エピローグ
「さっきは、ごめんなさい。急に飛び出しちゃって……。あの後、大丈夫でしたか?」
「ああ。深山先生にも、こちらの言い分は理解いただけたよ」
「そうなんですね……。私ね、あの後いろいろ考えたんですけど……」
桃香が躊躇いがちに言う。後に続く言葉が、刹那には予想できた。これまでの、好き、という言葉を取り消して、距離を置きたい、そんなところだろう。刹那は勇気を振り絞って、その言葉を遮った。
「待ってくれないか。霞さん、俺も、色々考えたんだ」
「え?」
意外だったのだろう、桃香は戸惑いを見せた。刹那が続ける。
「どうやら俺は、ロリコンであるにも関わらず、君のことを好きになってしまったみたいだ。もし良かったら、付き合ってくれないか」
刹那は決死の思いで告白したのだが……。
「……ごめんなさい」
返ってきたのは、お断りの言葉だった。あれだけ好意を示されていたのであるからショックと言えばショックだが、刹那はどこかホッとしてもいた。自分もとうとう大量虐殺被害者の一人になってしまったかと苦笑した刹那は、なるべく素っ気なく桃香の元を辞そうとしたのだが……。
「理由を、聞いてくれないんですか?」
理由は、これまでの失礼な態度への不満が積もりに積もって、美冬ちゃんへの発言をきっかけに爆発したからだろうと、刹那は勝手に納得していたのだが、桃香に言われて一応聞いてみた。
「俺のこと、好きだって言ってくれていたのに、どうして?」
「忘れましたか? 私はどMなんです。そんな普通に告白されても、心に響きませんよ?」
桃香は、何かを期待するように頬を紅くして目を潤ませている。察した刹那は、思い切り冷たく桃香を睨み付けた。
「告白の最中におねだりするとは、はしたない女だな。いいだろう、たっぷりお仕置きしてやる。厳しく躾けてやるから、付き合ってくれ」
「はい……。いっぱいいぢめてくださいね」
桃香が可愛らしく身悶えながら言う。完全に乗せられてしまったような気分になりながら、刹那は何故か、「ロリータ」のワンシーンを思いだしていた。一目惚れしたロリータに合法的に近付くために、ハンバートハンバートが彼女の母親と結婚するシーンを……。
これが、刹那が初めて15歳以上の女性に対して行った、そして桃香が初めてオーケーを出した、告白の顛末だった。
了
最後まで読んでくださった方がもしいれば、ありがとうございました。