帝国の若き女指揮官
リザレクト・クラウンは、狭い狭い一軒家を突貫工事で無理矢理リフォーム改修し、なんとかギルド風味に仕立て上げた築70年の2階建てオンボロハウスだ。
リアリストのヴェインは占いなどを全く鵜呑みにしないが、帝都界隈の地図の端っこに辛うじて記載されている地方の田舎村の、さらにドンヅマリの端っこに居を構えたこのギルドは、あまり繁盛しそうにないことだけは確実に予言できた。
客足も、週に1、2回扉が開けばマシな方だった。
ポンネア村は帝都に比べると凶暴なモンスターの絶対数がそもそも少ないし、開催される討伐クエスト数も少ない。よって、金を稼げない土地には冒険者は興味を抱かない。
「稀にあったとしても、スキルの力で大幅強化された敵が相手となる。北部地域特有の事情がどうも分かってないヤツラが多すぎるんだよなー。来てくれるだけ有り難いけどさ」
だからこそ、来る者は拒まず、どんな相手も丁重に出迎えなければならない。
馬車送迎に数日かけて都会まで出向き、相場の倍の金貨でライセンス所有者を招聘することもザラで、家計はいつも火の車。
収入と支出のバランスが釣り合っていないお寒い台所事情だった。
「………ハァ~。ヒマだなぁ」
仕事が一段落し、やることがない。
ポッカリあいた心の空洞を埋めるようにいつもの口癖を呟くと、ヴェインは気晴らしに先ほどロゼッタに貰った画用紙を広げて見る。
その絵には、この借家の間取りが大雑把ながらも正確に写し出されていた。
3つの区域を壁で仕切る部屋割りの構成は、ひとつはギルド受付、ひとつはレストラン、残りのスペースがヴェインらの住居となっている。
1階のレストランにはキッチンの横に冒険者をもてなす四角い木製テーブルが5つ用意されていて、それぞれに椅子が4脚ずつセットされている。
ヴェインはそのひとつに近づいた。
そこでは、果敢にも次なるお絵かきテーマに没頭している最中のロゼッタと、その幼い少女を母親が慈しむような眼差しで見守るサーシャが並んで座っていた。
ロゼッタが一心不乱に向かっている画用紙には、なにやら丸まった小さなヘビと格闘中のヴェインと、荷馬車でサンドウィッチの弁当箱を膝に抱えて待機しているサーシャがラフスケッチされている。
絵の登場人物にはそれぞれ、パパ、ママ、との愛らしい丸文字も添えられていた。
一旦お絵描きモードに突入すると、ロゼッタは彩色までの作業が一段落つくまで手が止まらなくなることは承知している。
ヴェインはテーブル席の余った椅子をひくと、1コ年下のサーシャに話しかけた。
「その絵だが、太めの縄をサイズダウンした弱そうなヘビは、もしかして今日のオロチじゃあるまいな。まるで、俺が庭に出没した害虫を駆除したようなスケール感だな。せっかくの死闘が台無しだ」
「ロゼッタに私たちのオシゴト内容を伝える際、多少の脚色は当然です。ヌメヌメした巨大な8本首の魔物とヴェインさんが戦ったとありのままに告げたら、幼い彼女が怖がるではないですか。まだほんの7歳なんですよ」
「まーな。それはそうと……サーシャは、その年齢でママと呼ばれて嬉しいものなのか? 16歳と7歳なら、姉妹でも通用するのにさ」
「モチロンですとも。カワイイ可愛いロゼッタに慕われて、私は日々幸福感に包まれています」
「ふーん。それはそうと……サーシャがママで、俺はパパと呼ばれると、なんだか見方によっては俺たちが結婚した夫婦みたいに受け取られかねないよな?」
