押しの強さ
学校がお休みの日、私は約束通りビオネッタ様と一緒に植物園にやってきた。写生の道具を持ったアイリシア様も一緒だ。
冬の植物園なんて、見どころはほとんどないでしょうと思っていたが、ビオネッタ様によると違うらしい。シモバシラを初めて見て感動し、メタセコイアの見事な紅葉に驚き、冬芽をまじまじと観察し、葉が落ちたことで見られる樹形に神秘を感じ、温室でほっこりして、かなり植物園を満喫してしまった。心から楽しんでいる私とアイリシア様を見て、ガイド役のビオネッタ様も満足げだ。
アイリシア様が良いスポットを見つけて写生中、二人で植物園内のカフェで休んでいると「ビオネッタ嬢、イベリス嬢、久しぶりだね」と声をかけてくる男性がいる。
「カラバス様!?」
先日、美術の特別講師として授業を担当し、ビオネッタ様をモデルに指名した画家のカラバス様だ。アイリシア様の父方の叔父様であり、彼女と同じ金髪にエメラルドグリーンの瞳の持ち主。私たちより20歳以上年上のはずだが、童顔で甘めの顔立ちのせいか、とても若く見える。
「カラバス様も写生に来られたのですか?」とビオネッタ様が聞くと「ううん、僕の専門は肖像画だもん」とカバラス様はあっさり否定する。
「ビオネッタ嬢に会いたくて来たんだ。植物が好きで毎週のように植物園に来ると聞いたから、ここにいたら会えるかなと思って。学校じゃ人の目もあるし」
アイリシア様から「カラバス様は栗色の髪の女性がタイプ」と聞いたことを思い出す。ビオネッタ様の髪は美しい栗色の巻き毛だ。ビオネッタ様を捕まえるために待ち構えていたのか。思わぬ展開、下心をあっさり見せるカラバス様に驚きつつ、私は久々に壁の花スキルを発動して気配を消し、ビオネッタ様の反応を窺う。
「私と会いたいと思ってくださるなんて光栄ですわ」
「そうだよ。もうね、あの授業以来ずっと、すごくすごく会いたかったんだよ。ねえ、今度僕とデートしてよ」
いきなり、しかもあまりに単刀直入な物言いに、私は壁の花であることも忘れて驚きの声が出そうになる。ビオネッタ様もかなり戸惑っているが、何とか持ち直した。
「カラバス様のような大人の殿方が、私のような小娘とデートしてもつまらないと思いますわ」
「してみないとわからないよ、お互いに。ね、一回だけ」
押し問答が続き、根負けしたビオネッタ様が「では一度、一緒にお出かけいたしましょう」と折れて、カラバス様はガッツポーズした。天性のコミュニケーションスキルを見せつけられた私は、「これは真似できない」と脱帽するほかなかった。
カラバス様が「このあと王宮で仕事があるから行くね。デート、楽しみにしてるよ!」とビオネッタ様の手にキスをして立ち去ると、私は壁の花スキルを終了して、ビオネッタ様に話しかける。
「驚き、というほかないですわ。カラバス様がビオネッタ様をお誘いになるなんて」
「ええ、私も」
「アイリシア様のおっしゃっていたとおりになりましたわね」
「本当にそうですね」
いつもは私よりビオネッタ様のほうが口数が多いのに、さすがに今は呆然としていらっしゃる。
「ビオネッタ様、どうなさるの?あのカラバス様の様子では、一回のデートでは済まないと思いますけれど」
ビオネッタ様は「そうですわね…お約束してしまったし、ひとまず一度デートしてみてから考えますわ。カラバス様だって、若い娘をからかって面白がっているだけかもしれませんし。そんな先のことより、今日この後、このことをどうやって両親に伝えたらいいかしら」と苦笑する。
そこへ写生を終えたアイリシア様が帰ってきて、話は立ち消えになってしまった。さすがに「叔父様にデートに誘われました」とは言えないだろう。それにアイリシア様はビオネッタ様に、カラバス様だけはやめておけ、と言っていたのだから。
ビオネッタ様とカラバス様のことはそれはそれは気になったのだけれど、家に帰った私にも、とあるお誘いが待っていた。クレイト殿下のお母さま、王妃アスターベル様からのお茶会のお誘いだ。私と母を招待したいとある。王妃かつ未来の姑に会うのだ。緊張しないわけがない。
すっかりビオネッタ様とカラバス様のことは頭から追い出されてしまい、お茶会に来ていく服や、髪型をどうするかなどを母やモーディと夜遅くまで相談しあったのだった。




