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刹那君はロリコンです。  作者: かわせみ
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プロローグ

某大賞2次落選作を手直ししつつ晒してみます。


「せ、刹那君……わ、私と、付き合って下さい!」


 それは、高校に入学して一ヶ月ほど経った五月晴れの日のこと。放課後の体育館裏という、これ以上ないくらいベタな場所に久遠くおん 刹那せつなを呼び出したのは、学園一の美少女との呼び声も高い、かすみ 桃香とうかだった。


 桃香の腰まで届きそうなサラサラのロングヘアは、艶やかな鴉の濡れ羽色で、透き通るような白い肌との対比がえも言われず美しい。くっきりとした二重瞼から覗く形の良い大きな瞳は、少し気弱そうな印象ではあるものの、見るものを惹きつける魔力を帯びているようだ。そして、特筆すべきは、やや幼さの残る顔立ちからは信じられないほどのたわわな胸だ。かっちりとした制服の上からでもわかる胸の大きさと腰のくびれは、純情な男子であれば直視するのもはばかられるほどの色香に満ちている。


 同じ嚆矢学園高等部一年六組に籍を置くクラスメイトとは言え、これまで二人の間に接点はほとんどなかった。というより、刹那にはクラスの男子女子を問わず、ほとんど誰とも接点がない。中肉中背の平凡な体格ながら、悪魔か何かの親戚と揶揄されるほど目つきの悪い刹那は、休み時間も不機嫌そうな顔で誰とも交流せずに読書に耽けるか、惰眠を貪っている。典型的な「入学早々にスクールカーストの底辺に配置されてしまった陰キャラ」というやつだ。


 方や桃香は、入学後一ヶ月ちょっとで同級生、上級生、他校生、果ては教師までも含む百人以上に告白され、その全てをお断りしたことから、畏怖と憧れを込めて「虐殺ジェノサイド天使エンジェル」などという恐ろしい二つ名で呼ばれているカーストの最上位だ。


 そんな桃香が刹那ごときに告白してきたのだ。これ以上はないと言うほどの下克上だが、刹那は嬉しそうな顔一つせず、桃香を睨みつけるように悪魔の目を細めた。


「あ、あなたのことが、す、好きなんです。だから……」


 常人ならキュン死してもおかしくないような可愛いらしい告白だ。桃香はその可憐な瞳に涙を溜め、体を小刻みに震わせている。遠目には、刹那に怯えているように見えるだろう。


「笑えない冗談だな。大方、冴えないクラスメイトを簡単に落とせるか、誰かと賭けでもしてるんだろ」


「そ、そんなんじゃありません!」


 刹那の底辺らしい自虐的な推測を、桃香は即座に否定した。その必死かつ健気な態度は、猜疑心溢れる刹那の邪眼イービルアイを持ってしても嘘には見えない。


「……仮に本当だとしても、俺はお前に興味がない」


 吐き捨てるように、刹那が言う。その冷たい言葉に、桃香は、ぴくん、と身悶えした。


「ど、どうして興味がないか、理由を、教えてくれませんか?」


 興味がない、と言っている相手にわざわざ理由を問うなど、傷口に塩を塗ってくださいと言うようなものだが、桃香は敢えてそこに踏み込んだ。


『男に媚びたようにあざとく潤ませた瞳が嫌いなんだ』

 

 或いは、


『男を誘っているようにだらしなく揺れるその卑猥な胸が気持ち悪い』


 恍惚とした表情すら浮かべて刹那の言葉を待つ桃香は、そんな辱めの言葉を期待しているようにも見える。しかし、刹那の口から出た言葉は、桃香を貶すようなものではなく、文字通り、桃香に無関心であることの理由だった。


「俺はロリコンなんだ。十五歳以上の女性には、興味がない」


 余りにも痛々しいカミングアウトに、桃香が凍りつく。


 これが、刹那が人生で初めて受けた、そして桃香が人生で初めて自分から行った、告白の顛末だった。

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