驚きの成果
私はといえば、アドバイスの効果にすっかり興奮してしまった。アイリシア様はあんなに楽しそうに話し続けた。私はほぼ聞いていただけだが、あんなに長く人と話したのは初めてだ。これは、せめてあともうひとり、誰かに試してみたい…!
授業はそっちのけで、ターゲットを誰にしようか考えながら、教室内を眺め回す。一番後ろの席は便利だ。私でも話しかけやすい人、話しかけるきっかけがある人…
ふと、艶のある栗色の巻毛が美しいサフィア伯爵令嬢ビオネッタ様に目がとまった。古代語の授業中なのに、机の上で植物図鑑を開いている。私も植物は嫌いではない。屋敷の庭に自分の花壇を持って、花を育てているほどだ。よし。
授業が終わるとビオネッタ様の机に近づく。彼女はまだ図鑑を眺めている。笑顔笑顔笑顔。
「ビ…ビオネッタ様」
話しかけられたビオネッタ様が顔を上げ、声をかけたのが私だと知って驚いた顔をする。きっと、私の声も初めて聞くのだろう。
「イベリス様、なんでございましょう」
「あの…植物がお好きなの?その…授業の間もずっと図鑑を見ていらしたでしょう」
「見られてたのか」とばつの悪そうな顔をしたビオネッタ様に、慌てて「私も自分で育てるほど植物が好きなのです」と手をバタバタさせながらしどろもどろに説明する。何とか落ち着いて「何のページを見ていらしたの?」と聞くと、睡蓮だと教えてくれる。この国ではあまり見かけない、珍しい花だ。
「水の上に咲く花ですって?」
「ええ、珍しいでしょう。絵ではよくわかりませんが、ピンクの花びらが光に透けて神々しくさえ見えます」
「それじゃビオネッタ様は実際に睡蓮をご覧になったことがおありなのね?」
「ええ。王都だと、王立植物園で見られますよ。株数は多くありませんが…今ちょうど花の時期ですわ」
「まあ、そうですか。じゃあ今週末のお休みに、見に行ってみようかしら」
「それでしたら、ぜひご一緒いたしませんこと?私はほぼ毎週植物園に通っておりますの。お望みでしたら、他の植物についてもご説明いたしましょう」
思わぬ展開に目が点になる。クラスメイトと二人で出かけるなんて初めてだ。
「私と…?わわ、私は大変ありがたいのですけど、ビ…ビオネッタ様は私などと出かけられても退屈では?」
「いいえ、イベリス様とお話するのはとても楽しいですわ。よろしければぜひ」
理由もなしに断ることもできず、週末に王立植物園で待ち合わせをして、二人で散策することになった。