「い、イヤラシイ表現をしないでくださいヴェインさん! 不潔です!」
「おぉ……スマンな。単なる暇つぶしの雑談だったんだが、そんなに新婚扱いが嫌だったのなら可及的速やかに撤回して謝罪しよう」
「い……嫌とは言っておりませんッ。むしろ――!」
急に目を見開き、弾かれたように椅子から立ち上がるサーシャ。
大人しい彼女にしてはアグレッシブな動作に驚いたヴェインは、ポカンと口を開けて見上げる。
「……むしろ? なんだ?」
「い、イエ……なんでもありません……。口が盛大に滑りました」
今度はストンと腰を落とし、サーシャは椅子に深く沈んでしまった。なぜだか、彼女の頬が赤らんでいた気がする。
「ど、どうした? 遅まきながら、沼で吸い込んだオロチの毒で熱を発症したかッ? 感染症を甘くみてはイケないぞ」
「…………。愕然とする勘のニブさに敬服いたします。ウラギリスキルがレベル1に戻ると、その辺りの能力値も低くリセットされてしまうのでしょうか」
「ン? なんのことやら……」
「……もうイイです」
奇怪な上下運動を連発し、足をジタバタさせて悶絶し俯いてしまったサーシャを医者に連れていくか逡巡したヴェインが狼狽えていると、背後の玄関に通じる門扉が開く音で思考が遮断される。
「お? 誰かウチに来たか」
ヴェインが振り向くと、外からギルドの看板をくぐって歩いてくる2人分の足音が、築70年の床板を伝わって聞こえた。
どうやら新規の顧客らしい。
「オイオイ、珍しいな。今日だけで2組目の冒険者だぜ。まるでウチが繁盛してる大手ギルドみたいじゃないか。なぁサーシャ」
「ええ。でも、よいではないですか。忙しいのは、閑古鳥が鳴くよりよっぽどマシですよ。今度はきっと、素敵な出逢いが待っているハズです」
「だな。気合い入れて、丁重にオモテナシしてやるかな。確か、キッチンの棚に贈答用の菓子があったっけ」
心機一転。期待に胸をふくらませたヴェインは、対外用の柔和なスマイルを顔に貼り付けて席を立つ。
しかし――、
「いらっしゃ――イぃっ!」
ヴェインの声が来客への挨拶の途中で裏返る。コチラより先に、向こうから物凄い形相の女が凄まじい剣幕で怒鳴りつけながら入室してきたからだ。
せっかくのスマイルが、音をたてて一瞬で瓦解する。
そしてそもそも、ギルドに訪れた女は客ではなかった。
「ちょっとヴェイン! 背信者・ヴェイン=マグナス! アナタ、一体どういうツモリっ!」
登場して早々、とても目を引く燃え滾るような赤い髪と、怖いくらい整いすぎた美貌の年若い女が、玄関扉を蹴破るような勢いそのままに、ドカドカと接近してきた。
老朽化した扉の蝶番と床が、そろって軋みをあげる。
――エクセリアだ!
特徴的な灼熱の赤色に気付いたヴェインは、脊髄反射で椅子の上に立って高所から仲間に指示を送る。
「軍のガサ入れだ、みんな用心しろッ! ――サーシャ!」
「ハイっ」
言われる前にメイドエプロンを腰で結んだサーシャが、ポットとカップのティーセット一式を抱えて颯爽とエクセリアの下へ向かう。
「と、遠いトコロからご苦労さまで御座います軍人様。まずは温かいお茶でも……」
「結構よ。アタシは喉が渇いたからカフェに寄ったワケじゃないわ」
「す、スミマセン……」
開口一番、オモテナシをピシャリと撥ね付けられたサーシャが怯む。
――ば、バカ!
