日本人だった14歳の記憶を持ったまま、普通に生まれ変わっただけの感覚だった。
…………。
まぁ、いいけどね。
だって、生まれながらに背負っていたハンディがなくなったんだ。
それだけでも、僕にとっては御の字だよ。
特別な主人公になりたい訳でもないし、ただ普通に慎ましく生きていくのも悪くない。
健康が一番だよ、うん。
あとは、この世界についても話そうか。
転生してからの5年間でわかったのは、どうやらこの世界は、定番の剣と魔法のファンタジー系の世界だということだ。
冒険者なんて職業もあるし、魔物もいる。
村の湖には『龍魚』って大きな魔物もいるから、あまり沖には行ってはいけないって決まりもあるんだ。
あと、会ったことないけど、エルフやドワーフなんて種族もいるってさ。
(会ってみたい!)
それを知った直後は、そう思った。
でも、この小さな村で暮らしている間は難しいんだろうな……。
あと、この世界には魔法もある。
ただ『魔法使い』なんて呼ばれる人は、1000人に1人ぐらいで、大抵の人には魔法の素質がない。
ハイト村の人も全員そうだ。
もちろん、僕も。
「…………」
知った時は、ショックだった。
やっぱり異世界っていったら魔法だもんね。
……ま、ないものは仕方ない。
健康な肉体を手に入れただけで、よしとしよう、うん。
ただ、魔法の恩恵は、実は僕らみたいな辺境の村人にも与えられていた。
この世界には『魔石』という物質がある。
魔物を倒したり、魔素鉱山などで手に入る魔力の蓄えられた不思議な石のことだ。
これをエネルギーにして、照明や暖房などの魔道具が使えたり、大都市だと生活用水の生成や防衛設備の結界など、様々なことにも活用されてるらしい。
要は、電気代わりかな?
おかげで、前世日本ほどじゃないけど、村の生活はそこまで不便じゃなかった。
まぁ、楽とは言わないよ?
でも、僕としては、充分に許容できるレベルだったんだ。
「――あ、またあった」
足元の茂みをどけたら、また質の良さそうな薬草が生えていた。
サク サク
丁寧にナイフで採取する。
(これで、よしっと)
布袋もいっぱいになったし、今日はこれぐらいでいいかな?
「ふぅ~」
額の汗を拭って、空を仰ぐ。
うん、綺麗な青空だ。
僕は笑った。
転生しても、英雄になったり、お金持ちになることはないかもしれない。
一生、村人のまま。
でも、何もないけど、そんな人生も悪くないんじゃないかな……なんて、僕はのんびり思っているんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「おかえり、アナリス」
家に帰ると、マーサ母さんが出迎えてくれた。
どうやら、編み物の内職をしていたらしく、その手を止めて、こちらに笑いかけてくれた。
僕も「ただいま」と笑って、家の中に入った。
薬草の入った布袋を開くと、
「まぁ、たくさん集めたわね」
と驚かれた。
(えっへん)
中身は、転生者ですから。
とはいえ、最近は、今の5歳児の肉体に引き摺られて、自分の精神年齢が下がっている気はしてる。
でも、それが自然なのかなとも思うんだよね。
そんな僕の頭を、
「がんばったわね、アナリス。偉いわよ」
クシャクシャ
母さんの手が撫でてくれた。
えへへ……。
5歳の心は、素直に喜んでいる。
「それじゃあ、がんばったアナリスのためにも、そろそろ夕食の準備をしましょうかね」
母さんはそう言って、台所に向かった。
「あ、手伝うよ」
僕も慌ててあとを追う。
ちなみに父さんは、今、家にいなかった。
森の狩猟で家を数日空けることは、よくあることなんだけど、今回は違った。
どうも親戚に関する用事があって、その親戚に会うために、この地方で1番大きな町まで出かけているんだ。
詳しくは知らない。
でも、おかげで15日間ぐらい、家を留守にしている。
5歳のアナリスの心は、早く帰ってこないかなぁ……と心配していた。
だってこの世界は、日本じゃないからね。
街道に魔物が出ることもあるし、近場であっても旅をするのは安全じゃないんだ。
(……どうか無事で)
そう祈りながら、母さんと夕食を作った。
ガタン
突然、家の扉が開いたのは、母さんと夕食を食べている最中だった。
(え?)
驚いたけど、
「帰ったぞ」
ぶっきら棒な声が聞こえて、見れば、そこにはジョアン父さんが立っていた。
わ、帰ってきた。
突然のことにまず驚き、次に喜んで、そして最後に安心が生まれた。
僕と母さんは、すぐそっちに向かう。
『――おかえり、父さん』
そう声をかけようと思っていた。
でも、その声は、出る寸前で強引に飲み込み、止めてしまった。
…………。
父さんの横に、知らない女の子が立っていた。
(えっと……)
誰?
年齢は、多分、10~12歳ぐらいかな?
僕より年上だ。
くすんだ金色の髪は、長く足元まで伸びていて、でも、手入れをしていないのか、少しボサボサとうねっていた。
背は高く、身体は痩せている。
背中も丸まっていて、何だかみすぼらしく見えた。
「…………」
長い前髪が目元を覆っていて、顔や表情はよくわからない。
家の玄関で、彼女は父さんの隣で、固まったように立ち尽くしていた。
(……どちら様?)
僕は首をかしげる。
でも、母さんは、その子を知っているのか、驚いた様子はなかった。
帰ったばかりの父さんは、羽織っていた外套を外す。
それから僕を見て、こう言った。
「アナリス、この子はお前の従姉妹のユーフィリアだ。今日からこの家で共に暮らすことになった。これからは、お前の姉だと思え」
「…………」
はい?
思わず、その女の子を見つめる。
「……ぅ……ぁ」
5歳児の視線に、彼女は怯えたように後ずさった。
…………。
……えっと、うん。
よくわからないけれど、本日、僕に血の繋がらない姉ができました。
ご覧いただき、ありがとうございました。