思わぬ再会
思い出作りに勤しんでいるとあっという間に日々は過ぎ、婚約発表の日がやってきた。国王ご夫妻の成婚20周年祝賀会だ。
先ほどから、王宮内に用意された私専用の更衣室で、着替えとヘアメイクを行なっている。トーウォール侯爵家からメイドを二人連れてきても良いと言われていたので、モーディとタリに来てもらった。王宮の侍女たちと協力しながら、支度を進めてくれる。
支度が進む横では、女官がひとり、今日の式次第を読み上げている。私も散々家で予習して頭に叩き込んできたが、最終確認だ。国王ご夫妻の挨拶、そのあとすぐに婚約発表、クレイト様とダンスを披露し、来賓からの祝辞を受ける…云々。読み上げが最後まで終わり、私は女官にお礼を言う。
「エレアさん、ありがとう。あなたの声が低くて落ち着いているから、私も緊張が少し柔らいできました」
「光栄でございます。この低い声を褒めていただいたのは初めてでございます」
「さあイベリスお嬢様、出来上がりました!」というモーディの声に、改めて鏡を見る。セトルスの国旗に使われている黄色と緑を組み合わせたドレスは、オフショルダーでAラインのシルエット。セトルス女性の伝統的な髪型をアレンジした、タリ自信作の編み込みアップヘアもドレスによく合っている。王宮の侍女や女官たちからは「お美しいですわ」「ええ本当に」と声が漏れる。
モーディ、タリ、侍女たちにお礼を言って、鏡をまじまじとみる。私は未来の王太子妃、そしていつかは王妃になるのだ、今日がその第一歩なのだという思いが湧いてくる。と、ドアがノックされてクレイト様が入ってこられた。クレイト様は王族だけが着用できる儀礼用の衣装だ。
「イベリス、とてもきれいだ」
「光栄でございます。クレイト様もいつもに増して、素敵でいらっしゃいます」
「ありがとう。キスしたいけど、化粧が崩れたら皆に迷惑をかけるかな。後にしよう」
モーディが「いくらでも、すぐにやり直します」と顔で訴えているので、つい笑ってしまう。クレイト様の「式次第を忘れて不安になったり、外国からの来賓の言葉がわからなかったりしたら私に言うように。常にそばにいるから」との言葉に安心して頷く。きっと大丈夫。
「行こう。大丈夫?」
「ええ」
サルトス国王陛下から私たちの婚約と、結婚予定が約1年後であることが発表されると、会場は大きな拍手に包まれた。お父様とお母様が寄り添いあって泣いているのが見える。アイリシア様、ビオネッタ様、スピードル様、カナカレデトロス様をはじめとしたクラスメイトたちも笑顔だ。隣を見ると、クレイト様の優しい微笑み。今日の光景はきっと一生忘れない。
会場中の視線を集めながら、そしてクレイト様に甘い台詞を囁かれながらダンスを披露し、終わって一息つく間もなく、さまざまな言語で祝辞の嵐を受ける。私は日常会話なら3カ国語、挨拶程度ならもう少し話せるが、わからない言葉も多い。隣で流暢にお話しされるクレイト様を見て、さらに尊敬の念が湧く。
挨拶が終わって一息つくと、「疲れたね」とクレイト様が飲み物をすすめてくれる。ようやくほっとしていると、国王陛下が壇上に立ち「もう一人、皆様にご紹介したい」とよく通る声でおっしゃる。
その隣には黒髪に穏やかな青い目の男性。髪がきちんと整えられていて、眼鏡もかけていないので以前とはかなり印象が違うが、間違いない。
「トバイアス様…」