いきなり対応を誤ったのか、ピリピリムード全開で仁王立ちした訪問者相手に弁解するヴェイン。
「コレはコレは……超偉い大物エリートに安物の茶葉など失礼じゃないか。ポンネア村付近を統治する第27管区派遣部隊のナンバー2、エクセリア副司令官殿だぞ。やっぱ長旅で疲れた身体には甘いジュースが一番だよな」
サッと恭しく別のグラスを渡すと、エクセリアは2連発の押しのしつこさに負けたのか、目の前に差し出された飲みモノをつい受け取った。
「どうだ、美味いよな。果汁100パーセントだぞ。なんなら角砂糖も100個追加するか?」
「え、ええ。柑橘の爽やかな酸味と香りが、荒んだ心を癒してくれる――って! 渋いお茶がイヤだから断ったんじゃないわよ! オコチャマ舌扱いしないで、ヴェイン!」
「――な、なんだって! 時間的にテッキリ、ガキんちょが15時のオヤツをたかりに来たのかと。史上最年少の若さで帝都軍の将官クラスに就任した実績は伊達ではないな」
「そろそろアンタが一番人を小バカにしてるって自覚しなさいよ。今日はギルドの抜き打ち査察で訪れたワケじゃないの! アタシの格好をよく見なさい!」
そう高らかに宣言し、下着姿のうら若き女が堂々たる立ち姿で、ファッションモデルのようなポーズをとった。
「……は? 下着?」
そういえばこの違和感。思えば、最初の挨拶の途中でヴェインの声が裏返った理由を再考察すれば、エクセリアがほぼ全裸の肌色率なエロすぎる格好で現れたからだった。
度肝を抜かれて、つい妙なオフザケが過ぎてしまった。
「そういや……なんで服を着ていないんだ、エクセリア」
同年代と比べると長身の部類に入る彼女は、ほぼ産まれたままの雪化粧を施したような美麗な体躯を惜しげもなく晒し、順調に育ちつつある胸のふくらみと股間を辛うじて覆う純白のブラとパンツはお揃いの高級ブランド品で、その中間点にはうっすらと鍛えられた腹筋が盛り上がった完璧なスタイルで……、
ヴェインがまだ感想を続けようか迷っていると、エクセリアは己の破廉恥な姿にようやく思い至ったらしく、慌てふためいてザ・女性な前半身を両腕で抱いて隠す。
「ちょ、ちょっとジロジロ見ないでよヘンタイ! なんでアタシの裸を穴があくほどガン見してるのよ!」
「おまえがよく見ろって言ったからだろ。いまさら理不尽すぎるわ」
「違うわよ! アタシが裸で外を歩くハメになった理由をよく探せって意味に決まってるでしょ馬鹿ヴェインっ!」
エクセリアが胸に腕を寄せて隠したせいで、柔らかな極上肉が押し潰され余計に谷間が強調される。彼女の恥ずかしそうな表情と相まって、不埒な背徳感がハンパない。
――ふ、ふぉぉッ……!
彼女の謎すぎる行動と興奮で血圧が上昇し、鼻の辺りがツーンとして眩暈にフラついてしまう。
流石にいろいろとムズ痒い感情に陥ったヴェインがエクセリアの艶めかしい肢体から目線を逸らそうとすると、彼女の背後にチョコマカと動くモノを発見した。
「ん?」
ヴェインがエクセリアの尻を覗くように回り込むと、そこには見知ったギルドの仲間の一人がムスっとした顔で俯いていた。
「コレット? コレットじゃないか? どこほっつき歩いてたんだよ、無断外出は規則違反だぞ」
星柄が散りばめられたファンシーなローブのフードをかぶったコレットに話しかけようとするヴェインを手で制し、エクセリアの怒鳴り声が一層激しさを増す。
「そうよ! このチビ助よ! アタシの指揮官軍服をスキル魔法で焼き払った犯人は! 仲間の失態をどう責任とってくれるのかしら、ヴェイン=マグナス!」
「エェ……またやったのか……」
