山小屋にて
「ミラルなの?どうかした?」
音がした方向に向かって声をかけると、ミラルではない男が現れた。「こんな山奥に、こんな身なりのいい、綺麗なお嬢さんが何の御用かな?」と口の片側だけを上げて言う。きっと、堅気の人間ではない。危険を感じて「ミラル!」と大声で叫ぼうとすると、もう一人の男に後ろから口を塞がれた。
抵抗しようにも、男二人相手ではどうしようもない。羽交い締めにされて、滝から少し離れた山小屋まで連れて行かれた。手と足に縄をかけられる。
山小屋の中には、他にも数人の女の子たちがいた。小声で話を聞いてみると、みんなさらわれたり、親に売られたりしてきたらしい。男たちは、私たちをどこかに売り飛ばすつもりだ。
「大丈夫、きっと助けがきます」と女の子たちを励ます。ミラルが迎えに来て、私がいないことに気づいて、付近を探して見つけてくれるはず…
けれど、待てども待てどもミラルは来ない。山小屋を見つけられないのか。それなら、一旦屋敷に帰ってお母様に報告するだろう。お母様からお父様に連絡して、お父様やトバイアス様が探しに来てくれる…きっと来てくれる…!
「信じてますから」と小さく声に出した時、ふわりとトバイアス様が小屋の中に現れた。
「トバイアス様!」
「アイリシア!大丈夫ですか?怪我は?」
「怪我はありません。私は大丈夫です」
「でも、腕から血が。それに手首に痣が」
「ただのかすり傷です」
「何者だ、この魔法使い!」と慌てる男たちに、トバイアス様が向き直り、剣を抜く。攻撃魔法が使えないことは聞いていたけれど、剣!?トバイアス様、剣術なんてできるの?全然イメージにない…
「アイリシアに怪我をさせるなんて、許さない」
トバイアス様とは思えぬ威圧感にビックリしてしまう。普段のトバイアス様と同一人物とはとても思えない。
男たちも完全に気圧されているが、ひとりが叫び声を上げながら、トバイアス様に突進した。ひらりと、いとも簡単に身体をかわして、背中に肘鉄を喰らわせる。動きが止まった相手に蹴りを入れ、隙を狙おうとしたもうひとりに峰打ちを喰らわせる。
すごい…
男たちが咳き込んでいるところへトバイアス様が近づく。これ以上何か攻撃をしたら、正当防衛の範疇を超えるのでは…?止めようと「トバイアス様!これ以上はダメです!」と声をかけた時、またふわりと風が起きて、イーライ叔父様が現れた。
「殿下、私を置いていかれては困ります。おや、もう終わってしまったのですか」
叔父様が魔法で男たちを捕縛し、トバイアス様は私や女の子たちの縄を解く。
「無事で本当に良かった」
「トバイアス様、助けに来てくださって、ありがとうございました。でも、どうしてここがわかったのですか」
「王族とその婚約者には、万が一の時のために、魔法でマークをつけているのです」とトバイアス様。私がいなくなったと連絡を受けた時点で、すぐにトバイアス様が移動魔法を使ってピンポイントで山小屋へ駆けつけてくれたのだ。
「ここがどういう状況かもわからない中で、ひとりで先に行ってしまうなんて、無鉄砲でしたよ」とイーライ叔父様がトバイアス様に苦言を呈する。
「いつもの殿下らしくありませんでした」
「ええ、そうですね。申し訳ありませんでした。心配で、つい」
「とにかく、たいした相手でなくて良かったです」
「クレイトに鍛えられていたおかげです。ところで、早くアイリシアの傷を手当てしていただけますか」
「ええ」
イーライ叔父様が私の腕と手首に手を当てると、切り傷と痣はすぐに消えた。
「叔父様、お父様は」
「王宮で待ってる。ここで何があるかわからなかったので、連れて来られなかった。俺が兄上を連れて移動魔法を使うと、かなり魔力を消費するからな」
「兄上のあんな顔は久々に見た。じゃあ俺は先に戻ってる」と言い残して、叔父様は消えた。
「良かった、本当に」
そう言ってトバイアス様は私をぎゅっと抱きしめた。




