アイシリアは首を突っ込みたい
号泣しながらパーティーから帰ってきた私を見て、お父様もお母様もモーディも「私が何か王太子殿下に失礼なことをしてしまった」と思ったらしい。大慌ての家族と使用人を前に、私は、殿下からプロポーズされ、それを承諾したことを何とか話しきった。
「信じられない」「夢でも見ているのかしら」を連発した両親だったが、後日王宮から正式な使者が来て、ようやくこの非現実的な状況が現実だと、本当に理解した。
正式な婚約の発表が、2ヶ月後の国王陛下ご夫妻の成婚20周年祝賀会で行われること。
発表後、私は学校を休んで、王宮で王太子妃に必要な知識や振る舞いを身につける訓練を受けること。
結婚式は卒業の1年後に執り行うこと。
使者からは以上のような事務連絡があり、トーウォール侯爵家として準備すべきこと・ものや、決めておくべきことのリストを手渡された。
2ヶ月経てば、正式に王太子の婚約者。自由な行動はほとんどできなくなる。「やり残した」と後悔しないように、今しかできないことをたくさんやろう。ビオネッタ様やアイリシア様とお出かけしたり、休日を利用して小旅行にも行ってみたい。1日も無駄にはできない。
学校でも、今まで以上に勉強もお友達とのお付き合いも頑張ろう。
そう思っていると、「イベリス様」とアイリシア様に声をかけられる。
「昨日、使者がトーウォール邸に来られたでしょう」
「ええ。なぜご存じなの?」
「お父様から聞きましたの。ようやく実感が湧いてこられたのでは?」
「ええ、おっしゃる通りですわ」
「ところで」とこみあがってくる笑み…というよりにやつきを抑えきれないといったようでアイリシア様が続ける。
「もうクレイ様とはキスなさった?」
「…!!い、いえ…そ、そんな…」
「ええ?まだなの?ちょっとクレイ様、どうなってますの?」
アイリシア様は少し離れた場所にいたクレイト様を呼びつける。そう、今は私からは「クレイト様」とお呼びしている。最初は「クレイトと呼んでほしい」とおっしゃったのだが、さすがに呼び捨てはまだハードルが高すぎて、「クレイト様」に落ち着いたのだ。
「なんだ」
「イベリス様が、クレイ様とはまだキスもしていないっておっしゃるから。普通はプロポーズのすぐ後に、感情が高まって…じゃありませんか?ちょっと健全すぎませんこと?」
クレイト様は苦笑する。
「プロポーズのすぐ後、花火で邪魔したのは誰だ」
「それは…私たちですけれど。ジェスロ様が花火をあげるのが早すぎたのね」
「私のせいですか?私は合図通りに点火しましたよ」と不満げなジェスロ様まで会話に参戦する。他のクラスメイト達も、笑いをこらえながら私たちの会話に聞き耳を立てている。私たちのキスのことをクラスメイトで話し合うなんて、恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。
恥ずかしそうにしている私を見て、クレイト様が笑いと息を漏らす。
「私たちは私たちのペースで進めていくよ。アイリシアはちょっと口を閉じて見守っていてくれ」
「ね」とクレイト様は私に向けて頷いた。




