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侯爵令嬢の恋愛結婚  作者: こじまき
それぞれの幸せ
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遠出の方法

初デートから、私たちは何回かデートを重ねている。王宮内でお喋りしたり、服を仕立てるのに付き合わせていただいたり、王都内のカフェで甘いものを食べたり。


トバイアス様はもともと王族として育っていないからか、あまり仰々しいことは好まれないようだ。街に出るときも護衛は最低限だし。「そもそも魔法使いだから、護衛は要らないのでは?」と聞いたら「防御は少しできるけれど、攻撃系の魔法はほとんど使えないので心許ない」と返された。それも何だかトバイアス様らしいといえば、らしい。


それに、ふらりと本屋に入って買い物したりする。最初は驚いたけれど、今では私もその感覚がとても心地よい。


トバイアス様は、知り合いに会えば気さくに挨拶もする。「今は王族なのだ」といった偉ぶったところがない。挨拶をしてくれる人たちが皆、トバイアス様を好きそうなのも、何だか私まで嬉しい。


それに、いつも私の趣味…絵や、買い物や、甘いものに付き合ってくださる。人から好かれる、優しい方…素敵な婚約者だ。親が決めた結婚だけれど、トバイアス様のことを好きになれそうだ。


「今日は王宮に来てください」と言われて、お茶でも飲みながらお喋りかしら?と思いながらやってきた。


廊下で、王太子妃教育に向かうと思しきイベリス様とすれ違う。今日は苦手な社交の訓練だそうだ。「いまだに、言葉がすぐ出なくて。黙って聞いている方がいい」と見るからに顔が暗いイベリス様を見て笑ってしまい、励ましてから、待ち合わせ場所の魔術課へ向かう。


魔術課でお茶?魔法でお茶を淹れてくれるとか?


魔術課に着くと、トバイアス様が待っていた。今日も眼鏡だ。魔法に耐えられるように壁を分厚くした部屋に通され、「ここに立ってください」と指示される。


言われた通りに部屋の真ん中に立つと、トバイアス様が私に向かい合って立つ。


「トバイアス様、これはどういう?」

「まだ秘密です。アイリシア、両手を私の両手に重ねて目を閉じてください。決して手を離さないように」

「…はい」

「いきますよ」


体が浮き上がるような感覚。そのあとに、草と潮の香りと、風。「もう目を開けていいですよ」と言われて目を開けると、そこは…


「レピト…?」

「その通りです」

「なんて綺麗…」


セトルス有数の絶景として知られる、レピトの断崖。海沿いにどこまでも続く縞模様の崖と、青い海、青い空。崖の上には黄緑の草が一面に生え、小さな小さな可愛らしい集落がある。


一度ぜひ旅行に行ってみたいとトバイアス様に話したことはあったが、内陸にある王宮からは、馬車で何日もかかるはず。どうして…


「これでも一応、魔法使いなので」

「でもでもっ!自分以外の人を動かす移動魔法は、難易度が高くて魔力の消費量も多いと、イーライ叔父様が!こんなことをすればイーライ叔父様すら3日くらいは魔力欠乏になるって…それをこんな易々と…しかもこんな遠くまで…」


大人になってから魔法が使えるようになった人は、子どもの頃からバランスよく能力を鍛えていないためか、一芸に秀でる傾向が強いらしい。お母様の解魔しかり。トバイアス様の場合は、それが移動魔法なのだそうだ。「行こうと思えば異世界にも行けます」と聞かされて、能力の高さに驚愕する。


「国外や異世界に出る許可はもらえなかったので、ひとまず今回はここで。絵の道具も持ってきたので、心ゆくまでどうぞ」

「いやっ!せっかくですから、まず二人で散策などいたしませんと!」


「絵を描け」と勧めるトバイアス様を説得してひとしきり二人で絶景を眺めながら歩き回り、良い場所を見つけてようやく絵を描き始める。


「…トバイアス様、そんなにじっと見られていると描きにくいのですが」

「すみません」

「私が描いているところを見るのは、おもしろいですか?」

「ええ」


「アイリシアはいつも笑顔ですから、真剣な顔が新鮮で。とても綺麗ですよ」という言葉に思わず真っ赤になる。


「トバイアス様!急にそんなことをおっしゃるなんて、ずるいですわ!」

「ずるいって何が…」

「とにかくずるいです!全然集中できません!」


この人は、狙っているのかしら。それとも無意識なのかしら。どちらにしても性質が悪いわ。

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