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DAY 19

「パパ、わたし、あのひとやだ⋯⋯しろくて、まぶしくて、ちかちかするの⋯⋯」

「フッハッハ、随分な嫌われようではないか! 確かに我ら魔族に比べると些かテカテカしておるからな、しかし仕方のないことだ! コイツは魔族では無いのだからな!」

「も、申し訳ありませんお嬢様⋯⋯そ、そんなにテカテカしてるでしょうか⋯⋯」

 

 ✳︎


「きらい⋯⋯」

「お、今のは寝言かい?」

「⋯⋯!?」

 父親の夢を見ていたベレスは、騎士の言葉に驚いて飛び起きました。そんなベレスに騎士も驚いて椅子から転げ落ちそうになります。

「おお⋯⋯意外と元気なんですね。やはりなにからなにまで、私たちとは作りが違うのでしょうか」

 騎士から身を引きながら辺りを見渡すと、貴族の所とまた同じような牢屋でした。しかし今までよりもずっと広く、呼吸もずっとしやすいようです。

 騎士は柵の向こう側で兜を外し、素顔を晒してベレスを観察していました。

 無骨な鎧姿からは想像出来ない村娘のような顔立ちに、金色の長い髪。兜さえ無ければ民兵と間違われるほどに、彼女を騎士と呼ぶには違和感がありました。


 しかしベレスにとってどんな容姿であれ人間は人間、憎むべき対象です。また牢屋に閉じ込められている事実に憤怒し、女騎士を睨みつけていました。

 そんなベレスに対して女騎士は謝り始めました。

「ああ! ご、ごめんね。魔族って私達見た事がなくて⋯⋯とりあえずここしか君の場所を用意出来なかったんだ」

 しかし女騎士の言葉には耳を通さず、今度は手足に自由が効くベレスは三つ首の番犬のように歯を剥き出しにして唸り、睨み続けています。

「う、うーん⋯⋯言葉が通じないのかな⋯⋯そ、そうだ。りんご、食べる? ほら」

 女騎士は戸惑いながらも意思疎通を図ろうと、手持ちからりんごを取り出し、ベレスのいる牢屋に放り投げました。

 りんごに一瞬目を向けるベレスですが、警戒は解きません。

「毒とか無いから安心して! ほら、もう一個あるよ〜、美味しいよ〜⋯⋯」

 ぐるるるる、と、ベレスのお腹から音が鳴りました。思えば目覚めてからというもの、ただの一度も食事にありつけた事が無かったのです。気付けばベレスの口元から涎がダラダラと零れ落ちていました。

「⋯⋯たべ、れる?」

 ベレスは目覚めてから初めて、言葉を口にしました。

 数百年ぶり、目覚めてから声を我慢する思いを繰り返してきましたが、ようやく悲鳴以外の声を出せたのです。


 そんな希望も何もかも捨て切った、小さい女の子の掠れた声を聞いた女騎士は思わず胸を締め付けられる感覚を感じながら、持っていたもう一つのりんごも差し出しました。

「い、良いよ⋯⋯! 良いんだよ! ほらお食べ!」

「たべ、て⋯⋯いい⋯⋯いい⋯⋯」

 ベレスは一つのりんごを拾い、もう一つの差し出されたりんごに向かって、ゆっくり、ゆっくり、足を踏み出します。


 お母さんを求める子猫のように、必死に生きようとする魔王の娘。


 両手に握ったりんごを二つ貪り、生にしがみつくその姿には、人間も魔族も関係ありませんでした。

 りんごを食べ終え、空腹を満たしたベレスはそのまま倒れ込むように地面へ突っ伏し、眠りについてしまいました。


 子猫のように丸くなって眠るベレス。牢屋の中ではありましたが、初めて恐怖に怯える事なく、次の朝を迎えました。

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