「そう、またよ! マタの意味分かる? アンタのギルドの一員が、接近が固く禁じられている軍の施設に不法侵入を試みたあげく、丁寧にお引き取り願ったアタシに対していきなり実力行使してきたの! もう4度めよ、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだわ」
「そう、なのか……。さっき外から聞こえた2人分の足音は、逮捕したコレットをエクセリア少尉殿がギルドまで連行したからか」
「ようやく事態が呑み込めたようね。現在、国の新条例制定によって、スキル保持者はひとり残らず軍の保護監督下に置かれている状況なの。そして、ポンネア地区の担当保護官は、このエクセリア=リヒテンヴィッツが務めているわ。そんなアタシに逆らって反旗を翻すなんて、正気の沙汰とは思えないのだけど?」
エクセリアは尻の後ろに手を伸ばすと、そこにあるローブの首根っこを掴んでヴェインの前に差し出した。竿に干された洗濯物みたいに、コレットが宙吊りになった。
彼女の腕力で軽々と持ち上がるということは、つまりコレットはその程度の体重しかない幼い子供であり、エクセリアの尻の高さしか身長がない証左でもあった。
コレットは、ロゼッタと双子の姉妹なのだ。
半年前。同じ場所で滅びの蒼光を浴びたにも関わらず、一方は失明し、もう一方はスキルに目覚める両極端な結果のフラン家の姉妹だ。
「アンタたちのギルドは、血の繋がりこそないけど家族同然の結束を固めているんでしょ? でも、自分の子供の面倒も満足にみられないなら、保護者を気取るのは止しなさいよ。そこの双子ちゃんの片割れみたいに、大人しく座ってお絵かきさせていればイイものを……」
「スミマセンっ、ほんとうにスミマセンでしたっ!」
チクリと刺された苦言に対し、全力で詫びるサーシャにコレットが返却されると、子供を抱きかかえた母親がテーブル席に下がる。
そこには、同じ年齢の、同じ背丈の、同じ顔の金髪女の子が並んで座っていた。
そしてようやく本日、リザレクト・クラウンの設立初期メンバー4名が勢揃いした瞬間でもあった。
ヴェイン=マグナス、17歳。『ウラギリスキル』保有
ロゼッタ=フラン、7歳。スキルなし
コレット=フラン、7歳。『破壊の歌姫』保有
サーシャ=???、16歳。スキルなし
「…………ハァ」
癖が強く扱いづらさも群を抜くギルドメンバー達をズラリと順番に眺めたエクセリア=リヒテンヴィッツ帝国軍少尉兼・ポンネア地区スキル対策筆頭担当官は、ゲンナリした内面を隠そうともせず、横に立つ男に話しかける。
「ヴェイン」
「なんだ? エクセリア副司令官殿」
「スキル持ちの人間が、帝国軍に警戒されている現状は知ってるわよね? 600年に渡る統治期間、剣と騎兵が主戦力だった世界の軍事情勢に、いきなり未知なる現象で後天的に途轍もない力を与えられた魔物やら人間が出現したら、上層部は謎が解明されるまで安心できないの。力の源泉はドコだとか、首謀者がいるのかとか、まだまだ分からないことだらけ……。ヴェインだって、自分のスキルを完璧に把握してると胸を張って言える? 扱いを量りかねているのが正直じゃない? 当人以外なら尚更パニックを起こしたり、軍の過剰な反応は恐怖の裏返しなのよ」
「そう、か……。一理あるし、重々承知もしているが、おかしな話だよな。権力側が今の安寧秩序を維持したいからって、起きてもいないクーデター計画に怯えて俺たちを準監禁して閉じ込めり……。不当に圧力を加えたら、反発喰らっても文句いえないだろ?」
「国が保守的なのは認めるわ。『厄災の滅光』の突然変異に評議会のお偉方の思考が追い付いていないの。基本、昨日と同じ今日を過ごしたいのよ。でもね、おチビのコレットみたいにスキル魔法を使って闇雲に暴れられると、スキル持ち即ち要注意人物という建前論が補強されて弾圧が厳しくなるだけよ。実際問題、あの力は厄介すぎるの」
