焦る王女
「イベリス様。今日の昼休みは何かご予定があって?」
声をかけられて顔を上げると、そこにはクラスメイトであるニトレマ王国第一王女のエピファラ殿下がいらっしゃった。南国らしい日焼けした肌、金髪に青い目の露出度高めの美女だ。立ち上がって礼をする。
「エピファラ殿下。いいえ、ございません」
「よかった。じゃあ私の私室で一緒に昼食をいかが?ぜひイベリス様とお話ししたいのよ」
「ええ、よろこんで。光栄でございます」
昼食は基本的に教室で食べるのだが、王族たちは学校内に用意されている私室で食べることもできるのだ。ちなみにクレイト王太子殿下は、「一人で食べてもつまらない」といつも教室で食べている。
ニトレマ風に設えられたエピファラ殿下の私室に通されると、昼食が運ばれてくる。
「殿下、お招きいただき光栄でございます。素敵なお部屋でございますね」
「ええ。ニトレマから運ばせたインテリアで統一しているのよ」
食べ始めてしばらくすると、「こほん」と咳払いをして、エピファラ殿下が本題に入る。
「先日、クレイ殿下と猫カフェにいらっしゃったそうね」
「ええ、さようでございます」
「それに、最近よく殿下とお話ししておられるわね」
「ええ、以前よりはお話しさせていただく機会が多くなっております」
やはりクレイト殿下のことだった。王太子妃の座を狙って留学してきたと噂のエピファラ殿下のこと、一緒に猫カフェに行った私が気になるのだろう。
すると、エピファラ殿下は立ち上がり、テーブルに置いてあった扇子を手に取り、テーブル越しに私の胸を突く。
「あなた学年が始まったときは、ほとんど喋らず目立たず教室の隅に潜んでいたじゃない。それがいきなり何?子どもができたらどうとかいう話までしちゃって。本気で王太子妃の座を狙っているわけ?」
ノーマークだった地味な私がダークホースになりかけていると、かなり焦っているようだ。
答えようがなく黙っている私を、エピファラ殿下は別の角度から攻め始める。
「ねえイベリス様。セトルスにとって、ニトレマは重要な同盟国よね」
「さようでございます」
「セトルスの王太子とニトレマの王女が結婚すれば、より同盟は強固になるわよね」
「おっしゃる通りでございます」
「クレイト殿下があなたではなくて私と結婚する方が、セトルスのためになるわよね」
「…ええ」
エピファラ殿下はようやく笑みを漏らし「じゃああなた、身を引くべきじゃないの」と言い放った。扇子をさらに強く私の胸にあて、くいと押す。痛い。
「地味で目立たないあなたが無理をして王太子妃になったとして、王族に必要な社交や外交ができるとお思い?見ていると、当意即妙の返しもできないのでしょう。あなたよりも、生まれながらの王族である私が嫁ぐ方がいいに決まっているわ。ここらでやめておきなさい」
確かに最初は無理をしてみんなに話しかけて…今でも言葉が出るのは遅いし、詰まりながら話すことも多いけれど…でも…
覚悟を決めて言い返そうと顔を上げたけれど、「セトルスの利益を考えることね。それからあなたの家族のことも。侯爵家ひとつくらい、取り潰すのは簡単よ」とまた言葉が飛んできて、黙ってしまう。お父様、お母様…
「わかったら、教室に戻りなさい。このことは他言無用よ」




