弟たちのアドバイス
「トバイアス殿下に何かプレゼントをしたい?」
「そうよ。何がいいかしら。男性目線で教えてほしいの」
「姉上がそんなことで私にアドバイスを求めてくるなんて」
「弟の中で真面目なのはあなただけじゃない。一番トバイアス様に性格が近いのよ」
一歳下の弟、クロフトに相談していると、その下の弟二人…ヘイミッシュとアロックがニヤニヤしながら参戦してくる。
「姉上、私たちを除け者なんてひどいですよ」
「そうそう。人数が多い方がいい意見が出ますよ」
「あなたたちはいいのよ。どうせちゃんと意見を述べる気もないでしょう」
どうしてだか堅物なお父様に似ずカラバス叔父様に似てしまったチャラチャラ不真面目な弟たちを追い払おうとするも、「姉上が男性にプレゼントをしたいだなんてね。これまではもらってばかりだったのに」と嬉しそうに席についてしまった。
「トバイアス様は、いつも私の趣味や都合を優先してくださるのよ。本当にありがたいから、お礼がしたいの」
「それだけですかぁ?」
アロックの質問に少し赤くなる。確かに、単なるお礼というのではない。トバイアス様が喜ぶ顔が見たい。いつも私に合わせてくださるトバイアス様に、私からも、何か喜ばせることをして差し上げたいのだ。
「誕生日や記念日でもないのでしょう。高価なものだと”重い”かなぁ」
「何か軽めのもの?で、殿下が喜んでくださるもの?って何だろうねぇ」
「殿下って何がお好きなのでしたっけ?ご趣味とか」
「読書がお好きよ」と答えると、「でも本って個人の好みがかなり出ますよねぇ。プレゼントには向かないか」とヘイミッシュ。そうなのだ。そもそもトバイアス様のほうが読書量が圧倒的に多いので、本を差し上げるという気にもならない。
「私は読書中にひと休みするとき、少し甘いものが欲しくなったりしますよ。お菓子などいかがですか」
「クロフト!やっぱりあなたに聞いてよかったわ。王都で評判のパティスリーで…」と決めかけたところで、ヘイミッシュが「姉上、それはダメですよ」と止めた。
「せっかくですから、手作りしないと」
「いいですね!婚約者がお菓子を手作りしてくれたら、私なら大喜びです」
アロックも賛成する。クロフトも「いいと思います」と言うが、お菓子など作ったことのない私は困ってしまった。イベリス様とビオネッタ様と行った、バーベキューの苦い記憶が蘇る。
「それならジヴァに教えてもらえばいいでしょう。お菓子作りの達人ですから。ねえジヴァ、姉上を指導してくれるよね?」
「もちろんご協力させていただきますわ、アイリシアお嬢様。読書の合間につまむのでしたら、クッキーなどいかがでしょう」
ジヴァに指導してもらいながら、それでも何度も焼き直してようやくクッキーが完成した。「喜んでいただけるかしら」とドキドキしながら、王宮へ向かう。
「これを私に?アイリシアが自分で作ったのですか?」
「ええ、いつも私によくしてくださるお礼でございます。クッキーならば読書の合間に食べていただけるかと思いまして…あ、毒見はいたしましたので、お腹を壊したりすることはないはずですわ」
トバイアス様は、「そんな心配はしておりません」とクツクツ笑う。「とても嬉しいです。手作りのお菓子をもらったのは初めてです」という言葉にほっとして、ようやく肩の力が抜けた。
「私のことを考えて、何がいいか思いを巡らせて作ってくれたことが何より嬉しいです」といってもらえて、もうそれだけで努力が報われた気になる。「今、ひとつ食べても?」という問いに、ドキドキしながら頷く。
ぱくり。
感想が出るまでの時間が長く感じる。
「おいしい」
「…そういっていただけて、光栄でございます」
すごく、すごく嬉しい。
「アイリシアもひとつどうぞ」とトバイアス様が私の口の前にクッキーを持ってくる。
「いやっ!私が作ったのですし、散々毒見いたしましたので!」
「せっかくですから、一緒に食べてください」
ぱくり。観念してトバイアス様の手からクッキーを食べる。
「おいしい…です」
「ですね」




