殿下が好きなもの
ところで、クレイト殿下と話すきっかけを探そうにも、手詰まりになってしまった。学校での殿下は全てにおいてパーフェクトで、偏りも隙もなく、プライベートが窺い知れない。何が好きで何が嫌いなのか、いまいちよくわからないのだ。
「アイリシア様に伺ったら、殿下が何をお好きかわかるのかしら…」
考え事をしようと立ち寄った図書館。いつもの席でため息と一緒に小さな独り言が漏れる。でも、アイリシア様が殿下のことをお好きなら、ライバルになり得る私においそれと教えてはくれないだろう。
私なんかがライバル…今おこがましいことを考えてしまった…
二人の仲睦まじい様子が蘇って、心がチクチクと痛む。
淑女らしくもなく、頭を抱えて「うーん」と唸っていたらしい。トバイアス様が近づいて、声をかけてくれる。
「イベリス様、何かお困りごとですか?」
「トバイアス様!ええ、そうですの。でもこれはトバイアス様でもきっと解決できないことなのです。自分で何とかしないといけないのですが…」
トバイアス様はいつものように優しく微笑んで、私の耳元に口を寄せて、「王太子殿下が関心をお持ちの分野なら、お調べできると思いますよ」と囁く。驚いてトバイアス様の顔をまじまじと見ると「独り言が聴こえてしまって」と笑われた。
トバイアス様はよく私の独り言を聞いている。私はそんなに声が大きいのだろうか。それともトバイアス様は、地獄耳になる魔法でも使えるのだろうか。
「少しお待ちください」と言われて席で待っていると、トバイアス様が本のタイトルがずらっと並んだ何枚かの紙を持ってきた。
「ここ最近、王太子殿下が図書館を通じて購入された本のリストです」
「まあ…!確かにこれを見れば、何に関心をお持ちなのかわかりますわね」
こんなのは掟破りではないだろうかと思ったが、他に手がないのだから仕方ない。いただいた本のリストを見ると、政治、経済、軍略、外国語、国際情勢、法律、魔法など、王太子として身につけるべき分野の本がやはり多い。学校とは別にこんなに勉強しておられたのだと、ますます尊敬の念が増す。
その中に異質な本が…
「猫の絵画集?」
「そうですね…この絵画集はシリーズものですが、新作が出るたびに購入されていますね」
トバイアス様がリストをめくりながら「よほどお気に召しているようですね」と呟く。私も家でマルタと名付けた猫を飼っており、猫は大好きだ。殿下が猫好きとは意外だったけれど、共通の話題となりそうで胸が高鳴る。
王族が購入した本は、必ず図書館でも同じものを一冊は購入するらしい。棚にあった絵画集数冊を借り、馬車の中でページをめくりながら屋敷に戻った。
が、翌日学校で私は途方に暮れてしまった。殿下が猫好きなことはわかったが、今までろくに話したこともない私が、いきなり「殿下は猫がお好きなんですよね?」「私もあの絵画集を見ました」と話しかけるのは変ではないだろうか。いや、絶対に変だ。
殿下を眺めながら思案していると、ビオネッタ様が小声で「きっかけ、見つかりましたの?」と聞く。答えようとしたとき、アイリシア様が通りかかった。
「あら、ヒソヒソと何か悪だくみかしら?おもしろそうね、私も仲間に入れてくださいな」
「アイリシア様…!いえ、何も悪いことは…」
「じゃあ何ですの?クレイ様のこと、チラチラ見て…あ、まさかイベリス様はクレイ様狙いなの?」




