猫カフェデート
ついにこの日が来てしまった。殿下との待ち合わせは猫カフェ現地で11時だったのだが、興奮しすぎて5時に起きた。両親やモーディも同様で、お母様に至っては完徹だ。ビオネッタ様との外出とは比べ物にならないほど全員が興奮している。
みんなでそわそわしながら支度をし、服を何度も着替えてみたり、髪型やメイクを手直ししてみたりしてようやく馬車に乗る。家族や使用人でああだこうだ言いながら選んだのは、大き目の花柄がプリントされたブルーのドレス。髪の毛は編み込みを入れて低い位置でまとめてある。
回り道をして約束の10分前についたが、殿下はもう到着していた。
「クレイト王太子殿下、お待たせいたしました」
「…いや、私も今着いたところだよ。それにまだ待ち合わせの時間前だ」
殿下が答えるまで間があったので、どうしたことかと殿下の顔を見ると、「いや、学校でも皆クレイ殿下と呼ぶので、クレイトと呼ばれるのは久しぶりだと思ってね」とおっしゃる。「クレイ殿下とお呼びしたほうがよろしければ…」と言いかけると、「いや、本当はクレイトと呼ばれるほうが好きだ」と微笑みかけられ、鼓動がはやくなる。
「ところで、貴重な休日に、本当に迷惑ではなかったかな?アイリシアは幼い頃から強引なところがあるから」
「い、い、いいえ…迷惑だなんてとんでもないです。あの…私…殿下と二人でこのようなところに来られるなんて、大変光栄でございます」
迷惑どころか、アイリシア様には足を向けて寝られない。もしもアイリシア様が画家デビューしたら、どんなに高価でも、絶対に一枚は絵を購入させていただこうと心に決めた。
「で、殿下こそ、よろしかったのですか…」
「ああ。ひとりではなかなか来られないから、ありがたいよ」
さすがに王太子殿下がご来店されるので、店内は貸し切りになっていて、私たち二人とその護衛たち以外は誰もいない。思う存分モフモフできるわけだ。
殿下と二人きりだなんてもっと気まずいかと思ったが、猫と遊んでいると心が和んで、ご公務のこと、王家のことなど自然に会話ができる。学生ながら公務に真剣に取り組み、自分の役割や国の将来について考えを巡らせている殿下を尊敬する一方、ご立派すぎて少し遠い存在にも感じる。
私なんかが殿下の隣になんて、やっぱり変よね。全然釣り合わないわ…
少し落ち込みつつも、それでも、殿下がマルタのこと、アイリシア様やビオネッタ様のことなどに話をむけてくださるので、私もポツポツと話ができる。私の話を聞いてくださったり、学校で男子生徒のみが受ける授業で起こったおもしろいことなどを話してくださる殿下のリラックスした笑顔に、やはりときめく。
殿下がさきほどからモフモフ感強めの猫ばかり抱いておられるので、「クレイト殿下は毛の長い猫がお好きなのですか?」と聞くと、「そうだな。ふんわり感が…」と呟きながら、猫に顔をうずめる。学校ではいつも凛々しくてかっこいいと思っていたが、猫にとろけている可愛らしい殿下も素敵だ。心が緩んでいるからか、素直に言葉に出てしまう。
「いつもの凛々しい殿下も素敵ですが、可愛らしい殿下も素敵です」
「ありがとう。イベリス嬢も柔らかい笑顔がとてもいい」
褒められて恥ずかしくなって目をそらし、ふと護衛たちに目をやると、一人がかなりグラグラきている顔をしている。思わず笑ってしまい、「護衛の方が、猫を触りたそうにしていらっしゃいますわ」と伝えると、殿下が「リロイ、猫が好きなのか?」と質問する。護衛が頷くと、「少しなら、任務を離れて猫と遊んでいいぞ」と殿下が笑いながら許可を出した。
「よくリロイの表情に気が付いたね」
「偶然ですわ」
「本当にそうかな。学校でも、クラスメイトはもちろん、給仕係や用務員などのことをよく見ているなと思っていたんだよ」




