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侯爵令嬢の恋愛結婚  作者: こじまき
それぞれの幸せ
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栗色の影

婚約の正式発表までに小旅行へ出かけたいと考えた私は、お休みを利用して、お母様と一緒にパヴァロに一泊二日の小旅行にやってきた。


パヴァロはセトルス王国の古都。王都セトからは馬車で2時間ほどの、手頃な観光地だ。もうかつての王宮は城壁しか残っていないけれど、石畳の道や煉瓦造りの家の風情、夕暮れの美しさで知られている。


昔ながらの古い家が、レストラン、カフェ、雑貨店、土産物屋などとして使われており、新しい建物が増えてきたセトとはまるで雰囲気が違う。絵になるスポットがたくさんあり、街を散策しているだけでも楽しい。芸術家が集まる街として有名なのも納得だ。美的感覚が刺激されるのだろう。


パヴァロには、規模は小さいが質の高いコレクションで知られる美術館もある。お父様から「ぜひこの美術館は見ておくように」「お土産に収蔵絵画のポストカードを買ってきてほしい」と言われたので、初日の予定に組み込んで訪れた。


「お、お母様…あれは…ビオネッタ様とカラバス様ではっ!?」


美術館に入ってすぐ、思わぬ二人を目にしてお母様の袖を引っ張る。お母様も目を見開いて「まぁ」と言ったきり固まってしまった。カラバス様とビオネッタ様のデート現場に遭遇してしまったのだ。先日「一緒に外出しましょう」と話していたが、ここでデートだったのか。お母様が我に返る。


「イベリス。カラバス様のことだし、何か間違いがあってはいけないわ。あとをつけましょう」

「えっ!?お、お母様!あとをつけるだなんて…」


私たちは素晴らしい絵や彫刻には目もくれず、小声ではあるが楽しそうにお喋りして歩く二人の後ろをこっそり歩き続けた。当たり前だが、画家のカラバス様が絵について説明し、ビオネッタ様が聞き役のようだ。カラバス様はガイドが上手なようで、ビオネッタ様の笑顔が溢れる。


ビオネッタ様の笑顔、とっても可愛らしいわ。もしかして、カラバス様に惹かれているのかしら。あんなに年が離れているのに…


二人が美術館を出たので、私たちもそそくさと退館する。全然絵を見ていないので、入場料はまったくの無駄だ。「ミュージアムショップでお父様にポストカードを買いませんと」というと、そんな場合じゃない、急ぎなさいとお母様に引きずられた。


カラバス様とビオネッタ様は街のカフェで休憩している。少し離れた席に座って監視していると、ビオネッタ様に迎えの馬車が来た。カラバス様が、馬車に乗り込むビオネッタ様の手にくちづけて、二人は別れた。と、踵を返したカラバス様がこちらにやって来る。顔を逸らすが、もう遅い。


「これはこれは、誰につけられているのかと思ったら、ステラリリー様とイベリス嬢ではありませんか」

「えっ…気づいておられたのですか!?」


気づかれてしまったら仕方がないと、お母様がカラバス様に向き直る。お母様の緑色の目が、カラバス様を睨む。こんな厳しい顔のお母様は珍しい。


「カラバス様、あんな若いお嬢様を連れ回してどうなさるおつもりなの?」

「デートしていただけですよ。無理矢理連れて来たわけではありません。こんな明るいうちに帰しましたし」

「カラバス様のような百戦錬磨の殿方が若いご令嬢をデートに誘うのは、簡単でございましょうね。けれど真剣に将来を見据えてお付き合いする気がないのなら、おやめくださいませ。彼女のためになりません」

「随分厳しいことをおっしゃるのですね、ステラリリー様は」

「私はカラバス様のことも思って申し上げているのですよ」


お母様は、言おうか言うまいか少し悩んでから言葉を継いだ。


「影を追いかけても、決して捕まえられませんわ。意味は理解していただけますでしょう?」


私にはまるで意味がわからない。けれどお母様とカラバス様の間に流れる沈黙が、重い空気をはらんでいることは感じられる。


「…ええ。ステラリリー様のおっしゃっている意味はわかります。けれど、もう少し見守っていただけるとありがたいな。私は真剣ですよ」


「喧嘩をするつもりはないので、これで」とカラバス様が立ち去り、お母様は長い溜息をついた。私は今の会話の意味を聞きたいが、お母様が難しい顔をして口を開こうとしないので、待つことにした。


昔の貴族の屋敷を改装したホテルの部屋で一息つくと、「カラバス様が栗色の髪の女性と結婚離婚を繰り返しているのは知っている?」とお母様が私に聞いた。私は頷く。


「アイリシア様のお母様、デイジー様の髪も栗色なのよ」

「じゃあさっきの"影"というのは…」

「カラバス様はもうずっと長い間、デイジー様の影を追いかけているのよ。叶わなかった恋の影」

「そんな…じゃあビオネッタ様はデイジー様の身代わり…」

「カラバス様の気持ちはわかるのよ。私も失恋の痛みを知っているもの。けれど、いつまでも影に囚われていては、自分が幸せになれないばかりか、自分を愛してくれる人の幸せまで奪ってしまうのよ」


忘れられない人がいるカラバス様。そんなカラバス様とお付き合いしたり、結婚したりしても、ビオネッタ様はきっと幸せにはなれない。大切なお友達が悲しい恋に突き進んでいこうとしているなら、私は止めたい。

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