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分隊長シェルダン・ビーズリー

 16歳でカディス、ロウエンの2人と入隊してから早くも3年が過ぎた。

 相変わらず魔塔はあって、魔物の対応にルベントの軍営は追われている。

 ハンスはカディス、ロウエンとともに第3ブリッツ軍団軽装歩兵小隊第7分隊の配属となって、その一員として軍務に励んでいた。

「聞いたか?新しい分隊長の話」

 休日、寮の自室で休んでいると、ふらりとカディスがあらわれて尋ねる。寮の住まいで賭け事も酒もやらない。貯金が増える一方だ。商家の血筋か、ハンスはその点でも軍人生活に満足している。

「えーっと、ブラウン隊長が退役するから、その後に来るって人だよな」

 ハンスは記憶を辿りつつ答えた。

 カディスが頷く。

「あぁ、その後釜に第4分隊にいるシェルダンという人が上がるらしい」

 深刻な顔でカディスが言う。一緒に入隊してから初めて見せる顔だ。

「どんな人なんだ?」

 ハンスはシェルダンという人を知らないので尋ねた。第4分隊は分隊長の髭面のボーガンズしか知らないのだ。

「元アスロック王国の軍人で、とにかく苛烈、という噂だ」

 苦虫を噛み潰したような顔でカディスが言う。

 自分も嫌な顔になっただろう、とハンスは思った。

「捕らえた盗賊を生き埋めにしたり、捕虜の手足を砕いたり、とちょっと我が国では考えられないくらい残酷な人だ、と。灰色の死神などと呼ばれているよ」

 カディスの並べ立てる事柄の一つ一つがおぞましい。

「うへぇ」

 ハンスは人の手足を砕く羽目になるところを想像して声を上げた。

 自分の上司として命じられてはたまらない、と思ったのだ。

「副官のディック殿も異動されるからな」

 温厚なブラウン分隊長のもと、輪をかけて温厚な初老のディック副官もいて、ハンスら3人は新兵時代からのびのびと仕事をしてきた。

「次の副官はハンター殿か?」

 ハンスは40過ぎの筋骨隆々としたベテラン軍人を思い出して告げる。カディス、ロウエンと一緒にしごかれた記憶が強い。人柄は大雑把で気の良いところもあるが。

 訓練では隊長や副官が優しい代わりとばかりに厳しくされた。

「それが」

 カディスが言い淀む。

 他所の隊からもう一人、たちの悪いのが赴任してくるとでも言うのだろうか。

「そのシェルダン隊長からの指名で、俺にやらせるって下話が来ているんだ」

 不安そうな友人に、ハンスは何と声をかければいいのか分からなくなった。カディス自身、昇進意欲はあり、副官をやりたがっていたのだが。

 自分とロウエンにとっては、気心の知れたカディスが副官にいてくれるのは心強い。ただ、その残酷な隊長と自分たち隊員との間を取り持つ苦労を思うにつけ、おめでとうとも言いづらかった。

「俺とロウエンはカディスが副官だと嬉しいけどな」

 ハンスは思ったままを口に出した。無言で咎めるロウエンに指でプスリと背中を刺されてしまう。

「そうだな。二人のためにもこの話を受けて。なんとかうまくやろうと思う」

 弱々しくカディスが微笑んで告げた。

 気を使わせてしまったことをハンスは反省する。カディスの苦労を軽くするためにも、自分は自分でしっかりしよう、とハンスは心を決めた。

 果たしてシェルダン・ビーズリーとの顔合わせの日を迎える。

 カディスを右端として、ハンター、ハンス、ロウエンの四人に新隊員の2人を加え、6人で整列した。新兵2人はそれぞれ、リュッグとペイドランという名前らしい。

 シェルダン・ビーズリーは灰色の髪をした、精悍な美男子だった。なよなよした優男より、しっかりした男のほうがいい。という女性には人気があるだろう。

「第4分隊から昇格された、シェルダン・ビーズリーだ。宜しく頼む」

 ペコリと頭を下げるシェルダン。思ったよりも普通の人に見える。

「思ってたより普通だな」

 ついうっかり、ハンスは口に出してしまう。すかさず、ハンターがベシッと頭を叩く。

「うん?どう思ってたんだ?」

 シェルダンの目が自分を捉える。無機質な視線であり、見られている、というよりは捕捉された、と感じてしまう。

(前言撤回。なんかおっかねぇ)

 ハンスは震え上がって何も言えなくなった。埋められるか手足を砕かれるのか。

「すいません。妙な噂が立っているのでおそらく」

 カディスが助け舟を出そうとして、何かを言いかけた。

「カディス、俺はハンスに聞いている」

 シェルダンがカディスを遮って告げる。自己紹介もしないうちから、名前を知られていることすら恐ろしい。

(だから、おっかねえって)

 なんとか失禁しそうになるのを、ハンスは耐えた。

「いや、すげぇ、おっかない人だって、聞いてたんで。その、人を埋めるとか骨を砕くとか」

 カディスやロウエンを見てから、ハンスは正直に答えた。

 見るからにシェルダンが呆れた顔をする。

「なんだ、それは。まったく、くだらん噂を真に受けるんじゃない」

 ブツブツ文句を言い始めたシェルダン。『だから平和ボケが』云々と断片的には聞こえてくる。

 思っていたほど、ひどくは怒られなかった。単に気を悪くしただけのようだ。

 訓練に入ってもシェルダンの態度は変わらない。特に厳しすぎることもなかった。楽でもないが。以前と同じかそれ以上に、ハンターが張り切っていたせいだ。

 特に失言をしたハンスだけが、きつく当たられる、ということもない。

 何日経っても、シェルダンの態度は変わらなかった。ただし、一番怒られるのは、ハンスの失言癖であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] シェルダンの通り名が面白くてプククと笑ってしまいました(笑) 考えていた事をつい口走ってしまうハンスさん、生き埋めにされなくて良かった! いつもの淡々としたシェルダンで面白かったです(*^…
[良い点] 「一番怒られるのは、ハンスの失言癖」←w。 〝隊員目線による、シェルダン〟の描写が、興味深くて面白かったです。 [一言]  シェルダンが自分の上司だったら……とても有能なので頼りになる一方…
[一言] えっ、シェルダンって、評判が悪かったんだ‥‥ けど、三国志系の話で、張飛の部下が、 諸葛亮を、こき下ろすみたいな感じにも‥‥
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