「たしかに……。器用にエクセリアの軍服だけを剥ぎ取るのは、結構難易度高めで厄介だよな」
「ヴェイン……。貴方、シリアス雰囲気になると死ぬ病気でも患っているの?」
「スマンな」
ヴェインは神妙に謝罪するも、笑いを堪えるだけで精一杯だった。
ほぼ全裸の同い年の女が、クソ真面目な顔で国内政局を語っているこのギャップ感たるや……。
一度ミスマッチに気付いてしまったが最後、他の内容が頭に入らなくなるのは仕方なかった。
そして、ヴェインとエクセリアの関係も、いわくつきの浅からぬ因縁が存在していた。
この二人、実は最近出会ったばかりの間柄ではない。帝都ブロウディア軍の幹部候補養成学校時代の同級生でもあった。
卒業を間近に控えた去年の冬、北方離島の田舎に一時帰省していたヴェインは、たまたま海岸沖で『――厄災の滅光――』に遭遇。
全ての歯車が狂った。
強制隔離。敵性人格の烙印。
士官学校の卒業試験を受けさせてもらえず、軍の入隊資格を永久剥奪された。
書類上の処理は、本人都合による自主退学。
スキルに目覚め、モンスターと同等の化け物扱いされた417期生組のヴェイン。
片や、栄光ある主席卒業者の名誉を授かった417期生組の出世頭、エクセリア。
監視する側とされる側。この筆舌に尽くし難い対極構造での再会を、誰が想像できたであろうか。
ヴェインに恨みの感情はない。ただほんの少し、虚しいだけだ。
おくびにも出さず、赤髪の少女との会話を続ける。
「コレットの固有スキル『破壊の歌姫』だっけか。攻撃特化型の詠唱魔術の亜種だ。それで服がボロボロに燃やされた割りには、肝心の肉体には焦げ跡ひとつ残っていないよな。だから俺は、エクセリアがギルドに乱入してきた瞬間は、水着姿の女が海の家と間違えたんだと勘違いして焦ったのなんのって。思わず南国リゾート気分を演出しようと、特製トロピカルドリンクを出してしまったんだ」
「あの柑橘ジュースに、そんな深い意味が込められていたとはね……。いっそアタシも、コレットの炎熱スキルでこんがり小麦色に日焼けでもした方がよかったかしら? 陽気なバカンス感に拍車がかかったかもね」
「ははははは。軍隊育ちにしては、気の利いた面白いジョークじゃないか」
「フフフ……」
エクセリアがあからさまに脱力し、肩肘張った怒りの拳を下げる。堅物なイメージの軍人像からは想像できない砕けた物言いに、ヴェインも白い歯をこぼして笑う。
互いに目を見合わせ、笑いあう。
「見てよヴェイン。アタシの格好ったら、怒ってる場合じゃないわよね、ふふふ」
「そうだな。ブラジャーにパンツ一丁で外をうろつくとか露出狂かと――イテぇ!」
軍人らしからぬ柔らかな微笑みのエクセリアによる、軍人そのものな腰の入った痛烈な蹴りがヴェインの尻に炸裂し、悶絶する。
少し、からかいが過ぎたのかもしれない。
「うふふ……どうしたのかしらヴェイン、急に情けなく蹲ったりして。ご自慢のウラギリスキルで最高レベル75まで到達した覇者級の戦闘力なら、アタシのキックなんて楽に回避できると思ったけど」
「し、知ってるだろ、軍のスキル担当官ならよ。俺のポンコツ能力はリセットされるんだよ」
「あらあらゴメンナサイ、てっきりアレは謙遜かと。じゃあ、士官学校の歴代記録を悉く塗り替えた、武芸全般に秀でたかつてのエース様と呼ぼうかしら?」
「だから、覚えちゃいないんだって。全部ぜーんぶ、リセットされるんだよ……」
無様に床に転がったヴェインは、優しげな口調で手を差し伸べるエクセリアの顔を見上げる。目の奥が笑っていなかった。
調子にのらないでよ。彼女は全身で、そう主張していた。
ごもっともだ。
そうヴェインは思った。この報いは当然の帰結かもしれない。
エクセリアが下着一丁のあられもない姿で大股開きしたアングルを、ヴェインは複雑な心境で見上げていた。